芝居聖女
「じゃあイアちゃん。これ、早速使わせてもらうね」
姿隠しの一滴を飲む。葉っぱに乗った大きな水滴をグイっと飲むと僕の体があっという間に消える。ちゃんと服やアクセサリーも一緒に消えたのでこれは素晴らしいアイテムだ。あと2つ残ってるけど帰りも多分使うだろうから1つしか残らないか……これは大事に使わないとな
「消えた?消えてるよね?」
「きえてる」
「師匠!さっきのまた作ってくだ…ふぎゃ!?」
「あぁ、消えてるわ」
モニクがダッシュで教会の中に戻ってきたので、衝撃に備えていたら思いっきりモニクからぶつかってきた。これは見えてませんね……
「悪い悪い、まぁまた今度作ってあげるから。じゃあね!」
「えっ!?師匠どこですか?また天井に居るんですか?」
「ていっ」
「痛ったたぁ!?」
モニクにデコピンしてから泉に向かう。人をいつでも天井に張り付いてる虫みたいに言うんじゃない
「うん、発見されてないみたいだ」
アストライト経由でフォーシアスにワープしてみた所、多分話しかけてきたと思われる人達にも見つからずにやってくる事が出来た。効果が切れる前に大教会に急げ急げー
「よし、それじゃあシスター服に着替えて……手紙も用意して、あーあー」
一応女性っぽい声を出してみる。不自然にならない程度の高音。単語単語で区切って喋れば維持出来そうだな
後は大教会前で姿隠しの効果が切れるのを待つとしよう
「ん?何者……だ?」
「おい!聖女様はいらっしゃるか!?」
丁度僕の姿が現れたタイミングで教会の中から人が現れた。丁度良い、聖女様を呼んでくれるみたいだし待つか
「いったいどういう……だが」
「あの姿は伝説の聖女の為に作られたという修道女服……しかも戦闘用のでは?」
なんかドンドン教会の人達が大教会から出てくる……流石にここまでは想像してないぞ?
「伝説の聖女が現れたというの……は!?」
今度は司祭みたいな人が出てきたぞ?そんなに出て来たら仕事にならないんじゃ……
「本当に、聖女様……ずっと、ずっとお会いしたかったです!」
おっと、今の聖女様が出てきたみたいだ。ここからが大事だな、多分だけどこの聖女様とメリアさんを会わせるのは違うと思う。だって会うんだったら手紙じゃなくて連れて来てとか頼むと思うし、会う気が無いから手紙にして、しかも僕に代わりに届けてくれって頼んだんだろう。ただ単純に聖女の言葉を込めた手紙を渡す。その橋渡しとして僕が居る事を忘れちゃいけない。適当な事を言ってこの聖女が会いたい、もっと話したいと思わないで託されたと感じる様に話さないといけない訳だ
「あなたが…今の聖女?」
よぉし、ちゃんと女性っぽい声が出せてるぞ
「はい!私が今聖女を任されています。あなたが帰ってきたのなら聖女の役目をあなたにお返ししま……」
「私では…ダメなのです…もう…私では」
教会の結界に触れ、バチンッとわざと弾かれる。左手をそっと触れただけなので体ごと吹き飛ばされはしない。だが、その光景は教会関係者にとってとてもショッキングな光景だったかもしれない。まぁそんな事よりこの声の出し方。結構辛いかもしれない……もう少し言葉を少なくしないと持たないかも
「何故、何故なのですか!?あなた以上の聖女は居ないとずっと言われています!私ではあなたの代わりにはなれません!」
あぁ、優秀過ぎる人が居たらそれ以降の人は絶対比べられるもんなぁ……しかも既にこの世に居ないのであればそれは比べられてもただ辛いだけだ
何も言わずに手足と首に付いている枷を見せる。まぁ僕のお世話になっている呪いのアクセサリーとピュアルから貰った仮面(首輪状態)なんですけどね?
「その枷は……」
「私は…既に…聖女では…少しの間だけ…あなたの為に…こちらに…ゴホッゴホッ」
そもそも僕聖女じゃないし、やべっ!喉にダメージが……頑張れ、今良い所なんだ。頑張れ僕の喉!
「まさか、私の為にそのような枷を付けられているのですか!そんな……」
聖女が泣きそうな顔になっていたので黙って首を横に振る。だってこれ好きで装備してる物だし
「これを…未来は…あなたに…託します」
手紙を聖女に差し出す。良かった。手紙は結界では阻まれないみたいだ。でもそろそろ限界だ
「手紙……ありがとうございます。わ、私はあなたの遺志を継ぎ、グスッ、誰にでも分け隔てなく、接する……本当の聖女として、これからも精進します!」
聖女から聖女へ託された結界越しの手紙。聖女様や、教会関係者も涙で顔がぐしゃぐしゃだ。もう教会には入れないけれど、自分の想いや願いを書いた手紙を新しい聖女に託す事で彼女は本当の聖女になれたのかもしれない。名前知らないけど
「もう…時間が…来てしまいました…頑張って…あなたなら…出来る」
喉の限界が本当に来てしまったので、それからは手紙を渡した後に振り返り、街を見下ろすベンチの方に進む。ホフマンさんと一緒に座ったベンチだ
「お待ちください!」
待てません。これ以上は流石にもうボロが出る。振り返らずにベンチよりも更に前に行く。ここから先はもう下に街が広がっているだけだ
最後に振り返り、聖女に対してお辞儀をした後、後ろ向きで落ちる。気分はバンジージャンプだ
「おっとと……」
「さぁ、帰って報告だー」
飛び降りた後は即座に壁にくっ付いて見つかる前に姿隠しの一滴を飲み、姿を消す。当然落ちた聖女を探す様に覗き込んでいた奴らには見つからずに、泉に帰還。棄てられた教会に無事に戻ってきた




