視えない蛇
「さぁ、見せてくれ!」
アビス様すっごい楽しそうだけど僕にとっては今までの戦闘と比べ物にならない程の難易度だ。何せ見えない相手が2体。今まで僕に向かってくる攻撃は視えていたからスローで対処出来た。だが、姿も見えない相手の攻撃をスローで視れる訳が無い。このアビスじゃ僕の姿はハッキリ見えても周りは全て真っ暗という距離感も掴めたものじゃない空間だ。この際、見えないなら目を瞑って音と気配で全てを把握するしかない
「「シャァァァ!」」
正面……いや、二手に分かれて横からか!
「ふっ!ダメか……」
音を聞いて後ろにスウェー。正面でぶつかる音が聞こえたからおおよその位置に貫き手を放つが空振り。攻撃をミスしたので即座に後ろに下がってその場から距離を取る
「ほう!ではこれでどうだ?」
アビス様が何か言ってる……やめてくれよ
「面倒な……」
今度は声がしない。蛇行の音だけだ
今度はきっと僕を囲う様に周りを動いている……気がする。というかこの音的に見えない蛇、かなり大きくないか?
「っ!」
背後から突き刺すような気配を感じた。何か来る……これが殺気か?地面に伏せて心臓の位置を狙ってきたと感じた攻撃を躱す。本当は攻撃が来ていないかもしれないけど地面に伏せた状態なら手の力と足の力でその場から一気に離脱も出来る。だが、下手に上に飛ぶのは得策じゃない。空中なら地上の様な微少な移動が出来ない。【インパク】で大雑把な移動は出来るかもしれないけど相手の見えない状態で大雑把な動きは危険だろう
「なるほど、ねっ!」
ブオンッと風切り音が左から聞こえてきて右からも口を開ける音がする……さっきの背後からの攻撃は尻尾で突き刺してきたんだろう。なら右から来てる奴はさっき背後から刺してきた奴だとして……左の奴の頭が正面から来ないとなると……上だな?
「ここだろ!【受け流し】!」
完全に勘だったけど左から振るわれた尻尾を捉えた。やっぱり結構デカいな?【受け流し】をしつつ、尻尾を上にずらし、左に移動する
「「ギョワァッ!?」」
自分の尻尾を噛んだのか、それとも噛まれたのか……でも2体分の声が聞こえたから顔に噛みつかれたかな?なんにせよ上手くいって良かった……
「ほう!見えない相手によく対処する!ではこれでどうだ?」
「「「「「「「「「「シャァァァ!!」」」」」」」」」」
「待て待て待て!一気に増え過ぎでしょ!?」
アビスさん絶対今楽しんでるでしょ!?ならもう帰してくれる条件達成してるじゃん!?
全周囲から隠そうともしない這いずり音。これもう避けられないな?一応跳んでみるか
「へぶっ!?」
跳び上がった途端に叩き落とされた。でもこの感覚……さっき触った蛇っぽくない。さてはアビス様、やったな?
「これは、無理だな……」
地面に落とされて腕、脚、脇腹、そして頭……視えなくても分かる。喰い千切られると理解する
「およ?」
「なんと!?」
想像していた痛みが来なかったから不思議に思うと喰われたと思われる僕の体が光の粒状になり、少し離れた部分で体が再構築される。一瞬僕、成仏した?と思ったけどそういえばエアラさんのお陰で【光子化】ってスキルが追加されたし、それの効果かな?
「今のは殺ったと思ったが、生き残ったか!これは面白い!」
「……面白かったですか?流石にもうこれ以上は無理なんで勘弁してください」
光の粒子が僕の体に戻って来て無くなっていた部位が修復されていく。ポリゴンとは違うけどこれ上手くいけば死んだふりも出来そうかも?なんにせよ生きてて良かった……
「仕方があるまい……面白かったから約束は約束だ」
シュインと小さな覗き穴が開く。行き先は廃坑の小部屋だけど……随分覗き穴が小さいな?
「もしかして帰ろうとしたら覗き穴を閉じて僕を切断するとかしませんよね?ちゃんと約束は守りますよね?」
「……分かっている。ちゃんと通るまでは繋げておく」
すっごい不満そうな言い方。これもしかして……
「もしかして寂しいんですか?」
「なっ!?貴様言うに事を欠いて寂しいだと!?そ、そんな事ある訳がなかろう!」
「その反応ほぼ言っちゃってる様なものですよ?分かりました。もう少しここに居ます」
寂しくて、構って欲しくてあんな無茶苦茶な事を僕にしたのか。それは逆効果なんだよなぁ……まぁ他の人がこのアビスに来たとしても帰してもらえる様にちょっとお話しておくべきだろう
「そ、そうか?良かろう。もう少しここに居る事を許可してやろう!」
「許可貰ったんで座らせてもらいますね?」
体育座りでその場に座る。ついでに恰好もローブにしておこう
「なんだ?その恰好は?」
「あれ?僕の事見てたんじゃないんですか?」
「たまにだけだ。見た時はいつもさっきの黒い恰好だったな?」
丁度そういうタイミングで見てたんだ。というかそれは全然気が付かなかったな?
「まぁこっちの方が楽なんで……で、アビス様?ああいうのは普通に嫌われる率の方が高いから止めた方が良いですよ?」
「そ、そうなのか?」
やっぱり分かってなかったかぁ……
「あんまり他の存在と関わりが無いから接し方が分からない。違いますか?」
「うぐっ……そ、そうだ!悪いか?」
アビス様がどういう感覚を持っているか分からないけど、そのファーストコンタクトで仲良くなれる相手って……居る?
「僕の感覚で良ければある程度の接し方教えましょうか?」
僕もあんまり人と接して無いけど、少なくともアビス様よりは人との接し方を知ってる。何かと物騒なアビス様に接し方を教えて少しマイルドになってもらおう