姫を連れて
「はい、出来ました」
出来上がった能力付きの特上ローストを姫様に向かって差し出す。
「おぉ……では早速……」
「姫様!毒見が必要です!私が!私がやります!」
「いやいや、私が!」
忠誠心からなのか食欲からなのか毒見を申し出るゴブリン達。これは多分食欲からだろう
「こんな美味しそうな物を食べて死ねるならそれでも良い!はむっ!」
男らしい宣言をしつつローストの真ん中をガブリと一口噛む姫様
「……うっまー!」
とても美味しそうにロースト肉を食べる姫様。そりゃ皆食べたいだろうけどあの肉はそれでラストなんですよ……
「ごめん、あの肉はもう無いんだ。木の実ならあるんだけど……食べる?」
ブドープの実やレモンジの実を出せるだけ出して他のゴブリン達に渡す
「おぉ!ありがたい!」
「感謝する!」
集めた木の実を取って行き、食べ始めるゴブリン達。木の実はギリギリ全体に行きわたったみたいで皆木の実を食べている。僕の手持ちの食べられそうな木の実は無くなってしまった
「とりあえず村の場所を確認したいんで木、登っても良いですかね?」
「よいぞ!出来れば追手が居ないか見てくれると助かる」
お肉のお陰で気分が良いのか結構すんなり大木を登る許可をしてくれた。他のゴブリン達も木の実を渡したからなのか笑顔で道を開けてくれる。木の実を持ってて良かった
「分かりました。そっちの方も見てみます」
そして木を登ろうと上を見上げてその大木の高さを見てちょっとだけため息をつく。かなり高い
「まぁ登りますかぁ」
どうせ登らなかったら村の場所だって分からないしね?
「よいしょ!」
大木に手を掛けて木登りを始める
少しずつでも確実に登り、地表からどんどん離れる
途中の枝とかで少し休憩しながらも木の天辺を目指す。途中デカい鳥の巣みたいな物と卵が見えたけど今は触れるべきじゃないとスルー。先に天辺まで登って場所の確認だ
『スキル【木登り】が【登攀】にランクアップしました』
『【登攀】パッシブスキル 様々な場所を楽に登り降り出来る』
大木を登り切った時に【木登り】が【登攀】に進化した。正直木しか登ってないからどう変わったかあんまり分からないかも……
「はぇー、まあこれは置いておいて、村は……あった!」
大木の上から辺りを見渡すと村はすぐに見つかった。多分10分もしないで着きそうなくらいの場所で意外と近かった。森の中だと意外と分からないものだなぁ……えっと何だっけ?追手が来てないかだっけ?
「追手、追手……ん?なんか来てるな?」
村とは反対側の方から森の木が揺れたり、倒れたりしているのを見つける。かなり距離はあるけどその内来てしまうだろう
「よし、降りるか。皆に説明しないと」
木から降りる最中にまた鳥の巣を見てこの卵を持っていけばこの親鳥も巻き込んで逃げやすくなるかな?とも一瞬考えたけどそんな事をしたらこの鳥の卵が可哀想だ
「【登攀】の効果凄いな?もはや落ちるくらいの速度でも手と足がついていればいつでも止まれる!」
落下するくらいのスピードで大木を降り、姫とゴブリン達の元に戻った
「姫様、とりあえず僕の向かいたい村は見つけたよ。それで、多分姫様達を追いかけているだろうオーガがこっちに向かって来てると思う」
「「「!?」」」
「やはりもう来たか……」
姫様は覚悟していたのか驚くというよりは知っていたという感じだ
「……姫様。提案があるんだけど?」
「なんじゃ?」
「ハグレ者の村に来てみない?」
ここに居るゴブリン達と姫様が逃げ出す程の相手をハグレ者の村まで誘導してしまう可能性があるが、あの3人なら何とかしてくれそうだと思ってしまう。オーガなのか正体まではハッキリ確認していないけどあれはほぼオーガと言って間違いないと思う。姫様の匂いを追いかけているのかなんなのかは分からないけどほぼ一直線にこっちに来ていた
「ほほう?そんな事をして良いのか?」
「分かんない。僕もその村に着いたのは実はちょっと前だから……」
「くはははっ!ハチよ。私達をその村まで連れて行ってくれないか?なに、オーガに負けてしまいそうになれば私がオーガの嫁となり村の者に手を出さぬよう頼むから」
諦めや期待、楽しみや悲しみとも言えぬ、だが覚悟だけは決まった様な瞳でこっちを見てくる姫様。何としてもオーガに勝たなくちゃいけない。僕が弱くても村の皆と、ここのゴブリン達とも協力してそのオーガを討伐する!
「こっち!」
「皆の者頑張れー!」
「「「「御意!」」」」
大木の上から確認した村の方向に一直線で移動する。姫様は駕籠に乗りながらゴブリン達を鼓舞して、僕を先頭に森の中を突き進む
「……オォ!」
後の方から声が聞こえる。まだ遠いけど確実にこっちに向かって来ている証拠だ
「このままではマズいな……【軍馬の歩み】!」
姫様が何かを発動したらしく、僕とゴブリン達の移動するスピードが上がった。なるほど、姫様がサポートでゴブリン達がそのサポートを受けて戦ってオーガ相手に時間稼ぎ等をしていたのか
「ありがとう姫様!皆もう少しで着くから頑張って!」
「「「アイアイサー!」」」
返事おかしくない?
姫様のサポートのお陰で森を進むスピードが上がり、予想よりも早い時間で村に辿り着いた
「ただいま!」
「おう、おかえ……ってどうしたんだ!?ゴブリン達を引き連れて!?」
丁度村の入り口に居たドナークさんが僕達を見て驚きの声を上げて警戒する
「待って待って!ドナークさん!今オーガに追われてるんだ。このゴブリン達は姫様を逃がす為に連れて来たんだ」
「迷惑を掛けて済まない。ゴブリンプリンセスだ」
「あ、あぁエキドナ・アクエリアだ……」
ドナークさんがぎこちない挨拶をしている間にちのりんとワリアさんを探す
「おーい!ワリアさーん!ちのりーん!」
「ぽよっ?」
「どうした?」
声を掛けたら2人とも出て来てくれた
「2人にも手伝って欲しい事があるんだ」
ここに居る皆を巻き込んだ僕が勝手に起こした村の防衛戦。成功させる為には皆の協力が必要だ