同士討ち
「あっ!ジェイドさん!もうこんな所まで進んでたんですね!」
「……」
「いやぁ良かったぁ……ところで敵の魔王がこっちの方に来たと思うんですけど、見てないですか?」
「……」
「ジェイドさん?」
「残念だったなぁ!?」
ジェイドのホログラムの中から飛び出した魔王軍プレイヤーの強襲。油断していたその胴体に深々と剣を突き立てる
「なっ……がはっ……」
「ヒュ~!自分でやっといてなんだけどこいつぁひでぇぜ?」
「ジェイドさんの中から何か出てきたぞ!?」
ホログラムの中に入る場合、はみ出なければ映像が乱れる事は無い。だから映像と動きを合わせて敵の目の前に来た瞬間に飛び出せば強襲能力は飛躍的に上がる
「気を付けろ!あのジェイドさんは偽物だ!」
「どうなってんだ!?さっきのアレと一緒なのか?」
自分達のリーダーであるジェイドの姿をした敵。城に入ってすぐに出てきた分身する人と似ていると言えば似ている
「おっ、丁度良いタイミングだ」
監視水晶で様子を見ていたら奇襲に成功したみたいだし、タイミングも良いからここは退いてもらおう
『そろそろ部屋から出て来そうなので退いてください』
ジェイドさん達がそろそろクイズ部屋から出てきそうだ。今退けばタイミング的に丁度良い
「ハッハー!一度引かせてもらうぜ?」
「ま、待て!」
「さらばだ!」
フラッシュグレネードを床に投げて光っている間に撤退する人を補助するように花びらのホログラムがその周辺を舞っている。ドクター良い仕事するなぁ?
『指揮官の考えが分かると撤退する事も全然悪くないな?むしろこれは撤退しないと面白くない』
撤退する事が悪い事な訳が無い。むしろ撤退出来ないとか作戦の幅が凄まじく狭まってしまう
『あっ、出てきましたよ』
ドクターから報告が来たので監視水晶を確認する
「ふぅ、なんとか出られたな」
「あの部屋いったい何だったんだよ……」
「まだデスしてないだけ良かったですよ……こんなまだボスと出会っても居ないのにデスしてしまったらイベントに勝てませんから」
「あら、どうやら先に城の中に入った奴らと合流出来たみたいですわ」
トラップを防ぎ切り、何とか部屋から脱出したジェイド達の元に勇者軍の集団がやってくる。だが、何か様子がおかしい気がする……
「この偽物がぁ!」
「今度は他の人までマネしやがって!」
「今度は逃がさねぇぞ!」
「な、なんだいったい!?」
さっきまでホログラムのジェイドさんに騙されていた勇者軍の面々が本物のジェイドさん達と出会っても本物だとは思えずに、味方同士で戦い始める
『あーあー、始めちゃいましたねぇ?』
『確実にどちらかが血を流さないと終わらないでしょうね』
『一応実行犯だけどさぁ?本当におっそろしいわ……別に混乱魔法とか状態異常になってる訳じゃ無いのに味方同士で戦う状況作ってんだから……』
状態異常の同士討ちであれば回復魔法でも使えばすぐに収まるけど、状態異常では無い同士討ちなら話は別。物理的に落ち着かせなければ味方同士での戦いは終わらないだろう
「待て!偽物とはどういう事だ!?」
「白々しいんだよ!」
「また中から出てくるんだろ!」
「本当にどういう事なんだ!?」
味方からの攻撃を防いで理由を聞いても「偽物がっ!」と言われるだけ。いったい何が起こっているんだ……
「ダメだ!こいつ等、話を聞こうとしねぇ!」
「あぁもう!撃ちますわよ!話を聞けって言ってますの!」
「うるせぇ!騙し討ちしやがって!」
「落ち着いてください」
えーっと、確かタナカムさんだ。タナカムさんが攻撃してくる味方の懐に入ってビンタ1発。流石にこれだと1発でこの状況を突破されてしまうかもしれないな……
「痛っ!?」
「私が本当に敵なら今の1発は確実に貴方の首を刎ねてます。状況を説明してくれますか?」
薄く笑うタナカムさん。防御のジェイドさんに攻撃のタナカムさんと言っても過言じゃないな
「ほ、本当に本物ですか?体の中から誰か飛び出したりしてこない?」
「状況の説明をお願いしますと言っているのですが?」
うーん、あの薄く笑う表情。気弱そうな印象と共に威圧感もある……今度真似してみようかな?
「敵の魔王が登って行くのが見えたから追いかけたらジェイドさんが立ってて、魔王を見てないかって聞いたらジェイドさんの中から急に敵が現れて……本当に本物なんですね!?」
「俺達は敵のトラップ部屋で足止めを喰らってて、今出てきた所なんだ。だからイマイチ状況が掴めてないんだが、俺の偽物が居たって事なんだな?」
「はい!良かった……本物のジェイドさんだ」
ビンタ1発で同士討ちを止めるとは、見事な手腕だ。流石に搦め手はもう通用しなくなってきたかな?
「すまないタナカム。君のお陰で何とかなったよ」
「このくらいは任せてください。話を聞いてもらえないのは現実の方がもっと酷いですから……こっちではまだ皆私の言葉を聞いてくれる方なのでこのくらいではイラつきませんよ」
「タナカムさんも大変なんだな……」
ジェイドさんが同情してる……
「タナカムさん大変なんだな……」
まぁ現実で話聞いてもらえないのはキツイなぁ……何となくイメージではサラリーマンだったけど、あんまり尊敬されてないサラリーマン(上司)くらいのイメージに僕の中では格上げ(?)された