βテスト終了
「ハチ様、遂に完全に動ける様になられたのですね?」
「オーブさんのお陰だよ。1ヵ月で動ける様になるなんて医療技術の進化って凄いね!」
脊髄を再建してしかもたったの1ヵ月でまた動ける様になるなんて思わなかった。オーブさんとみっちりリハビリしたお陰かな?
「毎日3時間以上も飽きずにリハビリ出来るハチ様の精神力の賜物だと思いますよ?」
「そうかな?やろうと思えば誰でも出来ると思うけど……」
真っ白な空間で毎日オーブさんと30日間リハビリとか結構楽しいけどなぁ?
「あまり他の旅人様の情報を公開するのは良くないのですが……βテスト参加者はハチ様を除き全員が直ぐにalter・worldの世界……アルテアに降り立ちましたよ?」
「へぇー……まぁ他の人の事はどうでも良いんだけど」
「あらら、やはりハチ様は他の方とは違いますね?」
オーブさんが空中でコケる様な動作をする。何だかオーブさんからの評価が悪い様な……まぁ気にしちゃいけない
「ところで、流石にハチ様ももう動ける様になったので職業、決めましょう!」
「え?もしかして設定ってまだ終わってなかったの!?」
「まさか……気が付いてなかったんですか!?」
互いに驚く。30日間もあって残っていた設定について話しかけなかったオーブも、リハビリ一点集中でオーブが話そうとする前にリハビリを敢行して話を聞かなかったハチも悪い
「それでは早速職業を決めましょう!」
「えーっとどんな職業があるんですか?」
ここで立ち止まっても仕方が無い。オーブさんをこれ以上困らせない為にも早く決めよう
「では一覧をどうぞ」
「うわっ!?」
ぱっと見るだけでもかなりの量がある。うへぇ……この中から選ぶの?
「一応、ランダムに決める方法もありますが……何が出るか分かりませんよ?」
「へぇ、ランダムに決める事も出来るんだ……特に何がやりたいって決めてないしここは一つ運試しでやってみよう!オーブさんお願いします!」
「分かりました。ではこのスロットをどうぞ」
白い空間の床からデデーンと大きなスロットが現れる
「ではこのレバーを引いてください」
「はーい、よいしょっと!」
オーブさんに言われた通りスロットのレバーをがっちゃんっと倒す。クルクル……というよりギューン!と唸る様に回転する。えっ?何かヤバい?
「これ大丈夫?」
「はい、大丈夫です。何分職業が多いのでランダムを選択すると回転がこうなります」
「そっか、さっきの表を見るなら納得かも」
「因みにランダムでしか出ないレア職業もございます。あっ、ランダム決定は取り消しできません」
「それ、言うの遅くない?」
「まぁハチ様は気にしないでしょう?1ヵ月も一緒にリハビリした仲ですよ?」
「まぁ気にしないね」
スロットが回ってる間にオーブさんと話をするけどなんかオーブさんから悪い方向だけど信頼されてるのかな?まぁ信頼されてるなら良いか
チーンッと電子レンジの様な音がする。スロットが止まったみたいだ
「何々、補助術士?」
スロットには補助術士と出ていた
「おっと、まさかのさっき言っていたレア職業が出てしまったみたいですね?」
「ほう?ラッキーかな?」
レア職業って事はそんなになっている人は居ないだろう
「えっと……申し上げ難いのですが、レア職業とは強力な面もありますが大抵扱い難い職業で何かしらデメリットがあります」
「ほうほう?で、教えられないなら教えられないで良いんだけど他にレア職の人って居るの?」
「そのくらいは良いのですが、今回βテストでレア職になられたのはハチ様だけですね。そもそも職業が何でもいいという方がそうそういらっしゃいませんから」
そりゃそうか。剣士になりたい人とか魔法使いになりたい人とか色々あるだろうし何でも良いからランダムで決めちゃおうなんて人がそもそも居ないのか
「で、補助術士って何がデメリットなの?」
「攻撃呪文の習得不可、それと武器の装備制限ですね」
「oh……中々酷い」
まるで自分で攻撃するなと言わんばかり……
「でもその代わりレア職業は成長率が高かったり、ユニークなスキルを覚えたりしますよ?」
「えっと、職業はもう決まったからステータスで確認出来るのかな?ステータス」
目の前に半透明の板状の物が現れ、ステータスが表示される
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ハチ 補助術士Lv1
HP 150
MP 350
STR 10
DEF 10
INT 15
MIND 50
AGI 25
DEX 40
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これまた随分な偏りよう……というか他が分からないので数値が高いのか低いのかも分からない
「うわぁ……私も補助術士のステータスは初めて見ましたがこれは中々苦行そうですね……」
オーブさんも心配するほどなのか……でもMINDとDEXの値が他より遥かに高いからこれを活かして行くのが良さそうだな
「んー、まぁ何とかなるでしょ」
「このステータスを見ても動揺しないとは……とにかく楽しんで下さい……と言いたい所だったのですが……」
「ん?どうかした?」
オーブさんが何か言い淀む。だが、申し訳なさそうに話し始めた
「誠に申し訳ないのですが……βテスト終了の時間になってしまいました」
「え!?」
しっかり動ける様になったからこれから遊ぼうっていうこの時に終了?そりゃ無いよ……
「製品版でまたお会いできる事を楽しみにお待ちしております……」
「そんなぁ……」
「申し訳ありません。ですが、製品版でまたお会いできましたら私から餞別を差し上げますので……」
本当に申し訳なさそうだ
「ううん、本来ならβテスターなんてなれなかったハズなのにこうして30日間も一緒にリハビリを手伝ってもらったオーブさんにこれ以上物を貰うなんて出来ないよ。でも製品版が出たら絶対遊ぶから!」
「そう言っていただけると何よりです。これより収集したデータを元にアップデートを行いますのでログアウト、していただけますか?」
「うん、製品版までさようなら!ログアウト」
「まさか最初の旅人様があのような方とは思いませんでしたね。所詮はウォーミングアップの空間で他の旅人様からこの空間は要らないから直接アルテアに行かせろ等言われたことがありますが……ハチ様にとってはとても大事な空間であったとオーブは思案します」
オーブもハチとの別れが名残惜しいと感じるがまた会えると信じていた
「よう!楽しめたか?」
「東郷さん……alter・worldが絶対に買えるコネとか無いですかね?」
「流石にそれは無理な相談だな?そこは公平に行かないと」
「ですよね……」
この時ばかりは流石にポジティブ思考ではいられなかった。倍率数パーセントの世界、もしかしたらもっとな状態で製品を入手する事は出来ないと思ってしまう
「何で気落ちしてるのか知らねぇけどβテスターは製品版をそのまま入手出来るぞ?」
「へ?」
「1000人ぽっきりだったらタダで放出してもその後に1万人も売れればガッツリ稼げるしな!」
「じゃあ!」
「そのヘッドギアに入ってるalter・worldは既にお前さんのモンだ」
その時ベッドから飛び出しそうなくらい喜んだ