誘導する布
「なんという事でしょう。見た目はそれ程変わっていないのに、殺意たっぷりの空間に生まれ変わりました」
僕が協力を要請したら何人かトラップを設置しに来てくれた。設置している所も見ていたけど、壁を切ってそこにアックスを隠したり、カーテンの裏側にボウガンを隠したり、絨毯で槍が飛び出してくる部分を隠したり……隠し方が中々巧妙だ
「指揮官がナレーターっぽくなってる……いやぁほんと匠のお陰でこんなに素晴らしい出来です!」
「喜んでいただけて何よりです……こことk」
僕がリフォーム番組のナレーターの真似をしてみたら周りに居た人が乗っかってくれた。リフォームを頼んだ人役と匠役をやってくれたは良いものの、匠役の人が不用意に一歩前に出たせいで横から槍が飛び出して刺された
「「ちょ!?」」
「い、痛てぇ……俺、死ぬのか?」
槍のトラップは何回でも使える様にか、飛び出して匠役をやっていた人を貫いた後、壁に戻っていったので既に引き抜かれている。傷口を押さえてとりあえず回復させねば……まずはトラップの範囲からずらそう
「死なせはしませんよ【ライフシェア】」
とにかく僕のHPを渡せる分だけ渡す。6割?僕がこの飛び出す槍のトラップに掛かったら2発で死ぬじゃん
「マジでゴメン指揮官。ちゃんとマップを見てなかった俺が悪い」
確かにマップを見ないで不用意に一歩前に出たこの人も悪いけど、こんなトラップ間近でふざけていた僕達も悪い
「いや、これは最初に僕が始めた事だから僕が悪いですよ。その傷はしっかり治しますからじっとしていてください」
一応この付近にはトラップがまだあるから念の為動かないように言っておく。マップには全部のトラップの場所は示してあるけど、見落としてまた引っかかる可能性がゼロとは言えないからしっかり回復するまでは動かないのが得策だろう
「あぁ、あったけぇ……」
「とりあえず指揮官が居たから無駄に回復アイテムを使わなくて済んだから良かったけど……気を付けないと戦闘中にトラップで死ぬなこれ?」
「通路は特に気を付けないと危険ですね……敵を引き付ける時はトラップの場所に充分気を付けてくださいね?」
トラップは赤く強調表示されてはいるものの、城は基本的にレッドカーペットを敷いているので、赤で強調表示されても見分けにくい。今回みたいに誤って自分達がトラップを発動してしまう事があるかもしれないから戦闘は慎重にするか、廊下では戦闘しない方が良いかも
「とりあえず城内のトラップはひとまずこれで良いとして、地下への入り口を隠す良いものを見つけたし、これを使って隠そうかな?」
凄く大きな布の塊。中々嵩張るけどインベントリに仕舞えば持ち運びも楽だし、結構肌触りも良い
「ん?指揮官……その布?みたいな物は何です?」
良くぞ聞いてくれました!トラップを設置する前に見つけた逸品ですぜぇ?
「バナーらしいです。だからこれをあの地下への大きな入り口の前に掛けておけば自然な感じで入口を隠せるかと……扉も壁の色と同じような色に塗装してしまえばバナーの裏で分かり難いでしょうから……ん?」
バナーの裏ならそれ程目立たないだろう。ガチガチに封印するいかにもって感じじゃ無いから勇者とかが城に入って来ても即壁を破壊して地下に直行するRTAみたいな事はしないと思う。そんな事されたらこっちで用意したトラップが全部無駄になっちゃうし、是非とも勇者と勇者軍の皆にはこっちの方に遊びに来て欲しい。その為にこのバナーは最初から壁に掛かっていましたという感じで設置するべきだろう。ん?時間稼ぎでこっちに来て欲しいんだからあのバナーにちょっと書き込めばより誘導しやすいのでは?
「バナーを4枚にして3つに×印を付ければ四天王全部倒せば道が拓かれるって思わせられるかな?」
あの入口に閂を内側から掛けて単純に開かないようにする。攻撃されたら破壊されてしまうかもしれないけど、そこは扉が破壊不可属性である事を祈ろう。それなら4人目を倒す為に上の城の方に人が来てくれるだろう。最後は誰か地下側に残ってもらって、僕が倒された演技をしたら門を開けてもらうとかが良いかな?
「そんな所までこだわってたら絶対四天王が居るって思うなぁ、こんな何の仕掛けも無い布で敵を誘導するっていうそれこそが一番ヤバいトラップだよ……」
「四天王の3人を倒してる、バナー3つに×印、その後ろに扉、ここまで用意されたらゲームやってる奴ならまず間違いなく4人目を倒してこの先にラスボスが居るって思うよな……」
そう思わせる為に今まで積み重ねてきたんだ。最後までしっかり勇者軍には付いて来てもらうぞ?
「それじゃあバナーを設置するんでどっちに傾いてるとか教えてもらえます?1人でこういう大きな物を設置するなら確認が面倒ですしね?」
「了解です!」
一々下がってどっちに傾いているか確認するのは時間が掛かって面倒だ。下から人に見てもらって傾きを修正した方が早いし確実だね