適応
「では実際に使ってみると良い。ここから真っ直ぐ上がれば君が入ってきた岩窟近くに出るはずだ」
「あ、現地解散ですか?」
まさかの渡した能力を今使って自力で帰れって事?
「まずは使ってみるのが一番分かりやすいだろう?」
「それは確かにその通りですね。使ってみます」
実際に使って地上に帰る。それが性能を調査するのに丁度良いのかもしれない
「ではこの結界を解くぞ」
「了解です。【アダプタン】」
【耐圧】の方は勝手に発動するし、実際に使用すると言えるのは【アダプタン】の方だけだ
「おぉ……」
【アダプタン】を使用したら体に鱗の様な模様が所々出てきた。これが少し適応するって奴か。見た目の変化は模様が薄っすら出る程度だから外見が大きく変わらないのは嬉しい。外見が変わるとそれに体を合わせるのも時間が掛かるし……
「体に感じる水圧がかなり軽く感じる!」
どうしても締め付け感は完全には無くならないけど、ワンサイズ小さい服を着ているくらいの感覚だから戦闘は出来なくはない。しかも適応のお陰か水の中を泳ぐスピードも速くなった気がする。これはかなり凄い魔法じゃないか?
「魚人化の魔法であればもっと良かったんだがなぁ……」
上に向かって泳いでいく間に最後に薄っすらとあの声が聞こえたけど、魚人化をずっと推してくるねぇ?これの締め付けが完全に無くなるのが魚人化なんだろう。だけど、僕はこれで充分満足出来る
「凄いな……これアビスフォームの時より泳げてる気がする」
触手泳法で海の中を泳いでいた時より泳ぐ速度が上がっていると思う。これなら海底都市から出ても少しは活動出来るんじゃないかな?
「あとちょっとだ」
上に向かって泳ぎ続けたけど、減圧によって内臓が飛び出る……なんて事も起こらずに、無事に後少しで陸地に到達出来そうな所までやって来た。あとはこのまま陸上に出れば無事実験も終了だ
「「あっ」」
海面から顔を出したら丁度釣りをしていたトーマ君と鉢合わせた。こんな事もあるんだなぁ……
「トーマ君、海で釣りしてたんだ」
「はい、ハチさんこそいったい何を……?」
「ちょっとダイビングをね。何か大物は釣れた?」
海の中から顔だけ出している僕と岩場で釣りをしているトーマ君。何か凄い状態だな?
「大物らしい大物は釣れてないですね。強いて言うならハチさんですか?」
「僕かー」
針には喰い付いてないけど、この状況でトーマ君と話をしないのは何か違う気もするし、陸に上がって会話するのはある意味当然の流れかな?トーマ君に釣られクマー
「ハチさん今凄い事になってますよ?ハチさんを探すクエストが発生してます」
「へ?僕を探すクエスト?なにそれ……」
何かそんな指名手配になる様な事したっけ……?
「何でも、サーディライの城主のリリウムさんがダンスパーティに参加して消えた執事を探しているらしいんですが、その特徴が全部ハチさんに当てはまっているんですよね。それで連れて行った方が良いんじゃないか派とハチさんの自由にする派で分かれているみたいです。ほぼ9割はハチさんの自由にした方が良い派ですが……報酬が結構な額になっているので、強引に連れて行こうとする人は……まぁ居ませんが」
「あっ、居ないんだ……」
クエスト達成の為ー!って強引に連れて行こうとはならないのはありがたいけど、リリウムさんに目を付けられてしまったとなればあの作戦は失敗だったか……
「そりゃあ強引に連れて行こうとしたらハチさんと戦闘になるのは当然の流れかと」
「まぁ急に連れていくとか言われたらそれは抵抗するよね」
勿論相手の意見を聞かないのであれば痛い目にあっていただくが
「なので、街に行くと話しかけられる可能性が高いので一応ハチさんはその辺気を付けてください。メッセージを飛ばしたら空島にも来なくなるんじゃないかとハチさんのフレンド内の暗黙の了解みたいになってて誰もハチさんには伝えていませんでした」
あぁ、そんな情報貰ったら流石に雲隠れしないといけないかもと思う。もしくは空島に居るプレイヤーを全員締め出すか、そんな状態になっているのならいっその事こっちから出向くか?
「うーん、やっぱりレベル上げが終わってからにしようかなぁ……」
星座魔法関連の情報とかルクレシアさんのその後とか、気になる事は海の向こうにもある。それに引き換えたらリリウムさんの方は正直僕にとっては欲しい情報とか何かある訳では無い。優先度で言えばリリウムさんの方は下だ
「情報ありがとうトーマ君。とりあえずそのクエストは放置するよ。僕はレベル上げしなきゃいけないからね。そういうのに今は構ってられないや」
「分かりました。ハチさんの事は黙っておきます」
「やっぱり理解のある友達が居ると助かるなぁ。何かお土産でも取ってこようか?」
トーマ君の為に深海で何か素材を取ってくるくらいはしても良いな
「お土産って……何処に行くんですか?」
「ちょっと深海にね」
「えぇ……」
「流石に深海なら誰もついて来れないでしょ?」
「いやまぁそう……うぇ?」
何か言いたそうだけど、言葉が見つからないって感じのトーマ君。まぁ、普通に考えたら深海に行ってレベル上げとか何言ってるんだって話か