男の決断
「今度は通常の人型と同じサイズか……」
壊された骨を新しく集める事はせず、減った骨を全てバラバラにして再結合。人型を模した姿だが人では無い
「オマエ……ゼッタイ……コロス」
おっと、【ハシャフ】の効果を打ち消したのか?初めての経験だ。今後はこういうボスが増えてくるかもしれないなぁ……
「アンプルの効果は消えてないのね?って危なっ!」
「シネェ!」
人型粘液は右手に当たる部分を伸ばし、ムチの様にしならせて薙ぎ払う。後ろに倒れながら攻撃を回避して、そのままバク転に移行しながら距離を取る
「【セイクリッドピアッサー】!」
ロザリーさんが追撃の聖属性攻撃を仕掛けるが……
「ソンナモノハ……クラワナイ!」
「何っ!?」
確かにその胴体に刺さったハズの属性が付いたレイピアの攻撃が効いていないように見える。体の反応的にもやせ我慢とかそういう物では無さそう……本当に効いてないみたいだ
「で?聖属性を克服したから褒めて欲しいのかな?」
ロザリーさんにヘイトが向かないようにイラつく様な言葉を選んで言ってみる。僕も現状だと聖属性が勝手に付与されてしまうから実はかなりヤバい状況だけど……何かヒントになる物とか見つけないと
「マズハ……キサマカラコロス!」
よしよし、しっかりヘイトはまだ僕のままだ。だけどどうやって倒す?聖属性が効かなくなった分他の属性が効くようになったかもしれないけど……
「【刃雷】」
僕と同じ考えに辿り着いたのか、アイリスさんが雷属性の攻撃を放つ
「ソンナコウゲキハ……キカナイ!」
人型粘液に攻撃が到達してもその粘液は攻撃を受け止めて無効化してしまった。これどうやって倒せるんだ?
「イマノワタシハ……サイキョウ!ドンナコウゲキモ……キカナイ!」
無敵モードって奴?これ倒すの無理じゃない?
「へぇ?今度は自分が考えた最強の防御ーって奴?攻撃は僕に掠りもしないないのに防御だけは一流だねぇ?」
「ゼッタイニ……コロォス!」
倒す手段思いつかないなぁ……まぁ攻撃は単調だから全然躱せるんだけど、これがアレンジとかされるとちょっと厳しいかも
「はぁ!」
「【熱刃】」
(ハチさん)
ロザリーさんとアイリスさんが攻撃している間に、僕の後ろに回っていたドクターがウィスパーで話しかけてきた。この危険な状況で僕に近付いてウィスパーを使うという事は何かを掴んだのだろうか?
(はい)
(2人が時間を稼いでくれている間に思いついた事を説明します)
2人はドクターと僕が会話する為に時間を稼いでいるのか。これはドクターの話を聞かなくては
(どんな事ですか?)
(アイツは「今の私は最強」と自分で言いました。つまり、何らかの外的要因が加わればアイツは最強では無くなるという事では?と……)
外的要因?攻撃は弾いてるぞ?
(確かハチさんは相手がこちらを認識出来なくさせるみたいな魔法を持ってませんでしたか?PVの時に使っていた霧みたいな……あれを使っていただければすぐにこの状況をなんとか出来ると思います)
これつまり僕が【ミスティックミスト】を使えば解決するって言ってるのかな?
(分かりました。では今使用します)
時間も無いし、すぐに【ミスティックミスト】を使う
「【ミスティックミスト】」
「ナニッ!?」
辺りに急に霧が発生したので、人型粘液も流石に驚いた様だ。でもこれで何かやりたいらしいドクターの欲しい状況は作ったぞ?
「では」
「えっ?」
ドクターが急に人型粘液に向かって走り出した
「私に出来る事はこのくらいです!」
そう言ってドクターは両手を人型粘液に突っ込む。直前にドクターはその両手の指の間に試験管を挟んでいたのを見たので今、粘液生物の中に8本の試験管が入った状態だ
「はぁぁ!」
「キサマ!ナニヲッ!?」
人型粘液の中でパキンと握り割られた試験管……と、ドクターの腕が残っていた。ドクターは両手を犠牲にしてまであの試験管の薬をぶち込む覚悟で行動したのか……何という漢
「私は、この中で一番弱いです……それなら皆さんが奴を突破する為の道を作るのが私の役目!」
自分が弱いから両手を犠牲にしてでも奴の弱点を作る。つまり、他の3人ならば奴を確実に倒せると踏んだからこその決断。ここまでされて負けましたなんて言えない
「フッ……フハハハ!バカガ!」
だが、人型粘液は笑い声の様な物を発した。割れた試験管とその周囲の粘液ごと排出し、ドクターの両手は奴の体内に残ったまま……
「リョウテヲウシナイ……テキにニクをアたえる。お陰で人間としての復活する核を得た!馬鹿な奴のお陰で今私はここに復活する!」
人型粘液には試験管に入った薬は何も効果が無かった……それどころかドクターの腕を吸収して人型粘液から人に復活してしまったらしい。こんな形でドクターの決死の行動が無駄になってしまうなんて……
「魂の研究をして遂に私は不死を得た!最初はあの小娘の体を素体にして復活しようと目論んでいたが、そこの愚かな男のお陰で男の肉体の核を得てネクロマンサー・アーディ。ここに復活だ!」
あの粘液は魂の研究とやらで不死になったとか言っているアーディの穢れた魂という奴だったのか。なるほど、だから道中の骸骨にオーラが混じっている気がしたのは奴が操っていたせいか
(これで良いんです)
(ドクター?)
両手を失ったドクターがまた僕にウィスパーを掛けてきた
(あの試験管はフェイクです。私の両手を核にして奴は人間に戻りました。もう人型の粘液じゃない……そうなればハチさん。貴方の独擅場では?)
なるほど、試験管に奴を殺す毒があると思わせて本命は奴を人間に戻す事。そこまで考えて両手を犠牲にしたのか。だったら特等席で奴をボコボコにする所を見せてあげないとね?
「アーディさんよ?地獄に行った事はあるかい?」
「地獄?いったい何を」
「僕はある」
そう言って白ローブに着替えて戦闘を再開した