繋ぐ一発
「たかが空を飛べたくらいで勝てるとでも思っているのかァ!」
「グゴゴゴゴゴゴォ!」
コクピット内の声も任意で外に出せるみたいで、ゲヘちゃんの声だけでは無く、僕の声も外の人達に伝えられた。ところで、ゲヘちゃんのコクピットに入ったは良いけど、操縦桿らしきものは無い。あるのは干からびた根っこの様な物が上から垂れ下がっているだけだ
「これ、もしかして……なるほどね?」
干からびた根っこの様な物を触っていてだいたいどういう物か理解出来たので、その根を広げて背中で受け止める。するとその根が僕の体と結びついてきた。こうなればもうどうするか分かる。つまりはこういう事だ
「ウオォォ!」
僕が両拳を地面に叩き落とすように動けばゲヘちゃんが同じように動く……モーショントレースとかマスタースレーブの様な状態になっている。ゲヘちゃんが僕に体を貸してくれているんだ
「滅茶苦茶重いな?」
当然と言うべきか、ゲヘちゃんの体を借りている状態で僕のいつもしている様な動きを再現出来る訳では無い。ワンツーを打つだけでももの凄い負荷が掛かっている。簡単な攻撃しか出来ないな?
「3攻撃で行くか」
ワンツーパンチからの両手叩きつけ。踏みつけ踏みつけ両手を広げて一回転。のような3回攻撃を基本に動くのが、巨大ボスらしく振舞えるかな?3回攻撃したらちょっとだけ何もしない時間を入れれば攻撃するチャンスタイムになるだろうし、向こうも初めて飛べる状態での戦闘だからこのくらいで良いだろう。当たったら確実に一撃死は免れない威力はあるし、多分あの時に比べて巨大化した結果、スピードは落ちてるけど威力は大幅に上がっているだろうからジェイドさんのバリアでも一撃で粉砕出来る可能性はある
「ガンセキホウガ、シヨウデキマス」
「岩石砲?とりあえず1発使って見せて?」
ゲヘちゃんの持っている攻撃手段を把握しておかないと有効的に戦えない。岩石砲はどんな攻撃手段なのか……
「ハッシャシマス」
両手を地面に下ろし、口を開くと巨大な岩石が飛んで行く。まだ残ってた小型施設が一撃で粉砕された……威力やっば
「気を付けろ!あんなのに当たったら多分一撃だ!」
「なんとか動きを止められれば……」
よしよし、牽制としては良い感じで動いたみたいだ。予備動作が大きすぎるから見てから回避余裕だけどこれで充分だ。危険な攻撃手段を持っていると知らしめる事の方が重要だし、当てる必要は皆無だ
「ここはあの両手が届かない遠距離から攻撃するか、腕の内側で攻撃するんだ!」
空を飛べるからこそ自由に配置を動かす事が出来る。そもそも空を飛べることへの興奮もあり、勝手に動いている人も居るけど、ある程度纏まって動いているからこっちの攻撃も当てようと思えば当てられそうだが、ここは我慢だ。さっき思いっきり負けたからこそ、今の状態で勝てる見込みがあるとなれば復讐心が仲間との協力を引き出す事になる
「ハッハッハ!そんな攻撃じゃ効かないなぁ!」
サイズ差を考慮しても、1プレイヤーが剣で攻撃したところでゲヘちゃんのボディに傷を付ける事すら容易では無いだろう。近接が無駄という訳では無いが、バラけている状態ではせっかくの翼を貰った所で勿体無いだけだ
「協力しない敵は敵にあらず。勝ちたかったら協力してくださいよぉ?」
手段は色々あるだろうから、どう協力するのか見せてもらおう
「勇者なんでしょう?だったら救ってみてくださいよぉ!世界って奴をさぁ!?」
「ウゴァァァ!!」
岩石砲を3発撃ってその後、拳で地面を複数回叩きつけて敵を近寄れない様にする。この一連の暴れ動作で僕に取り付いていた近接はキル出来ただろうし、遠距離からの攻撃が重要なんだと理解しただろう
「くそっ!どうしたら……」
「私に考えが有りますわ!」
「どうしたレイカ?何か奴を倒す手段でも?」
「【リンケージビーム】……あれをこっちの戦力全部使ってあの野郎にブチ込んで差し上げますわ!」
繋がる人数が多ければ多い程威力が増加する【リンケージビーム】。あれをこっちの全員で繋がって撃てたなら……あいつを消し飛ばす威力が出るかもしれない。協力こそがあの孤高のボスを倒す最大の力……それならば
「皆!アイツを倒す為に力を貸してくれ!」
「今更何言ってんだよ。やるに決まってんだろ」
「これだけの人数全部じゃなくてもほとんど纏めたジェイドさんの頼みなら!」
「勝てる道筋が出来てんだろ?やろうじゃねぇか!」
雌雄を決する最後の一撃。その攻撃に参加出来るとなれば前衛も後衛も、戦闘職である事すらも関係無い。勇者軍の人達が次々と集っていく
「さあ、戦士たーちよ。立ーち上がれー♪」
「この歌は?」
戦場に響く歌声
「想いを繋いでー、立ーち向かえー♪」
「あの時の!」
軍人の前では怯んでしまって歌えなかったアイドルが最終決戦の時に皆を集める為に歌っている
「勝利のたーめに、すべーてを束ねて今♪」
レイカを先頭に両サイドに繋がっていった勇者軍の人達がまるでレイカさんの巨大な両翼の様になって、遂にその瞬間が訪れる
「とーきーはーなーてー♪」
「「「「「【リンケージビーム】」」」」」
全てを白で埋め尽くす一撃が発射された