19枚落ち補充無し
「えっと、多分ここで前に出ると飛車が出てきて動けなくなるだろうから一旦後ろに引くか」
攻めるだけじゃなく、適度に引いて誘い込む。僕一人だけだからここは焦らずにゆっくりとやるべきだろう
「これなら……あれは多分桂馬だよな?ならここに移動すれば釣れるか?おっ!来た!」
相手の動きがかなり初心者っぽいのが救いだ。でもこっちの手番の後、ほぼノータイムで動かれる時もあるから気を抜くとあれ?どのハエが動いた?となる時もある。動くタイミングをバラバラにしてこっちが連続2手移動して反則させてからの逆切れお仕置きとかする気なんだろうか?
「こういう事か……これどっちだ?」
頭の上に四角形と五角形の冠を被ったハエが縦に2体並んでいる。飛車と角行のオーラは見えるからこの2体は違う。同じ形の冠をした奴も初期位置とは違う所に居るからあれが元は何だったか……金将か銀将か。金将なら斜め後方には行けないし、銀将なら左右と後ろには行けない。あの縦並びが金銀の順番か銀金の順番かで立ち位置が非常に大変になる。金銀の順番なら銀の横に行けるし、銀金の順番なら金の斜め後方のみ……これを悟らせない為にあんなバラバラなタイミングで動いていたか……
「ブブブブブ」
「くっそ……笑ってるな?」
骨の王冠を被ったハエがまるで笑っているように感じる。今に見てろ?……絶対倒してやる
「絶対全滅させてやるからな?」
こんなハンデ戦してるくせに僕を煽ってくるハエの王様は絶対に将棋ルールに則って王様とのタイマンまで持ち込んでから倒す。こうなれば意地だ
「駒を取っても自分で使えないとかズルいよね?そこはチェス要素か」
ネクロマンサー的な倒した相手を復活させて戦える人とかなら倒したハエを使えるかもしれないけど、それは僕には出来ないから目指すは全滅だ
「ブブブ!」
「おりゃ!」
触手を地面に刺し、反動を使ってキックで隣接したハエの歩兵を倒す。全滅を狙うなら相手の駒を盾にする必要もあるだろうから調子に乗って近場の奴を全て倒すのではなく、慎重に行動しよう。煽られたからと怒りで行動すると勿体無い一手を打ってしまう。まぁこの一体は倒しても大丈夫な奴だから遠慮なくやらせてもらうけど
「来たな?角行?」
遂に見えない角行が動き出した。オーラで視えているから分かるが、僕の後ろ2マス先に居る。歩兵はある程度倒し、敵陣にも結構切り込んだ形になっているので一度下がるかと考えていたところでのこれだ。若干相手のレベルが上がった気がする
「これで……どう動く?」
後ろに下がり、角行と隣接する。これで攻撃してくるようなら触手で返り討ちにするが……
「動かない……いや、正面から桂馬が来るか……この位置だと現状王手状態だな?」
相手の桂馬2マス先右の位置に僕が居るから動かないと取られる状態。まぁ、逃げ道は有るから焦る必要は無い
「じゃあ遠慮なく角行を取らせてもらうよ!」
「ブブブ!?」
【触手攻撃】で刺突の属性を付与し、桂馬から逃げる様にバックステップをして背後の角行に攻撃すると慌てて対処しようとしていたけどそれじゃあ遅い。というか今更だけど背後は触手で正面は自分の手で対処するのも中々使い勝手が良いかも?
「一丁あがり!」
刺突で突き刺し、斬撃に切り替えて十字に切り裂けば角取り完了だ。後ろにも下がれたし、角行も取れた。明らかに動揺したハエ軍団。見えてないと思ったか?
「ほら、次来なよ?」
手をクイクイとしながら挑発する。さっきやられた分だ
「ブブッ!ブブブ!」
ハエの王様も怒ったのか前足を前に出して指示するような行動をしている。戦っていて思ったのはこれは僕の思っていた蠅の王では無さそうだ。簡単に僕の挑発に乗って兵を動かしてきたけど、悪手だ。僕に態々取ってくれと言わんばかりの動きだ。ついでにあの縦並びも前に居たのが銀で後ろに居たのが金だったみたいだ。前に居た奴が斜めに下がって横並びになった時点で分かった。挑発したらヒントまでくれたよ
着実に一体ずつ取っていき、残りは飛車と王の2体のみとなった
「あの飛車、王の隣から絶対動かないのが厄介過ぎる……」
飛車を取ったら僕は王様ハエに取られる。先に王を取ったら僕の決めた全取りが出来ない。どうするべきか……
「ん?急に飛車が……」
王の隣に居た飛車が急に僕の横を通り過ぎて行った。ここに来ての急な一手……何を考えている?
「とりあえず相手の王と同じ列に行くか……」
王は成る事は出来ないけど王だけで進むならこのまま行くしかない……成る?あっ!さっきの飛車の移動は!?
「ブブブ!ブブッ!ブブッ!」
「龍王……これはやっちゃったか?」
さっきよりも強さを増したオーラを感じる……いや、既に姿は見えている。体が赤い、通常の3倍は速く動きそう
「もうここまで来たなら龍王と戦ってそのあと王とタイマンだ!ここまで付き合ったんだからこれ以降は普通のバトルに付き合ってもらうぞ?」
ここまでずっとハンデの付いた将棋勝負に付き合ったんだ。もう普通のバトルに持ち込ませてもらうぞ?
「【触手攻撃】!落ちろ!」
打撃属性付与の触手の拳を龍王ハエに叩き込む。躱されても次の触手の拳が、躱されてもまた次が、当たるまで触手の拳が龍王ハエを襲う。マスを動けばそっちの手番が終わっちゃうぞ?
「ブ……ブブッ!」
「捕まえたぞ!」
触手パンチと僕の掌底。たまに蹴りも織り交ぜて相手の動きも抑制して触手で相手を絡み取る。5本の腕での攻撃。僕はお前を倒してその後ろに控えている踏ん反り返った奴をぶっ倒さなきゃいけないんだ!