仕掛ける
「城主も凄いがあっちも凄くないか?」
「あっちの方も凄いぞ?」
踊りながら周りの様子を確認してみるとダンスホールの数か所が盛り上がっている。よーく見てみるとロザリーさんとアイリスさんのコンビとキリエさんとキリアさんのコンビが踊っていた。ロザリーさんとアイリスさんのコンビはまさしく見本や手本という様な流麗なペアダンスでキリエさんとキリアさんの方は少し激しい目の創作ダンスっぽいな?
(このままだとちょっとマズいですね……)
(ん?何がマズいんだい?)
(今のままだと踊るのを止めて踊れている人を見る方にシフトする人が多くなるかもしれません。そうなると必然的に僕達は段々注目されていってあの城主にいずれ見つかります)
(なら、適度な所でダンスを止めて食事をしている人に紛れるかい?)
(そうなると多分、城主がこっちにやってくると思います)
ダンスを止めたら多分あの城主がやってくる。逃げられないんじゃないかこれ?どうにか3人に増えたリリウムさんが他の人と踊っている間に上手く人混みに溶け込む必要があるな……
(それにいつまでも踊り続けるのは正直得策では無いかもしれません。周りの目が……)
どんなダンスでも対応できるように様々なペアダンスを覚えてきた。そして今の所ダンスは全部対応出来ている……のだが、周りの人達はそうでは無かった。曲調が変わって対応出来ない人、料理を出された事で興味がそっちに行った人、踊る人を見る人。そうやって少しずつ踊る人が減っていくと踊れている自分達にも注目が集まってくる。勿論その注目にはリリウムも含まれている。注目している状態で踊るのを止めたらそれこそ、ここぞとばかりに寄ってくるかもしれない。現にロザリーさんとアイリスさんが曲の終わるタイミングで一度組むのを止めて、料理の方に向かいながらも周りを見回している。誰か探している様にも……ん?もしかして僕か?ちょっと待って?城主にバレないだけじゃなくてあの2人にもバレないようにしなきゃダメじゃないかこれ?
(ごめんなさい。もしかするともっとヤバいかも……)
(え?)
(僕達が見つかっちゃいけないのは城主だけじゃないって事です。あの2人も僕の事を探してるかもしれません。この前、アイリスさんにダンスパーティーに一緒に行きませんかと言われて、先約があるので断りますって言ったんです。僕だったら誘おうとした相手が先に約束してるって言われたら諦めますが、同じ会場に居るのならどこかに居るかなと探すかもしれません)
一緒では無くても同じ会場に居るのならそのくらいはするだろう。何か隠したい事でも無ければだが……
(それ確実に会場でハチ君を探すよね?)
(はい、だからこうなったらどちらか選んだ方が良いと思うんですよね。城主に男とバレるの覚悟で接近するか、僕達の存在がバレるの覚悟でロザリーさん達に話しかけるか……今ならまだどちらにも行けます。動くなら今しかないかと)
自然にステップを踏みながらどちらかを選び、近寄って会話をするのが良いと思う。ロザリーさん達に話しかけてリリウムさんが話しかけられないようにするか、逆にこっちからリリウムさんに声を掛けてさっさと何か貰える状態にしてしまうか選ぶべきだろう。正直楽になりたい
(今ならまだロザリー達にはイベントキャラに思われるかもしれないからそっちの方が良いかもしれないな。それでいいかい?)
(正直危険性はどっちも同じくらいだと思うので、僕もまだイベキャラと勘違いしてくれる方に賭けてロザリーさん達の方に行った方が良いと思います。それじゃあ行きましょう)
怪しまれないように少しずつロザリーさん達に近寄って行く。アイリスさん結構キョロキョロしてるし、絶対に誰かを探している気しかしないから接近すべきでは無いかもしれないが、そこはもう演技とかで何とかしよう
「あら、ごめんなさい。大丈夫だったかしら?」
「すみません、ぶつかってしまいました」
「いえ、こちらこそぶつかってしまってすみません」
「大丈夫……でしたか?」
とりあえず軽く肘同士をぶつける様な形で接触してみた。これでとりあえず接触は出来たから会話に繋げられたな……ただアイリスさんがガン見してくるのが怖いよぉ……
「流石にそろそろ踊り疲れてしまいました……」
「そうね、いつもはあまり外に出ないものね。何か軽く食べましょう」
「私達もそうしよう。アイリスもそれで良いか?」
「はい、私も少し気になる事があるので……」
アイリスさんの疑いの目が怖い。これバレてない?大丈夫だよね?
「次は私と!」
「お願いします!」
「こんなに求められるのは初めてだ!とても嬉しいが、流石に一旦休憩させてもらうよ?美しき華達と更に踊る為にね」
何だと!?リリウムさんまでこっちに来たぞ!?
「やぁやぁ、君達の事は最初に見た時にどうしても話がしたいと思っていてね?料理を食べながらどうだろうか」
くっ……もしかして入城の時に既に目を付けられてたか。最初から逃れられない運命だったかもしれない
「……ええ、リリウム様の事も知りたいですし、構いません。そこのお二方もどうですか?冒険者のお話とか聞いてみたいです」
こうなったらこっちから話の主導権を握っていくしかない
「ユイはあまり外に出ないから冒険のお話とか聞かせてくれないかしら?私はミラよ」
ミラを演じているハスバさんも僕の狙いを分かってくれたか、しっかりと話の主導権を握る為に、サラっと自己紹介をしながら話の主導権を握りに行く。何だか頼もしいぞ?
「冒険のお話!それは是非とも私も聞きたい!」
くそぉ……便乗してきたなぁ?とりあえずここからはお互いに監視しながら会話するような状況になる……お嬢様の演技?ヤバい、頭にエセお嬢様のレイカさんが浮かんでしまう。あんなの口走ったら一発アウトだ……慎重に行こう