囮部隊出発
「よし、主力部隊進軍を開始する」
勇者軍の主力を集めた囮メンバー総勢50人。正直これで突破出来なければ大型施設を修復してバフをもっと盛らないとダメだって事だろう。バリアを張れれば修復も楽になるだろうから今日が実は一番大事な日になるかもしれない
「もしも敵の凶悪なNPCが出た場合は他の施設に行かれないように時間稼ぎをする。それで良いか?」
「ちょっと弱気な気もしますが、そのくらいの相手と覚悟して戦うべきでしょうね」
「一応そのNPCのうちの1人に会った奴も連れてきたけど判断出来るか?」
「白い奴なら見ただけで分かる……最後に殺すって言われたからな」
敵が撤退してくれた砦で、後ろから攻撃しようとした味方を止めた結果、その白い奴に目をつけられてしまったらしい。そのせいで印象にはしっかり残っているので見つけた場合は見間違える事は無いだろう
「多分それ最後じゃ無いから覚悟しておいた方が良いぞ?」
「だよなぁ……絶対途中でやられる気しかしない。とりあえず怒らせないようにしよう」
「負ける前提で考えねーで勝つつもりで行け。気持ちで負けてたら勝てる物も勝てねーぞ?」
「いざとなったら俺が自爆するしかねぇか」
初イベントを経て、パーティを組んだらしいグランダとガチ宮の2人がとても頼もしい
「とりあえず施設は避けて敵の本拠地に向かおう」
「まぁそうじゃないと囮にならないしな」
「如何に敵陣に突撃を掛けて例のNPCを引き付けられるかが重要な所だろうな。プレイヤーならまだしもアイツが行ったら確実にバリアが張れない」
そもそも情報がかなり錯綜して正確な情報が分からないのだから多分こう、と予想を立てるしかない。なんでもフィールド上に泥団子が置かれていてそれに近寄ると辺りに霧が発生して見えなくなるとか、数人で偵察していたら1人ずつ気が付いたらキルされていたとか、色んな情報が出ている。多少の誇張があるかもしれないがどこまで正確な情報なのか分からない
「そういえば砦でNPCの1人を見つけた時に気になる事を言ってたな?」
「気になる事って?」
「村を1つ潰して疲れたって言ってたんだ。NPCならやり過ぎないように1日で出来る事の範囲が決まってるんじゃないか?」
「なるほど、確かにイベントの主役になるのはプレイヤーだ。ならNPCはあくまで1日で限られた範囲の行動しか出来ないと?」
「多分あの白い奴は1日に活動出来る事が決まってると思う。それに目立ってる敵のNPCが同時に何体も現れたって情報も無いから同時に出現するのは1体が上限でその1体を俺達で時間稼ぎすればバリアを展開出来るんじゃないか?」
確かに同時に何体も出てきたという情報はまだ出ていない。これは割と当たっている情報な気がしている。検証する時間はないが、あのNPCの内の1人さえ抑える事が出来たら他に行かないとなればかなりありがたい
「まぁどっちにしろ我々はもう進みだしたんだ。行く所まで行こうじゃないか」
「別に戻れない訳じゃ無いけどなぁ?」
あーだこーだ言いながらも魔王城に向かって進攻する勇者軍の主力達。流石に主力の50人対1人であればある程度の戦闘、時間稼ぎにはなると思う。本当は100人以上で行きたい所だったが、指揮出来る人数の問題、移動速度の問題、主力を集めすぎるとバリア発生装置を守る人数が足りなくなってしまう問題等色々吟味した結果、この人数になった
「やっぱりこの人数は少ないのでは?」
「少ないが、移動速度を考慮したらこのくらいじゃないとな……」
「うだうだ言ってねーでさっさと行くんですわよ!」
「相変わらず口が悪いなぁ……」
「どたまにぶっ放して終わらせるんですわ!」
タナカムとレイカはイベントのトーナメントで当たり戦った仲であるが、それは前回のイベントでの事なのでお互いにそれはそれ、これはこれで別に喧嘩する程仲が悪い訳では無い。ただレイカの口が悪いだけなのだ
「まぁこれ以上こんな所で止まってても時間の無駄だ。早速魔王城に向かうとしよう」
勇者軍の囮部隊は魔王城に向かって進み始めた
「なぁ?一応施設は避けてきたけど、敵と全然会わなくないか?」
「敵も既に施設で戦闘中らしいから急ぐぞ。人数が少ないからか守っている施設はそこまで多くないが、守っている施設の所は突破がかなり厳しいと連絡が来た」
既に戦闘中……ならかなり急がないといけなくなった
「出来るだけ早く見つけたいが……あれは?」
「マジか……」
「何か喰ってるですの」
「アイツだ……」
城に向かって進んでいたら開けた所で大きな円卓に1人分の食事とそれを食べている白いローブを着ている者が一人……あれが例の
「おや?これは失礼。食事はゆっくり取りたいので少々待っていただけますか?何でしたらあなた達もどうでしょう?」
白ローブが指をパチンと鳴らすと円卓に次々料理が現れる。この円卓……50人は座れるし、食事も50食用意されている……まさか既に来るのが分かっていたのか?
「あぁ、心配しなくても毒は入っていませんし、人間でも食べられる物ですよ?だいたい毒で倒される程度では私を倒す事は出来ませんし、そんな物で倒しても面白くないですよ」
あぁ、完全に強者の余裕という奴だ。たった1人だというのにここに居る全員が動けない
「そ、そんな事言って食べている最中に……」
「無粋ですねぇ?おや?あなたは確か……バックさん!」
「デックだ……」
「あ、失礼。で、ブックさんは食べないのですか?一度キチンと料理を見てから判断するべきかと思いますが」
わざと間違えているとしか思えないが、料理を確認しろと言っているから見てみるべきか
『お手製ハンバーグ 食べると肉汁とうま味が溢れ出す 空腹度回復+30% STR+8% 30分』
『サケリンクスのムニエル 箸でも簡単に割けるくらい身が柔らかい 空腹度回復+20% INT+8% 30分』
『フレッシュサラダ 瑞々しい野菜と酸味の効いたドレッシングでサッパリしている 空腹度回復+8% DEX+10% 30分』
「……皆、頂こう」
これはホフマンの料理に匹敵するか越えているレベルの料理……それを相手は無償で提供して喰えと言ってくる……これは相当舐められているが、喰わなければ間違いなく勝てない。従うのは癪だが、ご相伴に預かるとしよう
「では、皆さんごゆっくりどうぞ」
よっしゃ!ご飯一緒にどうですか作戦成功!