大舞台
「こりゃあヤバそうだ。一旦引くか?」
「こっちも消耗が激しい!」
「砦は一旦諦めよー」
「これはやばそうだー」
「撤退だ!」
かなり急いで砦に向かってみたけど、何人か大根役者が紛れ込んでますね……
「おやおや?皆さんどうされたのですか?こんな所で撤退なさるおつもりで?」
砦の上に出来るだけ他の人に見えないように登り、大きな声で呼びかける。そうすると戦っていた全員がこっちを見て戦闘が一度止まる
「あ、あー、えーっと……」
『おい!なんて呼びかければ良いんだ!?』
あ、そっか。ここで下手な呼びかけをしてしまえば計画が狂うから呼び方をここに来る前に決めれば良かった……やっべどうしよ?
『幹部っぽい感じになんとか出来ますか?無茶振りですがすいません!お願いします!』
「えぇ……と。お、おぉ!同士よ!我らが同士よ!何故このような所へ?」
「同士がお困りの様子だったので確認しに来てみましたが……ふむ、ここは一度撤退しましょうか。私も今日は村を1つ潰して疲れました。どうでしょう?勇者軍の皆さんにこの砦は差し上げます。我々を撤退させてもらえませんか?」
砦の上でわざとらしく大きな動作で撤退を宣言する
『アドリブありがとうございます!助かりました……』
『何とかなったが……にしても良い演技してんなぁ?指揮官様よ?』
『ダイコーンさん仕込みのロールプレイですかね?』
「何馬鹿な事を言って!」
砦の上に登ってきた敵が僕の背後を取り、剣で攻撃をしてくる
「【身代わり】」
「えっ」
小さく呟くと敵の剣が僕を突き刺す。が、それは【イリュジオ】で作られた幻影の僕。そしてわざとらしく大きく動いていたのは【ディジャヴ】によって現れる場所をずらす為。【身代わり】は【マクロ】によって【イリュジオ】と【ディジャブ】を合わせた魔法だ
「一度しか言いませんよ?ここは引いてあげると言っているのです。厚意には素直に甘えるべきですよ?それが出来ないとこうなるのです」
「ひっ……」
「な、な……」
「こんなの勝てんのかよ!?」
僕を攻撃してきた相手を首を絞めた状態で拘束していたので右手を顎の下に、左手を右蟀谷よりも少し上の位置にあてて、両腕を一気に外側に引っ張ると相手の首が180度逆を向き、地面に力なく倒れる。そしてそのままポリゴンと化してしまった。ほうほう?ネックツイストは人を一撃で倒せるのか。やっぱり頭を潰す、心臓を潰す、首を折るみたいな現実でも生命活動が止まるようなものはこっちでも普通に致命の一撃足りえるって事だ。切り傷、骨折、打撲、火傷、凍傷、毒。どんなものであれ魔法の力で癒される可能性はある。だが、即死の一撃が出せるのであれば人間相手だとこれほど使える情報もないだろう。まぁでもこの攻撃方法を人間以外にやろうとしても多分無理だな。人間相手だからこそ使える技だ。今後はバンバン使っていこう。森や鉱山辺り狙い目かな?
『その距離なら全員に伝わると思うんで伝えてください。もし素直に撤退させてくれなかったら目くらましと煩い音を出すんで目と耳の防御をして、そのまま撤退してください』
『了解、伝えるからまた演技しておいてくれ』
「もう一度だけ問いましょう。我々はここを皆様に明け渡します。撤退、させていただけますね?」
砦から飛び降り、地面直前で【ダブルジャンプ】を使い着地。本当は直で着地が出来たら良かったんだけど、空中でジャンプする事でふんわり着地。これでもカッコつくはずだ
「「「「「……」」」」」
「よろしいみたいですね?では行きましょうか」
僕が地面に降り立つと周囲がザワっとしつつ距離を置く。良いね!かなり脅しが効いてるみたいだ
「覚えてやがれ人間ども!」
「今回は同士に免じてここで引いてやる!」
「撤退するだけだからな!負けた訳じゃ無いからな!」
「おぼえてろー」
「またやってやるからなー」
だから演技苦手なら無理にやらなくて良いのに……
「後ろから矢を撃つ。そんな勇気の欠片も無いような方が勇者軍にはいらっしゃらないと思いますが、もし……その矢を射るつもりでしたら、命は無いとお思い下さい」
【察気術】で背後から矢を射ろうとしている奴が居たので、後ろは見ないで警告の言葉を告げる。今結構強者ムーブ出来てるんじゃない?
「お前やめとけ!向こうが勝手に引いてくれるんだ。向こうが居なくなってから安全に占領させてもらおう……」
「賢く、話が分かる方は好きですよ。お名前を聞いても?」
丁度良い奴が居たので話しかけておこう
「デックだ……」
「デックさん。良い名前ですねぇ?今度戦場でお会いした時に覚えていれば最後に殺してあげますよ。では」
返事は聞かずに歩いて自陣の方向に歩いていく。すぐに消えても良かったけど、ゆっくりと去る方がより圧があって良いと思ったのでそうした
「皆さんお疲れ様です!おかげさまで作戦通りに上手く砦を明け渡す事が出来ました!」
「指揮官の迫真の演技凄かったなぁ!」
「あれはヤバい。マジで負けイベに出てくる敵かと思った」
「惚れ惚れする手際だったなぁ……」
「俺だったら絶対NPCだと思う。いや、NPCであってくれだな。あんなの見せられたらチビっちゃうぜぇ……」
どうにかほとんど被害無しで撤退する事に成功したので作戦としては成功と見て良いだろう。ここから白ローブで動くのは出来れば避けたいな……夜間隠密行動を考えると別の服装か、ローブに色を塗るかが最適かなぁ……またバルミュラ様に相談してみようかな?