不滅の魔王軍
「敵軍が左に展開しているからそちらに少し戦力を回せ!ここは絶対に明け渡さない【アイシクルフォール】!」
「突破はさせません!【熱刃】!」
「ヒャッハー!ここを落とすのは諦めた方が身の為だぜぇ?」
「アハハ!少しは骨のある相手が出てきた!」
「【メテオバレット】ジェイドとか相手に出し惜しみはしてられないわね?」
大型施設での防衛戦にはロザリー、アイリス、ダイコーン、キリア、キリエの5人が参加している。他の施設の防衛に比べればかなりの戦力だ。それも当然、ここには敵の主力50人が来ているんだ。ウチの魔王様が出したんだろう巨大な眷属が地面を数回パンチしている姿も見えていたし、あれで敵の戦意を喪失させて魔王城から撤退させたんだろう。どうやって仲間にしたのかは分からないけど、眷属を上手く使えば1対50の人数差もひっくり返せると教えてくれるような働きだった。だが……
「戦力はあるけど……」
「黒の乙女がやられるなんて……」
「くそっ……このっ!」
やはりと言うか、黒の乙女がやられたシーンを見てしまったせいか、部隊のリーダー以外の動きが悪い。あの情報を知らなければあの何でも出来る指揮官が簡単にやられたという事は相当ショックだろう。もしかして自分達が負担を掛け過ぎたせいで実は疲労が溜まっていてやられてしまったんじゃないか?と考える人が居てもおかしくない。今の状態だとどうしても戦闘に影響があるので、本当の事を他の人にも伝えるべきだろう。でも、敵にバレないように伝える必要があるので伝え方もしっかり考えるべきだろう……そうだ!これなら皆にも伝わるはず!
「皆!黒の乙女はやられてしまったが、まだ我等の……魔王軍指揮官はやられていない!俺達の為に頑張っている!だから指揮官の為にもここは踏ん張るぞ!」
「指揮官はやられていない?」
「今、指揮官はやられてないって言ったな?」
「指揮官はまだ死んでない?」
勇者軍からしてみたらロザリーさんがこの場での戦闘の指示とかを出しているのでロザリーさんが指揮官だと勘違いするだろう。だが、この指揮官とはロザリーさんの事では無い。魔王軍のプレイヤー達にとって指揮官と呼ばれる人は急に敵陣奥深くに行って街を破壊したり、急に砦に現れて静かな威圧感で敵を圧倒して部隊の損耗を抑える為に撤退の支援をしてくれたり、ほとんど眠らずに魔王軍のプレイヤーの為にバフ付きの食料を作っていたり、泥団子霧爆弾による進軍妨害や一日一回限定(のように見せる)巨人の召喚のような様々な情報戦を仕掛けたりしている人があんなあっさり死ぬ訳が無い。あれも敵を騙す為の偽情報を流す為の作戦だったのでは?思考がそこまで追いついた時にさっきのは演技であったとその場に居た魔王軍プレイヤー達は勘付く
「「「やってやるぜぇ!」」」
「なっ、何だ急に!?」
死んだのではなく、別の何処かに向かった。指揮官の情報が部隊のリーダーから伝えられる度にあの人はいったいどうなっているんだと毎回思っていたが、今回もまた先の事を考えてどこかで動いているとするのなら……
「うへへへへ!死ぬにしてもお前らは道連れだぁ!」
「ここは死んでも通さねぇぜぇ?」
「えひゃひゃひゃひゃ!我等不滅の魔王軍!死にたい奴から前にでなぁ?」
死んでいないと分かれば士気は急激に上がった。ついでにテンションまで上がってしまってハイになってしまっている人も居る
「なんだこいつ等!?」
「急にハイテンションになりやがった!?」
「いったい……うおっ!?」
「ヒャッハー!よそ見すんじゃねぇぞ!」
右腕に丸鋸のアームを装備したダイコーンが敵陣正面に並んでいる盾をもった集団に対して攻撃する。丸鋸は盾に対して強いのか盾を切断して、そのまま鎧まで切り裂く
「ウチの指揮官よりすぐれた指揮官なぞ存在しねえ!来い!おのれの無力さを思いしらせてやるわ!」
自分の名前を言ってみろと言わんばかりの言いぐさ。左手には短いソードオフショットガンの様な銃も持っている。DEXが低ければ命中精度も低くなってしまうが、ショットガンであればDEXが低くても一応は使えるだろう
「ヒャッハー!」
「うごっ……!?」
丸鋸アームで敵の防御を突破し、ショットガンで吹き飛ばす。今までのダイコーンとはまるで違う戦闘スタイルだ
「ほらほら、よそ見したらダメよ?」
「それ良いなぁ?後で貸してよー」
1人が目立つ行動をしたら他の人が目立つ行動をする。誰か1人だけにヘイトが集中しないように、誰かが近接攻撃に動いたらその人に攻撃が集中しないように遠距離持ちが周りの敵に攻撃をする。遠距離持ちに攻撃が行けば近接がその攻撃を防ぐ。一人だけ飛びぬけて強いのではなく、全員強いからこそ、お互いの事を知っているからこそ、自然とお互いのカバーが出来る。指揮官の様な飛び抜けた1人の戦いでは無い。ゲーム内でも上位の実力者同士によるチームプレイによって防御の大型施設は堅固な守りで敵の主力をもってしても突破が容易ではない牙城となっていた
「そうだ……もっとこい!」
「私達が倒れるその時まで……何百人でも何千人でも!」
そしてそこに意識が集まる事で本当に倒すべき相手と、止めなければいけない相手から勇者軍の意識はドンドン離れていく……