追われたい背中
「と、いう事です」
「改めて思うが、ハチ君は凄いな?自分の為にやっている事が皆の為にもなる。だからほとんど休まずに指揮官として様々な事をやっているのであれば……」
「ほとんど全員が指揮官としてハチの事を改めて認めるでしょうね?最初は文句を言っていたみたいだけど多分ここで一番頑張っているのはハチでしょ?」
「色んな所のケアとかもしてるしな?俺ん所の部隊だと指揮官の為に自爆特攻も喜んでやるって言ってた奴も居たからそんな事してもアイツは喜ばねぇぞ?って教えてやったら命尽きるまで戦うって言ってるしよ?」
「ハチ君の優しい一面や、ちょっとドジしちゃう可愛い一面のギャップがたまらないんです!」
「彼の魅力は通常では分からないからな。こういう仲間にでもならない限り、そもそも見つけられないか、敵対した段階で彼の良い所を見る前にやられてしまうからな」
ハチがパンを作っている間、色々会話をしているハチのフレンド達。本人が聞いていないので言いたい放題だが、間違っている事はほとんどない
「俺達が時間を有効に使えるように頑張ってくれてるんなら俺達も何かした方が良いんじゃねぇか?」
「ハチさんは最後に眷属と仲良くなってくれると嬉しいとか言ってました。戦力の増強を考えれば眷属との交流か、しっかり休むべきと」
ハチの事を心配して無理はしないでと言って別れようとした後、思い出した様に「時間出来たなら眷属と遊んであげるとか、ゆっくり休んで明日に備えておいて」と言われた事を思い出した
「眷属との交流……要するにイベント限定スキルの習得の為に何かするか、体を休めておけって事か」
「それじゃあ私は新しい眷属を探そう。この恰好だと何故かリビングアーマーに肩を叩かれて、せめてもう少し何か着た方が良いと左腕の鎧が勝手に着けられたんだが、そんなに寒そうに見えてしまったんだろうか?」
ハスバさんの今の恰好はスク水に忍者頭巾。そして左腕には鎧という。個々の統一性こそ無いが、何となく纏まっている格好だ
「多分寒そうに見えたんじゃ無いんでしょうか?」
「そうか……うーむ、情けで仲間になって貰ったとすると若干複雑だが、それでもハチ君の力になれるとするならやるべきだろう」
そうしてハスバさんが眷属達が居る所の扉を通るまで皆押し黙っていた
「トーマ、あんたよくやったわ。完全にギャグみたいなあの恰好が目の前に居たら笑うの抑えるの大変なんだから」
「完全に情けで鎧を着せてもらってんじゃねぇか……」
「あの人に関しては触れない方が無難だろう。むしろツッコんだら負けだ」
そんなこんなで次にその扉が開いた時にスク水忍者頭巾の左腕のみ鎧装備、そしてマントが追加された状態で出てきた時には皆吹き出してしまった
「ふぅ、これを焼いて完成っと!とんでもない数だなぁ?」
「コレデ、サイゴデスネ?」
「うん、それでラストだから頑張って」
「ハイ」
大量のパンを同時に焼く為に、どうしたら良いかなぁと考えていたら、ゲヘちゃんが指先を影から出して変形させる。10本ある指先が何となくピザ釜っぽい感じになり、大量のパン生地を一気に焼く事が出来た。最初の一回はゲヘちゃんオーブンの様子を一緒に見て、温度を調整し、火加減を覚えてもらう。これであとは焼き上がりを見ながら取り出すだけで良い。ゲヘちゃんのお陰でパン作りがかなり楽に出来た
「ゲヘちゃんのお陰で助かったよ。パン2000個を作れたからこれで備蓄に余裕が出来た」
まぁ1日3食で計算すると2日で無くなるレベルの量なんだけどね?あ、眷属のご飯事情も確認しておかないと……
「バルミュラ様、夜分遅くにすみません。一つお聞きしたい事がありまして……大丈夫でしょうか?」
「ハチか、寝なくて良いのか?」
「その点については大丈夫です。眷属達の食事についてなんですが……」
「あぁ、皆の食事を一人で良く作っていたな?眷属の食事に関しては気にしなくて良い。大気中の魔力を摂取しているからな。食料は君達の分だけあれば良い」
あら、便利な体してるんですねぇ……
「分かりました。お陰で安心出来ます」
「流石に眷属達の分まで食事を用意したら大変だろう?」
そんな事になったら防衛どころでは無い。ここは優しくて良かった……
「まぁ褒美として何か食べさせる等はしても良いが、好みもあるだろうからその辺はそやつに合わせてやると良いだろう」
僕の所にも好物が命と魔力っていうぶっ飛んだ物が好きな奴が居るんで良く分かります
「ハチはそれだけ他の者に気を配って疲れないか?多少はワガママになっても文句は出ないと思うが?」
誰よりも働いているんだからワガママが許される……ってなんか違う気がする
周りを見てから人差し指を口元に持って来る周りに会話が聞こえないようにする合図をバルミュラ様に出す。するとバルミュラ様もそれに応じて音を遮断してくれる
「して、本音は?」
「めちゃめちゃ気を使って疲れます。ですが、ここで頑張る姿を皆に見せれば、皆が僕について来てくれてこの戦争に勝てる可能性が上がります。言う事を聞いてもらうには口先だけの指揮官よりも行動で示す指揮官の方が良いかなと」
僕は指揮官としてどこまで優秀なのかは分からない。人としてでは無く、駒として扱えないとダメなのかもしれない。でも、皆の持つポテンシャルを引き出し、出来る限り全力で戦ってもらう為には誰よりも頑張る姿を見せるのが一番だろう。僕だって怠けている人の背中よりも頑張っている人の背中を追いたい