最後の教練
「ちぃ、クソムシ共の分際で中々追い込みが出来てるじゃないか……ごほっごほっ」
ワザと敵陣方面に進み、トマトジュースを見えないように口に含んでから咳き込んで血を吐いている様に見せる。うん、やっぱりこのトマトジュース美味いな?こういう使い方は勿体ないけど今はこれが一番弱っている様に見せられる
「追え!ジェイドさん達じゃなくても俺達だってやれるんだ!」
「しねぇ!」
「逃がさねぇぞ!」
おぉ、怖い怖い。でも地割れの場所まではあと少しだし、もう少しだけ回り道して人を集めておきたい
「おい、この先って……」
「あぁ!人をもっと集めて囲むぞ!」
「おっしゃ任せろ!」
もう少しで強敵を追い込めると思えば、多少ギスっている人達でも協力はするだろう。今回のイベントは僕のせいで面白くないと思っている人が居ると言うのであれば、僕が盛り上がる為の演出をして楽しませなきゃ……あれ?これ運営がやるべき事では?
「全く損な役回りだ……魔王の命令をこなし、アイツらも強くなるよう訓練をしてやったのに……俺より先に逝きやがって……ごほっごほっ」
適当な嘘を聞こえる様に勇者軍にばら撒く。仲間が先に死んでしまったから同情してください的な?とにかくこの軍人スタイル最後の総仕上げだ。目撃者は多い方が良いから「今弱っているよ!」と宣伝した方が良いだろう
「もう逃げられねぇぞ!」
「追い詰めたぜ?」
背後は地割れ、正面は大挙した勇者軍。もう完全に逃げられないね?
「ふっ、逃げられない……か。良いだろう。相手をしてやろう」
逃げられないのは百も承知。というか人を集める為にやっているんだから
「待て、こっちにはどうしてもお前に会いたいって奴が居るんだ。まずはそれからだ」
僕に会いたい奴って誰だろう?思い当たる人物が居ないぞ?
「どうやら、天に見放された様ですね?」
「ん?貴様は……」
片羽根を広げたから誰か思い出した。もう片方の羽根と頭にあったハズの輪は僕が粉砕した……
「……クソムシじゃないか?なんだ?俺を笑いに来たのか?」
「お久しぶりですね。私も貴方のお陰で目が覚めましたが、貴方が終わると言うのでしたら私が引導を渡しましょう」
「ふっ、そういう事か。ならば貴様がどう足掻き、成長したのか見せてみろ」
天使との屋外戦。一応相手は飛べないとは思うけど、警戒はするべきだろう。周りの奴も攻撃してくる可能性は0じゃない……ここはやられたフリじゃ無くて、本当に一撃貰うくらいの覚悟が無ければ騙せないだろう
「天から力を借りるのでは無く、自身の力を鍛える……貴方のお陰で私は一歩先へ進む事が出来ました。貴方に罵倒されてもそれは全て事実。実際に私の努力が足りていませんでした」
「ほう?クソムシにしては良い分析だ。それで?自己分析が出来たから俺に匹敵する事が出来ると?」
「私の全力を持って、戦いたいのですが貴方は負傷している様子。ならば回復させ万全の状態で貴方を打ち倒す事こそ私を見つめ直す機会をくれたあなたへの恩返し。【エクスヒール】」
何か凄い回復魔法を使ったみたいだけど、HP満タンの僕に更に回復する事が出来る訳でもないみたいなので完全に無駄でしかない
「がっかりだ……あぁ、本当にがっかりだ。敵が弱っているならそこを突かずにどうする?貴様の様なクソムシの回復なんぞ要らん」
「なっ!?そんなバカな!?」
回復を受けるかどうかの選択が出来るかどうかは分からないけど、そういう事が出来るみたいに演技しておこう
「貴様はまさか戦いは正々堂々などという事を考えているのか?」
「私は、貴方に成長を見てほしくて……」
「戦いはあくまで手段だ。目的ではない。そこを履き違えるな」
戦う事を目的にするんじゃなくて、戦う事で何を得られるのかの方が重要だろう
「それになんだ?貴様らもただ見ているだけか?戦闘に卑怯もクソも無い。人数が居るなら使えば良い。育成などの目的が無いのに数を合わせる必要など何処にもない。それとも怪我人相手にも怖気づいて前にも出てくる事も出来ないヘタレの集団なのか?」
挑発してヘイトを集めて天使との一騎打ちを避ける。これでいつでも横槍が入ってくる可能性が出来た訳だ
「戦闘は手段だ。勝利する事で目的が達成出来るのなら、どんな手段を使っても勝たねば意味が無い。それをわざわざ敵を回復させる、タイマンをさせる?貴様ら全員なってない」
勝つ事で物事を有利に進められるのなら勝つ為に不意打ちだろうが、兵糧攻めだろうがやるべきだ。逆に負ける事で相手を騙したりするのであれば、盛大に負けて敵を欺けばいい。最後の勝利の為には勝つ事だけが必要な訳じゃ無い
「来い、今の貴様らなら弱った俺でも捻り潰せるだろう。最後の教練だ」
威圧になってるかな?とりあえず天使は意気消沈している感じだからすぐには来ないと思うけど、その間にこの勇者軍の人達がどう出てくるか……
「こ、このぉ!」
「やってやんよ!」
「クソがぁ!」
うん、数人が出てきた。そうそう。そうやって来てくれると僕もやりやすいんだよ




