アビスフォーム
「やっぱこの街は苦手だけどあんまり僕が目立たないから良いかもしれない」
今日は何の祭りかは分からないけど視える範囲に居る人達は全員白いローブを着ている。僕のオーブ・ローブも全然目立たない。久々に堂々と街を歩けそうだ
「あ、すいません。今日って何の祭りですか?」
「おや?君も白いローブを着ているのに今日の祭りは知らないのかい?」
「はい、これは偶然着ていたので……」
とりあえず街中の商人っぽい人に訊ねてみた。そりゃ、祭りに参加してる様な人が「これ何の祭り?」って聞いたら「何言ってんだ?」って思っても仕方が無いだろう。でも聞いた人が良い人だったみたいで普通に教えてくれた
「この前魔蟲の森に虫人が出たって話は知ってるかい?」
「え?えぇ、まぁ……」
それ僕だし……
「それの調査に行った隊が全員無事に帰って来てね?あの森はかなり危険だから調査隊の人も全員帰って来れるか分からないって言われてたんだよ。でも全員無事に帰って来れたのはひょっとしてその虫人のお陰じゃ無いかって。だから皆でも真似出来そうなその虫人が着てたっていう白いローブを着て調査隊の帰りをお祝いしようって言うお祭りよ?」
「なるほど。それは良いお祭りですね?」
帰還祝いのお祭りって事か。って事は過去の僕のお陰で今の僕が街を堂々と歩けるのか。こういう事もあるんだなぁ……
「本当良いお祭りだよ。仕入れた白いローブも飛ぶように売れるからね」
「白ローブ1つ下さい」
「おっと、商売の邪魔してしまい、すみません。ありがとうございましたー」
お客さんが来たので退散する。お金が無い僕が商売の邪魔をしてはいけない
「んー、ひょっとして虫の数が減ったりしたのかな?」
僕が森で見たのが調査隊だとするなら誰もやられずに帰ってきたと考えるなら虫の数が減っている、攻撃性の低下、単純にあの人達がめっちゃ強いとかが考えられるけど、誰もやられずに帰ってきた事を喜んでいるという事を聞いたら虫の数が減ってる辺りが考えられる要因かなぁ?
「とりあえずアレを試す為にも森に行ってみるか」
【アビスフォーム】を試す為にも森に行って人が居ない所で使ってみよう
「この辺で良いかな?」
周りに誰も居ない。【察気術】の範囲にも虫が居ない場所で【アビスフォーム】を使ってみる
「ふぅ、【アビスフォーム】」
深呼吸を一つしてからスキルを発動してみると黒い波動が僕から発せられる。そして真っ黒な靄が僕の体に纏わりつき、僕の体が全て真っ黒に染まる。体が靄で一回り大きくなり、若干の前傾姿勢、腕も少し長くなったかな?そして一番の変化は……
「これが……触手かぁ」
背中から4本生えた地面まで着くような触手。触手も真っ黒かと思ったら触手の内側は真っ赤に光っている。これはこれでカッコイイ
「えっと……おっ?なんか動かし方が分かる……なんか最初からあったみたいだ」
うにょうにょと掌を見る様に触手を動かす。伸びたり縮んだり結構自由自在に動かせる
「不思議な感覚だけど、これもアビス様が何かやってくれたのかな?」
怪しいと考えているのはアビス様が僕の口に入れてきたアレがこの体で触手をすぐ動かせる様に適応させてくれたのかもしれない
「アビス様に感謝しておこう。とりあえずこの【アビスフォーム】の特殊スキルの2つも試してみるか」
【触手攻撃】と【深淵の一撃】の2つ。まずは詳細を見てみよう
『【触手攻撃】 触手を用いた攻撃をする際、斬撃、刺突、打撃の属性を付与出来る』
『【深淵の一撃】 リキャスト10秒 自身から半径100m内に深淵を作りだし、攻撃が出来る』
「んー、やっぱり見ただけじゃ分からないよなぁ」
【触手攻撃】はこの背中の触手を使って攻撃する時に斬、突、打の3つを使い分ける事が出来るって感じかな?【深淵の一撃】はとりあえず半径100mが攻撃出来る範囲と見て良いか。まずは正面の木に対してやってみよう
「【深淵の一撃】!おぉ!?」
正面の木に対して【深淵の一撃】を使ってみると木の手前の地面に黒い穴……アビス様の覗き穴みたいな物が現れ、その穴から巨大で真っ黒な拳がニュっと出てきて木をぶん殴り、消し飛ばした。これひょっとしてアビス様の手とか?
(必要無い時には使うなよ?)
「はっ!?やっぱり……」
頭の中にアビス様の声が聞こえてきた……気がした。やっぱりこれはアビス様直々の攻撃か……まぁ僕でも使える様に本来の威力よりはかなり抑えられているんだろうけど、やっぱりかなり強力な攻撃だと思う。これ、今回は拳だったけどアビス様の気分次第で別の物も出てきそうだな?
「触手もどこまで伸びるかな?」
射程がどのくらいあるのか知らなければ戦闘では使えない只のお飾りだ。今の内に試さないとね?
「最大射程は50mくらいかな?でも小さい挙動は厳しいな……10mくらいが一番操作もしやすいかも」
検証した結果10mが一番扱いやすい距離だった。【触手攻撃】を用いた際も伸ばした触手が尖ったり、刃が付いた様に鋭くなったり、先端の方を丸めて拳状になったり……使い勝手はかなり良い
「射程は【深淵の一撃】【触手攻撃】僕の通常攻撃の順か、これは上手く使えばかなりの人数相手でも立ち回れるかも?」
【察気術】のお陰で背後から来られても感じ取る事が出来るから触手で攻撃する事も出来る……アビス様はもしかしてコレを見越して僕に【察気術】を取れる様にあんなスパルタ特訓を?
「アビス様に改めて感謝をー!」
両手を上に掲げてアビス様に感謝の言葉を掛ける。まさかここまで考えての行動だったとは思わなかったなぁ……
(そこまで考えてなかったな……)