弔いの剣
「1人でなんの御用でしょうか?」
「お前がここの主か?」
片翼の例の天使が何かを手にもって城門の前に来ていた。一応物腰柔らかな態度で言ったつもりなんだけど流石に警戒されてるな?こっちもだけど
「おやおや、随分と棘のある物言いですねぇ?そんな態度では貴方の用件を聞く事は出来ませんよ?」
そうは言うけど壁にもたれかかり、腕を組んで何の用事なのかを聞く体勢にはなっている
「あの方とその教え子はお前の様な飄々とした奴に従って命を落としたのか……」
「その件に関しては語弊がありますね?私の命令で命を落とした訳ではありません。自分で考えて、自分の意思で行動して……その結果があのようになりました。私とて大切な仲間?……いえ、家族でしょうか?表現が難しいですが、失った事で傷付いています。ですが、私には弱っている所を他の仲間には見せる訳にはいかないのですよ。貴方にでも理解出来る言葉で言えば強がり……ですかね?」
まぁこの天使の事は全く知らない訳では無い。理解してもらえればある程度穏便に会話は出来るかな?
「強がり……あの2人が死んだのは自分の責任では無いと、そう言いたいのか?」
「自己責任だ……は流石に無責任ですね。私としては生きていても、死んでいても魂は常に私と一緒だと考えているので特に何かしようとは思っていませんでしたが、一度弔った方が良いでしょうか?」
実際死んで無いし、魂も1つだけだから弔うも何も無いんだよなぁ……
「一般的には死んだ者を弔うべきだろう……私もその為に来たのだ。私も彼には感謝しているから手向けの花だけでもとな……」
何か持ってきたと思ったら手向けの花だったらしい。うーん、死んで無いのに弔われる……生前葬みたいな感覚かな?
「なるほど、それなら……あの場所は如何でしょう?」
夜の間だったので、城の内側の庭のような所にあった少し大きめの岩に月の光が当たっていた。そこはかとなく神聖な感じがする……神聖な感じしない?
「この城は戦場になる。だが、この場で弔った方があの2人も喜ぶだろう」
「そうしてもらえると良いですね。ところで、何故2人と?貴方は片方としか戦っていないのでは?」
天使と戦ったのは軍人の姿の時だし、シスターの姿とは面識が無いと思うんだけど?なんで2人なんだろう?
「先程この城での戦闘が起こっていたのを見たんだ。その時にシスターが自身を犠牲に味方を回復させた瞬間を見た。そしてその回復のせいか、姿が光となって消えてしまった……」
丁度僕がシスター服で戦っていた所を遠くから見られていたようだ。それなら一応筋は通る。天使は戦闘する気が無かったらかなりのステルス性を持っていたりするんだろうか?それとも戦闘する気は無いけど戦列にはこっそり参加していたり?
「それにシスターの途中の取り乱し具合、あの方に並々ならぬ思いがあったんだろう。私も似たようなものだ。もう会える訳が無いのに亡霊を追い続けて花なんか持ってきて……」
「例え敵だろうと尊敬出来る人が居たら尊敬する事の何が悪いんです?私にも何千人もの異界の戦士を纏める為に努力しているジェイドという人は尊敬に値すると思っていますよ」
「あぁ、ジェイドか。確かにアイツはとても頑張っていたよ」
やっぱり天使さんもジェイドさんは評価しているみたいだ
「尊敬に敵も味方もありませんよ。それで、2人を弔っていただけるのですか?」
「あぁ、やらせてもらう」
さっき僕が提示した岩の所までゆっくり歩いていく天使さん。僕も一緒に歩いていくけど、僕が武装していない事も相まってか、割とすんなり一緒に歩いていっても何も言われなかった
「おや?大剣を抜いてどうするんです?」
岩の前に辿り着いたら大剣を抜いたのでまさかのこの空気感からの戦闘?と思ったけどそうでは無かった
「私のこの剣を墓標の代わりにする。構わないか?」
「構いませんよ。むしろ貴方はそれでよろしいのですか?」
「もう、私には戦う理由が無い。それならこんな剣を持っていても仕方が無い」
戦闘する気が無いから大剣を手放すって事か。流石にここまでやってくれたらちょっとくらいは何か演出してあげても良いかな?
「では私は一度席を外しますかね」
「あぁ」
弔ってくれるというなら一旦離れて、一人にした方が良いだろう……表向きはこういう形にしておいて、サッと天使から距離を取る
「全く、貴様は甘いな?」
「!?」
とりあえず声だけ軍人スタイルの物にして城内放送をする水晶を岩の裏に転送し、話しかける
「だが、悪くは無い……感謝してやろう。これで2度目だな?今度こそさらばだ」
死んでから少し丸くなる方がこういう場合は良いんじゃないかな?
「ちょっと待って!」
「ふん、誰が待つか。だがその命、無駄に散らすなよ?貴様も俺の教練を受けたんだ。簡単に死んでもらっては困る。精々生き残るんだな?」
かなり不器用だと思うけど、これから頑張れよ?的なエールを送ってみた。うーん、シスターは……出さなくても良いかな?何か天使も自分の突き刺した大剣に敬礼してるし、邪魔しないでおこう。いやこれ実は生きてましたーとかやったらマジでどうなるんだろう?イタズラ心を擽られるけど、イベントが終了してしまえばこの天使と会う事も多分無いだろうから秘密のままで……もしイベント後に出会う事があったらバラしちゃおうかな?
「ん?」
放送の水晶は既に元に戻して、声も元に戻した後に何かメッセージが飛んで来たので確認するが、何かこのメッセージは他とは違う。だってこのメッセージの差出人は……
「運営から?」
運営から僕にメッセージが飛んで来た




