想定外の不調
「おっと、休む前にバルミュラ様に聞かないと……」
休憩しようと思ったけど、その前にバルミュラ様にバリア中に外に出られるか相談しないといけないな。出られないと作った料理が配達出来なくなる可能性がある。せっかく作ったのに配達出来ないのは一番嫌だ。不味いと言われても良い。食べられもせずに冷めて、廃棄される料理は見ていて悲しくなる
「どこへ行くんです?先に休憩をした方が良いのでは?」
「まぁ休憩する前にちょっと配達が出来るかどうかをバルミュラ様と話すだけですよ。すぐに終わります」
「あまり無理はしないでくださいね?流石に指揮官は働き過ぎだと思います。少しくらい休憩しても誰も怒りませんよ」
まぁ別に【レスト】を使えば充分に疲労も回復出来るから心配されるまでもないんだけど……
「イベントが終わったらゆっくりしますよ。次は温泉でも探してみようかな?」
「冒険する気満々ですねぇ?」
ドクターに心配されてエナジーポーションを差し出されたけど、問題ないから大丈夫と手で制止した
「じゃあちょっと話してきます。一応自分用にまかない?みたいな物も作っておいたので良かったらそれでも食べていてください。あとで作り直せるんで」
そう言っておけば料理を運ぶ人達も遠慮なく食事出来るだろう
「どう思う?俺は料理屋の店長説を提唱する」
「私は主夫説を推すね!」
「あんな人が主夫とか嫁の人が羨ましい……」
「一人暮らしの独身の可能性はまだある……だとしたら超優良物件なのでは?」
「都心のど真ん中にあるレベルの優良物件だから本当に存在するのか疑わしいけど……それが本当ならかなり夢を見させてもらってる気分」
ハチがまかないを用意してあると言って、バルミュラ様の所に向かった後でコソコソとハチのリアルがどんな感じかを予想して話す。ただの高校生という答えは出てこなかった
「バルミュラ様」
「……あぁ、ハチか?」
「大丈夫ですか!?」
明らかに体調が優れている顔色ではない。なんだ?僕が敵を見逃してバルミュラ様に何か盛られたのか!?とにかく一旦バルミュラ様を寝かせよう
「なに、心配するな。例の魔法の作用だ……すまないが今日からは城にバリアを出す事も厳しい。許してくれ」
「安静にしてください。何か食べますか?」
バリアを出せないのはどうでも良い。多分イベントが進んだからバリアが張れなくなるという理由が必要だったんだろう。それがコレだ
「そうだな。何か食べさせてくれ……」
「少々お待ちください。ただいま準備します」
あくまで僕達がやるのは防衛戦。こっちから攻めるなという事か。とりあえず看病をするしかない。このままだとバルミュラ様が衰弱しきってしまう
「あ、皆さん!とりあえずバリアは張られないのでワイバーン君に乗って行ってください!えっと、とりあえず……うどんなら何とか行けるか?」
「ん?そんなに焦ってどうしたんです指揮官?」
「ちょっとバルミュラ様の体調が優れないのでこれから看病します。皆さんは気にせず行ってください。他の皆さんが待っているので……」
「本当に大丈夫ですか?」
「自分の魔法の影響で衰弱しているらしいので多分回復魔法とかは意味が無いと思います。単純に栄養を取らせるべきかと……すみません、急いでいるので失礼します!」
残っていたうどんをよそい、急いでバルミュラ様の場所に向かう
「すみません。このような物しかありませんがよろしいですか?」
「これは……なんという食べ物なのだ?」
「うどんと言います。小麦粉を練り、細長くしたものを茹でた物になります。そこまで噛まなくても呑み込む事は出来るので今の様な弱っている状態でも食べる事が出来ると思い、用意しました」
簡素なほとんど素うどんの様な状態だが、すぐに何か食べるならこれでも良いだろう
「苦労を掛ける」
「いえ、どうぞ召し上がって下さい」
「……どう食べるのだ?」
しまった、そこからかぁ……
「この麺を噛んで食べても良いですし、啜って食べても良いです」
「そうか……」
いやいや?なんで口開けてるの?自分で食べられるくらいには体力あったよね?
「……分かりました。では失礼します」
数本のうどんを木のお玉に入れて、バルミュラ様の口元に持っていく。これで食べなかったらもうどうしようも……
「少し……熱いな」
「あ、すみません。今冷まします」
やっぱりこうなったか……まぁ看病をするなら優しくするべきだし、このくらいのわがままは聞くべきだろう
「どうぞ。ゆっくり食べてください」
「頂こう」
冷ましたうどんを口にするバルミュラ様。口に合うかな?
「うむ、中々に食べやすい味だ」
取って来てくれた食材の中に昆布のような草があって、それが昆布ダシの代わりになったし、うどんも中々良い感じの物が出来た。バルミュラ様も一口食べるともう一口、また一口とうどんを食べていたので少しは体調が良くなったみたいだ。フォークで食べているけど、別にそのくらいは良いだろう
「念の為、バルミュラ様の具合が良くなるまで近くで見ています」
「迷惑を掛ける……」
「お気になさらず、養生してください」
とりあえずバルミュラ様の体調が良くなるまではここから離れるのは良くないだろう。少し計画が崩れるが、守るべきバルミュラ様が一番大事なので夜襲を掛けられても救援には行けないな……