釣り餌
勇者軍の偵察が異常を発見したのかメッセージが飛んで来た
『敵が防御の施設から撤退。城に戻って行ったぞ』
「敵が防御の施設を捨てた?いったい何を考えている……?」
ジェイドさんが居ないので一応臨時でタナカムに情報が集まっているが、ここで防御の施設を捨てるという行為が理解出来ない
「おい!ジェイドさんが帰って来たぞ!」
「そうですか、帰還しましたか!」
勇者軍のリーダーであるジェイドさんは敵に夜襲を仕掛けていたが、ほとんどは敵のトラップに掛かり、無事にボスエリアまで辿り着いた人も敵のプレイヤーにやられ、残った数人も体の一部が変形して良く分からない状態になっていた人が敵の竜に運ばれて敵の城に近い施設に落とされたり……しかも体の変形は回復させる事が出来ず、やむを得ず一度キルしてリスポーンさせる事でその状況を脱した。仲間を斬らせるのはあまりやりたくはなかったが、治せない状態異常は一度デスして消すのが手っ取り早い。こういうのは下手に長引かせるより早めに解決した方が良い
「ジェイドさん」
「すまない……今戻った」
そしてジェイドさんはそんな惨状の中で最後にたった一人でボスとプレイヤー相手に残されていたというのを体が変形していた人の数人が言っていた。そのジェイドさんが帰って来たのだ
「皆、すまない。迷惑を掛けた」
帰ってきたジェイドさんは憔悴というか消沈というか……とにかく凹んでいた
「聞いた情報のみですが、よくあの状況から生きて帰って来れましたね……まさか全員を倒してきたんですか?」
「いや、あの場で言った嘘を見抜かれて軍人を倒した張本人を連れてくる代わりに逃がしてやると言われた。情けない話だが、その提案に乗って死ぬ事を免れた……俺は仲間を売ったんだ」
どうやら仲間を売って生き残る選択をしたから意気消沈しているらしい
「何をウジウジ言ってますの?生きて帰ってきたんだから次は敵をぶっ倒せば良いだけですの!」
そしてそんなジェイドさんの様子を見てやってきたのは無礼嬢レイカ。こういう時の彼女の無遠慮はある意味とても頼もしい物でもあった
「そうだぜ?生きて帰って来ただけでも充分だ。俺なんて飯トラップに引っかかって結局牛丼喰えないで落とし穴に落ちてデスしちまったからな……」
「リーダーが死んで帰って来るのと生きて帰って来るのどっちが良いかって言ったらそりゃあ生きて帰って来る方が良いに決まってるさ。俺は壺を割ったら上から毒が降ってきて死んじまったよ」
ガチ宮とグランダがプレイヤーを率いるリーダーが一人残されてやられるのと、生き残って帰ってくるのなら帰って来る方がずっと良いと、殿で酷い目に遭った2人にそう言われて多少気持ちが楽になった。防御の施設の殿、そして今回の夜襲とあの2人に比べたら自分はなんて軽い悩みだったか
「仲間を売ったが、何人で行くかは言ってないんだろ?それなら全員で行っちまえば良いじゃねぇか?」
「そうだそうだ。まともにやり合う必要なんて無い。皆で行って、魔王を倒してイベント終了っていう一番簡単な終わりを目指せばそれで良いさ」
「皆……分かった。次は負けん!」
色んな思いを胸に覚悟を決めるジェイド。自分一人では何も出来なかったとしても、仲間を信じて背中を預けて戦う。仲間は自分が守るし、自分もまた仲間に守られている。一人は皆の為に、皆は一人の為に精神で最終戦に向けて、気持ちや装備を立て直すのであった
「さーてと?敵はどうなりましたかねぇ?ほうほう?やっぱり喰いつきましたか」
防御の大型施設から少し離れた位置から監視をしていたチェルシーは敵の偵察らしい存在が数十人を引き連れて防御の大型施設に入って行くのを確認していた。あの人員で施設を修復するのだろう
『敵、防御の施設に偵察が入り、修復作業を開始した模様。攻撃しますか?』
『攻撃はとりあえず無しで。そこ以外で敵がこっちの本陣に向かって偵察等出してはいませんか?』
施設以外に敵の偵察の目は……ん?
『敵偵察発見。後方に敵部隊が居ると思われます。あの人数は正直一人じゃどうしようもないですね……』
足場を確認するように進む敵の偵察とそのかなり後方から敵の大部隊を確認した。偵察は何と言うかトラップが無いか警戒をしているが、そればっかりに注意が行って人を発見するのは少し遅れそうだな……先に偵察だけでも倒すべきか?
『それなら城まで帰ってきてください。敵大部隊が城に向かって来ているのならチマチマ攻撃せずに引き込んで盛大に歓迎しましょう』
確かにあの偵察を倒したとしても警戒度は増して進軍速度を遅く出来るかも知れないが、敵にこちらの存在を知られる事になる。その場合は私一人であの人数を相手にしなければならなくなってしまうし、下手に手を出さずに「このくらいの敵がこっちから攻めてきた」という情報を伝えて、城に戻った方が良いだろう
『現在、城にてカタパルトが起動中なので、敵軍が来たとしたら投石をお見舞いする事が出来ます。だからおおよその場所だけ分かればカタパルトで敵を減らせるので無理に戦闘はしなくて良いです。回復アイテムとか勿体無いんで』
カタパルトなんていつの間に……いやまぁ、丘の上にある城からの攻撃手段としてカタパルトでの投石はかなり有効的だろう。言われた通りに撤退しよう