察気
「ふぅ……きっつ」
「どうした?もう終わりか?」
「まだまだ!次お願いします!」
蛇の攻撃を避ける訓練。僕の力だと6体相手に躱し続けるのが限界だ。7体目を追加してやらせてもらったら音を聞き分ける事がきつくて、足に噛みついてきた一匹に気を取られて残りの蛇達にガブガブ……すっごい痛かったけどアビス様の調整が凄いのかHPがレッドゾーンでギリギリ止まるダメージ。もう1匹増やすと確実に死ぬから今の僕が越えるべき壁は7体の蛇を躱しきる事だ。これをクリアするまでは帰れないな?
「良かろう!諦めずに挑戦する事は素晴らしいぞ!だが今のままだと進歩しないな?」
「え?」
なんだ?見えない敵の音を聞いて避けるのは良くないのか?
「一度5匹にしてもう一度だ」
「はい?分かりました」
なんで数を減らすのかな?5匹なら何とか音を聞き分ければ避ける事は出来るけど……
「ん?痛だだっ!?音が聞こえない!?」
「最初の時の方が遥かに良かったぞ?やはり死なない程度では気が入らないか?」
突如蛇の攻撃が無音になった。これはキツイぞ?音で近寄ってきた方向が分かっていたからそれが無くなったのはとても辛い
「いや、そう言う事ですか!頑張ります!」
音じゃない。耳で判断するんじゃ無く、本当に気配のみで蛇を回避しろって事か!
「ごめんなさい。敵の数2体に減らしてください」
音が無いだけでここまで難しいとは……気配のみで感じるって凄く難しいな?
「はっはっは!やはり無理か?仕方が無い。では2体にして強くしよう」
「えぇ!?」
出来ないのに強くされても困っちゃうんだけど?
「良いからやってみろ。やれば分かる」
僕に有無も言わさず始めるアビス様。これで上手く行くのか?
「相手が弱いからダメなのだ」
「っ!?」
音はしない。でも間違いなく正面から「殺す」という意思を感じた。ヤバい避けなきゃ死ぬ
「ほらな?」
「なんでだ?……っ!?」
背後からまた僕を殺そうとする意思が飛んで来た。この突き刺すような感覚……やっぱりこれこそが殺気か
「もしかして……っ!敵が弱かったから殺気を感じ取れなかった……っ!のか?」
「強くなる為には相手も相応に強くなければな?」
「死ぬ気で頑張らなきゃ自分の為にならないって事ですね!……っ!」
色んな方向から僕を殺そうとする意思が棘の様に刺さってくる。この感覚の先から僕の命を取る攻撃が来る……と考えればこの感覚を頼りに……いや、ダメだ。その感覚だけを頼りにして思考を停止させたらいけない。殺気を感じ取れたのは強い蛇だけだ。アビス様が気まぐれで弱い蛇を紛れ込ませてソイツに気が付かずに殺られる……なんて事もありえそうだ
「ここで、物にする!」
殺気を感じ取る感覚も大事だが、視えなくても戦闘中に相手がどう行動するのかと考える事も重要だろう。目で視る事、耳で聞き取る事、匂いで嗅ぎ取る事、向けられる殺気を感じ取る事、そして相手がどう行動するかを予測する事。全てを合わせる事で相手の行動を先読みする事だって出来るかもしれない
「ほぉ?やっと本気になったか!」
アビス様の声が聞こえる。こうなると何時蛇の数が増えてもおかしくない
「っ!……っ!」
間違いない。殺気の数が増えた。喰らうと死ぬ可能性の高い視えない蛇の攻撃を避けてアビス様の様子も逐一確認する事を忘れない
「本当に殺気を感じ取れている様だな?」
来た。殺気を感じ取れたから次のステージに……アビス様のハイスピードでスパルタな性格を考えれば次に何か来るのは明らかだ
「消して来たか……」
僕を殺せる力を持った蛇の殺気が消えた。殺気も消せるのか……
「流石にこれは無理だろう?まぁ、殺しはしない」
アビス様なりの最後の配慮だろうか?
「【受け流し】!」
音も殺気も無いけど全てが完全に消えた訳じゃ無い。僕に何かが近寄ってくる圧は消えてはいない
「何っ!?」
「やった!掴んだ!」
圧を感じた方に【受け流し】を発動したら蛇に触る事が出来た。触る事が出来れば情報量は一気に増える。蛇の筋肉の動きが手を伝ってどう動いているか分かる。凄い、目を使わなくてもこんなにも戦う事が出来るのか
『スキル 【察気術】を習得』
『【察気術】 パッシブスキル 相手の存在を察知し、目視以外でも感じる事が出来る』
「視える!」
先程よりも圧倒的に蛇の存在を感じる。蛇型のオーラが見える!4体も!あと何か小さい猿みたいなのも!
「アビス様、蛇2体も増やしたんですか?あと小っちゃい猿!」
「本当に視えているのか!?」
尻尾の薙ぎ払いを【受け流し】で別の蛇に当て、小っちゃい猿に向かって魔硬貨を投げつける。うん、痛がってるな?
「アビス様?邪魔はしないで下さいよ!?」
「……分かった。見届けよう」
邪魔しないと約束してもらえたので蛇4体と猿の相手をしよう。感覚を掴み、アビスでもある程度の距離感が分かるようになった。オーラを感じるお陰で敵の位置関係も分かり、同士討ちさせる事も出来るだろう。さて、ここからは僕の番だ!