やれるとこまで施し返す
「えっ!もう配り終わったのかい?」
「ベアッ!」
両手とも前に出して持っていないアピール
「いや、喋っても良いんだよ?」
「あっ、そっか。はい、配り終わりました」
ついつい熊モードの対応を続けてしまっていた
「とりあえず子供に重点的に配ったのでここに来るなら親も一緒に来るんじゃないかと思います」
「なるほど?中々やり手じゃないか。これじゃあ銀貨1枚は安かったかな?」
ダンさんがそんな事を言うけどお金はいくら積まれても困るだけなんだよね
「まぁ安い高いは別として皆さんの芸を裏から見せてもらえますかね?」
「裏から?」
「まぁ、乗り掛かった舟というか、何か起きた時の為に予備に1人居た方が安心出来るんじゃないですかね?」
お客さんが来てくれても来てくれなくても最後までお手伝いすると銀貨を払ってもらった時に決めてたから口実としてはこんな物だろう
「おぉ準備してる!」「おっ、あれかぁ!」「さっきクマさんがねー……」「面白そうだな?」
そうこうしているとお客さんも結構やってきた
「わわっ!いっぱい来たよ!?」
「凄い数……こんなの初めてじゃない?」
「やっべ、ちょっと緊張してきた……」
「どどど、どうしよう……」
「皆落ち着きなさい。ほら」
「「「「危なっ!?」」」」
4人に向かってシミターっぽい剣を投げるダンさん。危ないと言いつつも皆シミターを受け取り、くるくる回す
「皆凄いですね?まるで緊張とかしてないみたいだ!」
ちょっと下手過ぎるだろうか?
「お、おう……普段通りやれば良いんだ」
「大丈夫です!しっかりやれます!」
「そうね、いつも通りお客さんを笑顔にしましょう」
「よーし!頑張るぞ!」
いや、案外うまく行ったのかな?
「お客さんも待っているから行こうか!」
「「「「はい!」」」」
皆これから芸を見せるからか目付きが変わる。本当に緊張は無さそうだ
「すっごいなぁ……なんだあのジャグリング?」
シルさんとソーレイさんが向かい合ってシミターをジャグリングしている。やっぱあのシミターそういう風に使うんだ……
「で、クードさんは魔法を使った空中ブランコか」
2本の糸と鉄の棒がくっ付いた物を持ち出したクードさんは風の玉を出し、それを糸の端に当てると風の玉が空中に上がり、留まる。即席の空中ブランコだ
「ユーちゃんは玉乗りか……すっごいバランス感覚だ」
玉を縦に2つ板1つ。そして逆立ちっていうもうバランス力の鬼みたいなユーちゃん。魔法云々抜きにしてかなり凄いぞ?
「皆凄い……けど」
この芸は確かに凄い。見てる人達も凄く盛り上がっている……だけど1つやる事が終わると次の物をやるまでの準備の時間どうしても間が開いてしまう。その間にお客さん達がちょっとソワソワしてこの場から移動しそうな雰囲気を感じた。見せてくれる芸は凄いけどその間の『繋ぎ』が無い。だからお客さんが居なくなってしまう可能性を感じた時には既に僕は勝手だけど馬車の中に入っていた
「着替えをした時に見かけたんだよな……これ使ってないよね?」
派手な柄の服と化粧道具。勝手に使うとやっぱり怒られるよなぁ……でもやった方が絶対良い
「【イリュジオ】うおっ凄いメイク……」
メイクをして、服を着てから新しく覚えた魔法を使う。これで馬車の中にピエロが2体になる
「この状態で着替えるとどうなるんだろう?」
疑問に思ったのでシロクマに戻ると【イリュジオ】の僕はピエロ姿のままだった
「これなら1人で2役出来るな?」
【イリュジオ】のコントロールを自分で操作するに選択すると自分が2つに分かれる不思議な感覚を感じた。同じ動きをするのは簡単だけど違う動きをするのは結構大変だ。【精神防壁】の超複雑版だと考えて練習だ
「皆様、次の芸の準備に10分程掛かりますのでお待ちください」
ダンさんの声が聞こえた。何もしないで10分も待ってくれるお客さんはそんなに多くないんじゃないかな?
「ダンさん」
「ん?えぇ!?」
ダンさんが裏に戻ってきたので呼び寄せる。当然凄く驚いている
「ごめんなさい。勝手に借りました。簡潔に言うと10分持たせます。それじゃ!」
「ちょっと!?……出来るのかい?」
「やります」
「分かった。こっちも急いで準備するからお客さんを頼んだよ!」
時間を掛けると人が居なくなるという事はダンさんも分かっているみたいで僕を引き留めようとはしなかった。ここからは僕のステージだ
「ん?なんか出てきたぞ?」
「なんだありゃ?凄いメイクだな?」
「あっ!シロクマさんだー!」
お客さんの前に登場したのはピエロの僕とシロクマの僕。幻影だけど物を持つ事が出来たのでロープを使ってシロクマの僕の首にリードの様にロープを付けて若干嫌そうに登場した
ピエロの僕は喋らずにお客さん達に手を振り、シロクマの僕もちょっと不貞腐れた感じで手を振る。そしてピエロの僕が後ろを向いた瞬間に両手でお客さんに向かってしっかりと元気よく手を振る
「可愛いー!」
その声を聞いてピエロの僕が正面に振り返るとスン……と最初の状態に戻り、おかしいなぁ?とまたピエロが後ろを向いたらまた両手を振ってアピール。見てない間だけ元気になるネタだ
ピエロが懐からアプリンの実を3個出し、1つをシロクマに投げる。パシッと受け取るけどもっと寄越せアピール。2つ目を投げてキャッチ。もっと寄越せアピール。そして3つ目を投げた所でピエロのポケットを出してもう持ってないとお客さんにも見せるがもっと寄越せアピールをしてピエロが一旦裏の方に帰る。アプリンの実を取りに行かせた感じになり、シロクマ1体がその場に残されると貰った3つのアプリンの実をジャグリングする
「あの熊さんもジャグリングしてるー!」
「アプリンの実でやってるよー!」
お客さんにもピエロが居ない間、違う面を見せるシロクマを面白がって笑ってくれる
ガタンガタンとピエロが大きな音を立てて戻ってくるぞー!とワザとらしく知らせると、ビックリした感を出してジャグリングをやめて、座って待ってましたよ?風を装う。勿論お客さん達は一部始終を知っているのでクスクスと笑う
3つ追加でアプリンの実を持ってきて、これでおしまいとジェスチャーで伝え、さぁ次次!と急かす感じでシロクマの首に付けていた縄を外す。ここからはお客さんにも参加してもらうぞ?




