立て直し
「俺達は……た、たた」
「戦う?戦いたくない?戦えない? 早く決めないと全員あの状態になって貰いますよ?」
考えさせる時間を与えない。白武と黒武が消えた事で城から離れようとする人も居たけどそういう敵はキッチリ魔王軍の人達がトドメを刺している。まぁ要するに逃げられないぞ?
「やだ……あんな風になりたくない!」
「ジェイドさんについて行くんじゃ無かった!」
「嫌だ嫌だ嫌だ……」
うーん、やっぱりジェイドさんの評判が完全に地に落ちちゃってる。これは何とか挽回のチャンスを与えるべきだろうけど、勇者が来るから悪いけど今は放置させてもらおう。というか自決してここから逃げ出す人も勇者軍に出ている始末だ。これ絶対にPVで使えないって言われる奴だコレ。
「流石に自決されたら回復させる事は出来ないのであの状態には出来ませんね……死んでも何度も復活するからこそでしょうか?私には出来ない賢い逃げ方です」
だってその方法勇者軍じゃないと逃げる為に使えないし……魔王軍が使ったら防衛の為に拠点に帰ってくるからこの場で使ったら僕が復活地点を門の目の前とかにしてたらちょっとワープしただけになっちゃう。
「う、うおぉぉぉぉ!」
「勇気は素晴らしいですが、ここを何処だと思ってるんです?」
「あぎゃぁっ!!」
何も考えてない感じで突っ込んできた人は遠距離組の攻撃で足が止まり、近距離組の攻撃によって、ポリゴンにされた。流れる様な動きだなぁ?
「流石に俺達が居る事を忘れてもらったら困るぜ?」
「もうタイマンじゃ無くなっちまったからな?」
勇者軍にしてみれば施設バフで優位に立っているハズなのに先程の光景が頭に残って恐怖で足がすくみ、考えが纏まらない。まさにパニック映画のような状況。城から逃げ出せば再装填されたバリスタや魔法、弓、銃。様々な遠距離攻撃が来る。逃げずに抵抗したら近接職が攻撃してくる。最後に残ったシスターに手を出そうものなら全部来るし、更に体が変形させられるとなれば、自決して逃走するのは実際にこっちが手を出せない逃走手段だ。まぁそれで逃走したらまた来るのが大変だろうけどね?
「皆、無事か!」
「あなたは誰です?」
もう白々しいまでに誰か分かっているのに「あなたは誰です?」って聞く。まぁ一度会った事あるし誰かは分かってるんだけどさ?
「ボクは勇者だ! お前が最後の四天王だな?」
「だとしたら?」
「お前を倒す! そして皆を、世界を救う!」
僕は自分が四天王だとは認めてないんだけどなぁ? やっぱり曖昧な返答でも問題無かったみたいだ。これで勇者を僕に引き付ける事が出来る。それじゃあワイバーン組には行ってもらおう。
『出発お願いします』
『行ってくる』
さて、これでタイムリミットは最大でも10分って所かな?
「ジェイド! 大丈夫か?」
「あ、あぁ……一応な。だが、俺はもうリーダーの器じゃない……」
「諦めちゃダメだ!誰がなんと言おうと君は皆のリーダーだ!」
うーん、あのタイプの励ましはもらって頑張れる人と煩わしいと感じて頑張れない人が居るから、一概にああいう励ましをするのは良くないと思う。まぁでも肯定されたら少しは前向きになれるんじゃないかな?
「だが、俺は味方を……」
「諦めなければ挽回はいつでも出来る!だからもう一度立ち上がるんだ!」
とりあえず今はジェイドさんの励ましフェイズだから手を出さないようにする。こういう時に手を出さないのはお約束って奴だ。
「そろそろよろしいですか?こちらもいつまでも見ている訳にはいきませんので」
片手を上げて遠距離攻撃の指示を出す。
「こんな所で負けられないんだ! だからジェイド!頼む!立ちあがるんだ!」
「……やってやるよ!【ファランクス】!」
丸いバックラーの様なバリアが多数展開されてドーム状になり、遠距離攻撃を防ぐ。今までに見た事が無いけどあれは相当な防御力がありそうだ。
「そうだ! 失敗しても何度でも立ち上がれる!」
言ってる事は素晴らしいけど、それ、時間制限が無い場合に限るんだよなぁ……
「どうやら力を隠していたようですね?」
「防御性能はピカイチだ。そんな矢や魔法じゃ突破出来ないぞ?」
なら最初から使うべきでは?って思ったけど、最初から使用しなかった点を考えると回数制限ありの防御スキルかな?
「そうですか。では攻撃は一旦やめましょう」
こういうバリア系は蓄積ダメージで破壊出来るのか、それとも時間経過で消失するのか。まぁ時間経過で消える物だと想定して無駄な攻撃をやめさせる。ここで攻撃を激しくして、あのバリアの中から急にこっちに向かって攻撃が飛んで来ても見逃すことが無いようにしておく。ただでさえあのバリアはバックラーの様な円の集合体によってドームの形になっている。あのドームの中からナイフを投げつけられても見逃してしまう可能性は充分ある。これなら消えるまで放置して、弾や魔力の温存を優先した方が良いだろう。
「その冷静さ。羨ましく思うよ」
「いえいえ、私も先程まで取り乱していた所を仲間に救っていただきましたから」
演技とは言え、取り乱し方が尋常ではなかった自覚はある。あそこから復活して、今度はジェイドさんと勇者の相手? これ、今回のイベント中で一番神経使う所なんじゃないだろうか?