勇者の一撃
「あ、防衛部隊の皆もお疲れさまです」
「いやいや、末恐ろしいな?我らが指揮官様は」
「一人部隊……ワンマンアーミーってか?」
「いやぁ、銃とか使って無いし、ワンマンアーミーとは違うんじゃない?」
「なんにせよ、指揮官のお陰で何とかなったな?結構HPしんどかったんだよ……」
どうにか今回は防衛部隊の人達の協力によって乗り切れた。明らかに進軍出来ない状況を作り出してくれたお陰で僕は相手の後ろから現れて圧迫。逃げ道を作ってあげる事で撤退を促せたので、これで損耗を抑えて時間を稼ぐ事が出来た。これはかなり嬉しいぞ?
『偵8からI方面で戦闘中の部隊へ、こちらは敵を退ける事に成功。そちらの状況は?』
『こっちは3割程度やられたが、なんとか防ぎ切った!』
『お見事です。そろそろ日没も近いのでバリア内に入るように撤退しましょう』
3割やられたか……それでもなんとか防ぎ切ったって結構凄いな?
「向こうも防ぎ切ったみたいですし、こっちも引きましょう。3割程度やられてしまったみたいなので、その人達からヤバそうな相手が居たかとか直接聞きに行かないと……」
何とか防ぎ切れたとはいえ、やられてしまった人が居るのも事実。その人達がどんな奴にやられたのかの情報も纏めなくてはいけない。メッセージで聞こうと思っても、そもそもやられた人がメッセージが使えるリーダーでは無いだろうし、直接聞きに行くしかない。部隊のリーダーに聞いても良いんだろうけど、実際にやられた人に話を聞いた方がより具体的な何かが分かるかもしれない
「ただいま戻りました。やられてしまった人達は何処に?」
「あぁ、それならば……」
「よう指揮官。わりぃ、やられちまったよ」
倒されたであろう人が壁際からやってきた
「いえいえ、皆が頑張ってくれたお陰で残りの部隊の人達が敵を退けました。救援に行けず申し訳ありません」
「そんな事で謝んなよ。それに、今回やられた事でステータスが若干上昇してるんだ。いつもなら復活してすぐは弱体化してるんだが、イベント中は強化されて復活するってよ?ただ今回はすぐ復活したけど、次は4時間、その次は8時間、その次は1日と復活まで時間が伸びるらしいからあんまり死に過ぎると良くないらしい。一応死んでる間は幽体で物理的干渉は出来ないけど、会話とかは可能らしいから死んでも何かしら貢献は出来そうだなとは思ってる」
へぇ?それなら死んでいる間も色々悪い事出来そうだな?
「なるほど、死んだとしても貢献出来そうなのはかなり良いですね。ところで、ちょっと聞きたいんですがどんな相手に倒されたか、どんな手段で倒されたかとか分かります?倒された瞬間の記憶がどうなるのかとか、どんな相手か探るのに役に立つし、些細な情報で良いので教えてくれませんか?」
「結構言い難い事を聞いて来るのな?まぁ勝つ為に必要だから聞いてるんだろうけど」
その反応も当たり前か。どんな風に、どんな奴にやられた?って聞かれてるんだから答えたくないのも仕方が無いだろう。でも勝つ為に必要と理解してくれているのはとてもありがたい
「ぱっと見は見た事が無い奴だったし、勇者って呼ばれてたからイベントの勇者様だろうよ。横薙ぎの一閃で一気にHPを8割程度持っていかれて、そこを周りの奴らに削り切られた感じだな。他の死んだ奴らも大体似たような感じだ」
「全員勇者の一撃で8割程度HPを?」
「あぁ、魔法使い系から戦士系まで全員だ」
防御力が違う全員が同じ様に8割のHPを吹っ飛ばされて、残り少ないHPを他の勇者軍プレイヤーによって削られてやられた……これは要するに
「勇者って割合ダメージ攻撃持ってるのか……しかも8割?そんな奴を止めないといけないのか」
「だけど、俺達以外死んでないって事はその攻撃は1発しか飛んで来なかったか、俺達が受けたのを見て避けたか、防いだんだろ?しかも退けたって事は戦闘には勝ってるし、ここから先は実際に戦闘生き残った奴に聞いてみないと分かんねぇかな」
「1日1発限定か、発動に何かしら条件があるかかなぁ……初見の攻撃を躱せないのは仕方ないとしても流石に2回目で全員が防ぐ、もしくは躱すって流石に出来過ぎじゃありません?」
上手い人達だとしても全員が2回目で完全に対処すると思うより、2発目が来なかったと考える方が自然だろう。こういう敵に対しての楽観的な考えは良くないけど、今ある情報だとそう考えるのが自然だと思う
「なんにせよ勇者との戦闘と、戦闘能力の情報を収集する重要な仕事をやってくれてありがとうございます」
「何かむず痒いな……俺達負けただけだぜ?」
「例え負けたとしても情報を持ち帰れる負けと、何も分からずに負けるのじゃ違いますよ。やっぱり勇者は何かしらの手を打たないとダメそうだな……とりあえず今はどうしようもないのでご飯作ってきます!」
小麦粉練ってパン生地にするのは時間がかかるし、今からやらないと人数分のパンとか作れないだろう。頑張らねば……
「何が、何かしらの手を打たないと、だよ。部隊のたかが3割のHPを8割削るのと、村一つ丸々壊滅させる奴のどっちが危険だよ。全く……」
正直どっちが怖いかと言われたら指揮官の方が怖い。あの人懐っこそうな感じで、皆の役に立とうと努力している姿と、村を潰したり、街を燃やしたりと残虐的な所を見ているとどちらが本当の姿なのか分からなくなる
「はぁ、意味のある負けってか……偵察に破壊工作に殲滅。そんでもって料理?指揮官は本当に何でもやるなぁ?」
ハチの後ろ姿を見送りながらも、ただ負けた訳じゃ無いという励ましの言葉に複雑な感情は一旦置いておいて、ちょっと嬉しくなってしまうのであった