飛んで来た
「ハチ様、大分動ける様になってきましたね?」
「オーブさんのお陰だよ。現実でも上半身が結構動かせる様になってやっとご飯が自力で食べられる様になったんだ」
10日間毎日3時間以上リハビリしてゲームの中だとぎこちないけど歩ける様になった
「それは素晴らしい進捗ですね。ではそろそろ……」
「もっと頑張って歩ける様になるまでみっちりやるぞー!」
「……分かりました。最後までお付き合いしましょう!」
オーブさんと毎日リハビリする事が楽しくて真っ白な空間でヨロヨロとしながらでも歩けるまでになったんだ。体が通常の状態になるまでやってやるんだ!
「今日はこのくらいにしませんか?こちらでのリハビリも大事ですが現実でもリハビリする事でもっと効果があると思います」
「はい、今日もありがとうございました。じゃあ今日はこの辺で……ステータス、ログアウト」
10日間使ってる思考操作だけだと不意にステータス画面が出てきて邪魔になる事が発覚したので発声+思考で操作出来る様改良された。手が使える様になったけどこれが楽で良い。ログアウトして現実に戻る
「ハチ様、まだ職業も決定してないんですが……完全に動ける様になるのとβテストが終了するのどちらが先になるのでしょうか?」
ハチが既にログアウトした空間で独りごちるオーブ
「ふぅ」
ヘッドギアを外すとベッドの脇には父さんと母さんが居た
「体の調子は大丈夫か?」
「大丈夫!?」
心配する父の石動一矢と母の石動雲雀。5日間程リハビリを続けたら面会謝絶状態は解除されたけど会えるのは親のみという事になった
「もう10日もやってるからかなり良くなってきたよ。ほら」
机に置いてあったペンを持ち、くるくると回して見せる。中々良い感じで回せてる
「おぉ!凄いじゃないか?父さんそこまでペン回し上手く出来ないぞ?」
「大丈夫そうね……安心したわ。でもゲームでリハビリなんて、本当に出来るのね?」
「びっくりしたけど東郷さん曰く「体なんて所詮電気信号で動いてんだ。だったら脳と直接電気信号をやり取りできるVRゲームでそれを繋ぎ直す事だって出来んだろ」って言われてなるほどなぁって思ったよ?」
「「おぉーなるほどー」」
両親も僕が東郷さんにされた説明をすると納得した。それで良いのかとも思うけど理に適っているとも思うので納得するしかないのだ
「とにかく絶対に元に戻ってみせるよ!」
「そうそう、何事も悪く考えない!その気持ちは忘れるんじゃないぞ?」
物事は悪く考えない。それは父さんが常に僕に言って聞かせる言葉。確かに悪いように考えると解決策も出てこないし心に余裕も無くなるから物事は良い方に考える様に心掛けている
「私は影人が無事でいてくれるならそれで良いわ」
「母さんも心配しないで?というか態々毎日来なくても良いのに……大分仕事に影響があるんじゃないの?」
「仕事なんて影人に比べたら何てことないの!」
「それは流石にダメでしょ……」
現在一人暮らしをしている最中だったけど事故に遭った事で両親が飛んで来た。文字通り海外から飛行機で
「最初連絡を貰った時は倒れるかと思ったわよ……」
「母さん仕事をほっぽり出して飛行機のチケットを買ってここに真っ直ぐ来たからな……しかも自分の分しか買わなかったから私も急いでチケットを買ったけど1日遅れてしまったよ……」
「確か事故に遭ってから丸2日起きなかったんだっけ……」
それは心配するよね……でも父さん置いて行かれたんだ……可哀想に
「でも、元気そうで良かったわ」
「うん、こっちは大丈夫だから仕事の方を何とかした方が良いと思うよ?」
こっちのリハビリは順調だから問題無いけど仕事をほっぽりだすのは良くないよ……
「ある程度は何とかするけど、ちゃんと雲雀さんも弁明してよ?」
「えー、そこを何とかしてくれる器量があるのが一矢さんの良い所、じゃない?」
「仕方が無い。頑張るかぁ」
父さんも苦労人だなぁ……どうみても面倒だから押し付けられてるよ
「それじゃあ言い訳頑張ってくるよ」
病室から出て行く父さん。あれが父の背中かぁ……あ、そうだ
「忘れてた。母さん?眼鏡ある?」
「ええ、あるわよ?」
流石の準備の良さだ
「ちょっと外の景色が見たくてね?」
母さんから伊達メガネを受け取り、掛ける。太めのフレームで視界が制限されて良い感じだ。僕は実際は目が良いのだが、視界の端で動いた物でも何があるかしっかり把握出来るのだけど逆に把握出来過ぎて頭がクラっとしてしまう事があって伊達メガネで視界を制限していたのだ。太いフレームの眼鏡で若干ダサいのかもしれないがこの太さのお陰で正面に意識を限定出来て丁度良いんだ
「良く持ってたね?」
「当然よ?影人が事故に遭ったって聞いてチケットの次に用意した物だから。それに予備なら後5本はあるわよ?」
持ってきすぎでしょう……
「でも、助かったよ。これで歩ける様になっても困らない!」
「影人ならすぐ歩けるわよ!毎日頑張ってるんだから!」
その日から10日で足の感覚が戻り、脊髄再建手術からたったの1ヵ月という短期間で影人は元通り動ける様になった