悪魔教官
流石にこのまま喰い尽すのはマズイと思ったので天使に見えない位置で軍服を軽く叩いてポン君にこれ以上食べないように止める
「貴様はまず天の力を借りる以前に貴様自身の能力を知れ。貴様がどれ程弱い存在か認識していなければ、力を借りたとしても活かす事が出来ずにこうして敗北するのだ」
自分の能力がどのくらいで、そこからどのくらい強化されているのか分かっていなければ感覚の齟齬が生まれてさっきみたいに1歩で進み過ぎたりしてしまうだろう。外の環境であればそういう自分の限界を超えている能力があっても多少は誤魔化せるだろうし、その誤魔化しは強化された事による全能感的な物で自分自身でもどの程度の誤差が生じているのか分からなくなってしまうだろう。リハビリで自分の体がどのくらい動かせて何が出来て、何が出来ないのか、ゲーム内の補助でどのくらい動きが強化されたのか。そういう確認作業をした事が無ければ自分の体の動きを完璧に把握するのは難しいだろう。まぁNPCもそういうのがあるとは思ってなかったけど……
「がはっ……ごほっ」
「ふん、天の使いか。ただの使い走りが勘違いをするからダメなんだ。すべてがなっていない貴様はクソだ」
ごめんよ……本当はこんな酷い事を言いたくないけど、もうこのキャラで行くって決めちゃったからここでバレる要素を作る訳にはいかないんだよ
「こ、の……言わせておけば」
「クソはクソらしく地面に這い蹲っていろ。貴様がいかに気高いつもりでも今は地面にへばり付くクソと何も変わらん」
出来るのかどうか分からなかったけど、試しに天使の頭上に浮いている天使の輪を掴んでみたらなんと言ったら良いんだろう……蛍光灯みたいな感触で、部屋の電気を交換した時にちょっとだけ頭に乗せた事を思い出す
「まずは貴様のその輪から破壊してやろう」
「や、やめ……ろ!」
天使の輪をポン君のパワーで握り潰す。相手には天に頼るなと言ったけど、僕はしっかり仲間を頼らせてもらいますね?
「あ、あぁ……」
「この程度で泣くな。これは貴様の傲慢が招いた結果だ。ん?天使が傲慢?ふっ、クソだと思っていたが中々どうして笑わせてくれるじゃないか?俺を笑わせた礼に次はその羽根を捥いでやろう」
「い、いや……やめて!」
ポン君パワーによって天使の片方の羽根がぶちっと引き千切られる。これでこの天使も飛べなくなるかな?
「貴様は単なる余興の為にここに送られた使い走りだ。天が力をくれるだなんだと言う前に自分の力を鍛える努力はしたのか?」
「うっ、うぅぅ……うわぁぁぁん!」
ガチ泣き。どうしようこれ?でも下手に気を使ったらロールも崩れちゃうしなぁ……
「泣いてどうする?泣けば事態が好転するのか?ならばもっと泣け。気が済むまで泣けばいい。だが、今泣き止まなければもう片方の羽根も引き千切る。羽根も輪も無くした貴様はいったいなんだ?」
脅しながら泣くなと遠回しに言うしかない
「ふー、ふーふー……」
唇を噛んで何とか泣くのを我慢している天使。ポン君も空気を読んで天使の内部を食い散らかす事は止めているので何とか会話出来ているけど、普通の人ならもうポリゴンになっていてもおかしくないからこの天使の耐久力も凄いな?
「ほう?そのくらいは出来るのか。クソかと思っていたが見直したぞ?今からお前はウジ虫に昇格だ」
この天使が頑張っているのも分かるから凄く心が痛い。でも絶対に顔には出さないぞ
「なんだ?ウジ虫では不服か?」
「わ、たしは、天使……だ!」
「俺の前では天使だろうが、ウジ虫だろうが、クソだろうが何も変わらん。すべて等しい存在だ。だから貴様がなんだろうが俺には関係ない」
「うぐっ……!?」
天使に突っ込んでいる手に力を入れて圧を掛ける
「だがここで死んでしまうのはつまらないな?ではこうしよう」
強化型爆弾を入れようと思ったけど流石にそれは可哀想過ぎると思ったので綺麗に磨いた石を1つ入れて【ライフシェア】でHPを渡して傷を修復する。そして引き抜いた手でそのまま天使の首を掴み持ち上げる
「俺を楽しませてくれた礼に貴様の中に爆弾をプレゼントしてやった。衝撃を与えれば貴様は本当にクソやゴミクズになるだろう」
「よ、よくも!」
「そしてこの硬貨。これは起爆スイッチの様な物だ。つまり貴様の命とこの硬貨は実質同価値……良かったな?ウジ虫が硬貨1枚と同価値まで価値が跳ね上がったぞ?」
ポケットから首を押さえている手と逆の手で魔硬貨を取り出して天使に見せる
「ぐぅぅ……」
悔しがっている所悪いけど、嘘しか言ってないんだよね?別に僕は触れた物を爆弾に出来る能力がある訳ではないので、体の中に有るのはただの石だし、魔硬貨に起爆スイッチ的な力は一切ない。それに物である魔硬貨と生きている天使さんの価値が一緒か? という事にはとてもじゃ無いが首を縦には振れない。どういう経緯でここに来たかは知らないけど、与えられた役割を果たそうとしてこの状態になったんだから可哀想としか言えない
「貴様がまた性懲りも無く、自身の力を高める訓練もせずに天から力を借りて俺に挑もうとするのであれば爆殺かもう片方の羽根も引き千切ってやる。そうなれば貴様は本当にクソムシ以下の存在だ。天使でもない、人以下だ。それを肝に銘じておけ」
「げほっげほっ……」
掴んでいた天使を放り投げてこっちが見えない瞬間に【影移動】を使って影に潜んでとっとと鉱山を後にする
「ふぅ……本当にごめん。天使さん」
多分だけど【悪魔よりも悪魔的】の特定の相手に対してダメージアップ効果とか、【悪魔を唆す者】のNPC相手に有利に会話を進められる確率アップとかが良い感じに働いてくれたんだと思う。効果がどの程度か分からないけど、確実に山場を一つ乗り越えた気がした




