ハエの王
白い靄を越えると辺りの風景ががらりと変わる。どことなく戦場の様な……何かの骨とか鎧の破片が転がっている場所に飛ばされた。ここがボスフィールドか……
「ブブブブブ」
「ん?」
不快な羽音が近付いてくる。【察気術】で背後から大きな存在が飛んで来るのを察したので後ろを振り返る
「うわぁ……でっかいハエだなぁ……」
4m以上はありそうなデカいハエ。頭の上に骨で出来た冠がボスっぽさを更に助長させている。ハエの王?え?それってヤバい奴では?
「確定した訳じゃ無いけど注意は必要だな。魔法とかも使えないし……」
仮に僕が想像している蠅の王……ベルゼブブだった場合、相手は元々神様の悪魔だったはずだ。【アビスフォーム】状態で修道服を使えないから【聖域展開】等で足止めとかは出来そうに無い……これは厄介だぞ?
「でも、勝った人も居るって事は本物じゃないか或いは様子見の第一段階的な物と見るべきか……」
「ギチチチチ!」
僕に真っ直ぐ突進してきたのでは回避だ。とりあえず【触手攻撃】で一撃与えておこう
「グキャァァァァ!!」
「うるさっ!?」
ハエに一撃を与えたら甲高い声で叫ばれた。とても煩くて耳を塞ぐレベルだ
「「「「ブブブブブ」」」」
「うわっ、結構増えたな?」
ハエの悲鳴を合図にか、10匹以上のハエが何処からか現れた。距離を取って隊列を組んでいる様にハエの王様の守る様に大体横一列に並んでいる
「ん?」
相手との距離があるからまずは様子見をしようと手を出さずに待っていたけど向こうも一向に手は出してこない。隊列が横1列から2列になって王様のサイドからも攻撃を防げるようにしている。後ろから攻撃するのが良いかもしれないが、あの隊列を即座に組んだハエたちはそんな単純な攻撃を許してはくれないだろう。だけどなんで攻撃してこない?
「こっちが動くのを待っているのか?」
特に情報も無い不気味なハエの編隊を相手に先手を打つべきか……相手の動きを見てからカウンターするべきか
「あれ?そういえばあの頭の……形が違う?」
王冠を被っているハエはデカいし、一目で分かるけど後から出てきたハエはだいたい2m程度であんまり変わりが無いと思ったら一応全部のハエに冠らしき物が頭の上に乗っていた。ただの丸い物や馬?っぽい物、トゲトゲした冠っぽい物など色々な形をした物を被っている事に気付いた。丸、馬、トゲトゲ、王冠……隊列?
「チェス?」
頭に過ぎったのはチェス。ただの丸い物が頭の上にあるのが一番多いからあれがポーンか?いや、だとしたらなんだ?チェスの形だからどうだっていうんだ?
「前に……進んでみるか」
分からないけどまずは少し進んでみるとしよう
「ブブブ」
「1体前に出てきた!やっぱりチェス……いや何かおかしい。何か引っかかる」
ポーンと思わしき、前列の真ん中ハエが1体前に出てきたのでチェスかと思ったけど何かがおかしいと思い、考える。こっちが動かないと向こうも動かないから考える時間はあるっぽい。思い出せ、チェスはオンラインで数回やった事あるけど何が引っかかる?ポーンが前に出る事は普通の事のはず……この違和感はなんだ?……真ん中のポーンが出てきたのに何で僕は引っかかった?あっ!
「何で左右対称なんだ?」
チェスは8×8マスで真ん中に居るのはキングとクイーンのハズだ。8×8なら真ん中のポーンなんて居る訳が無い。キチンと数を数えれば前の列に9体のポーンらしきハエと後ろの列に並んでいる8体のそれぞれ対象になった冠を被っているハエ。そして列をよく見ると前列と後列の間に隠れている2体のオーラが見えた
「チェスじゃない!将棋か!」
王を挟んで左右対称に展開した配置、隠れているけど飛車と角行が居る事。チェスに見せかけた2列配置っぽく見せるとは……中々意地悪だなぁ?
「え?って事は僕の方19枚落ち?」
パーティメンバーが僕一人だから僕が王の役割をするとしても僕以外に誰も居ないから結果的に将棋なら超ハンデ戦の19枚落ち状態だ
「将棋としてなら1マスずつ進まないとルール違反って感じかな?」
こういうのってルール違反すると敵がめっちゃ強くなったりするのがパターンだよね。ひょっとしてそのせいで突破が凄く厳しいとかだったのかな?
「とりあえず一歩ずつ行くか」
僕が王の役割なら8方向何処に進んでも大丈夫だと思う。とりあえず隣接するまではこの感じで進んで行こう。隣接してからが本番だ
「ブブブ!」
「まずはお前だ!」
【触手攻撃】で斬撃属性を持たせて正面にやってきた歩兵のハエを触手で斬り裂く。歩兵ハエは普通の雑魚っぽい感じで特に強さは感じない。触手で簡単に倒せた
「将棋っぽいけど戦闘は普通にやって良いのね」
隣接したら戦闘して、その場に移動すれば将棋ルール的にはセーフのはずだ
「重要なのは将棋ルールに則って戦う事……一気に2体を相手取ったりしないで1体ずつ倒して行けば良いんだな?」
桂馬の様に飛んで来る奴やオーラのみの飛車と角行の動向に注意して動けばちゃんと最後はボスと戦える。焦らずに着実に進めていけば僕が『詰む』事は無い。相手も飛車と角行を隠しているから実質2枚落ちだが、何時動き出すかも警戒して進まないとな?