はみ出軍人
「何のつもりだ?」
「ダメです。まだ帰しません!」
おっと、今回はどうやら少し強引にでも止める様だ。さてさて、どういう風になるかな
「その気になれば押し通っても良いが、何故そこまで止めるのかは聞いても良いだろう。どういうつもりだ?」
一応、相手の意向を探る為にここは少し攻撃的に質問する。返答次第ではそのまま帰ろう。なんか死神さんもちょっとノリノリになって僕の背後から左手に大鎌を持ち、右手を僕の肩に手を掛けた状態で薄っすらと現れた
「聖女として……貴方の様な深刻な状態の方を見て見ぬフリは出来ません。貴方は……現世からあまりにも離れ過ぎています」
まぁ、それはごもっともと言えるな。何と言っても、冥界やら地獄、深淵なんて所で修行してるし、今や僕の拠点となっている空島にいたっては神格が複数居るお陰で神域認定を貰ってる。現世に居ないって言われても仕方ない。そもそもゲーム内だからリアルで生きていないみたいな事を言われたらプレイヤー全員がそうだけど……
「普通の人は、その状態で正気を保てているハズが無いんです。だから、少しでも軽減しないと……」
「ご忠告痛み入る。だが、これで良い」
前にも言ったと思ったんだけどなぁ……
「ですが!」
「では聞くが、聖女も普通の人間なら正気を保てるとは思えんが?自分の意思を無視して他の人間を回復する。そんなのは最早ただの動くポーションだろう。便利に使ってる人間からしてみれば、そのポーションが口答えしてくるのが面倒だから必要な時以外はここに仕舞われている。そんなのはマトモな状態ではいられない。それこそ感情を殺して聖女に徹しなくてはならない」
「キッツイ事言うのう?」
でもこの世界での聖女って多分求められている事は回復する事だろう。その一点のみで考えるなら、僕の言っている事は絶対に違うとは言い切れないと思う。こういう時は極論で押し通る!
「それでも……」
「勿論君の信念を否定するつもりは無い。が、今の君が他人にどうこう言って自分の思う正義をしようとするのはおこがましい」
何で聖女様をこんな虐めるみたいな状態になってるんだろうなぁ……でもまぁ、聖女の在り方はやっぱり一度変わるべきだと思うな
「君には君の、私には私の正義がある。好きな物も嫌いな物も、君は私と同じだと思うか?」
「それは……」
僕の背中の死神さんも見ながらそれに同意するなんて事は出来ないだろう。何と言っても聖女とはある意味真逆の位置に存在すると言っても良い。その存在と個人の主義主張が同じであるとは絶対に言えないはずだ
「私が生存する為に、外敵と戦う為に得た力を自分の目からみたら危険だから取り上げる。君にその権利はあるのか?」
「それは……」
呪いは確かに本来なら取り除くべき物だろう。でも、これは僕にとっては重要な呪いだから絶対に取り除かせない
「聖女の力は強力で死にかけの人でさえ復活する。だから毒で王を死にかけさせて王を回復する事で国の力を掌握する事も出来る。そんな力は危険だから今すぐに封印するべきだ。そういう事を言う事だって可能だろう?」
「そんなっ!?」
どんな力だって言い方、使い方次第でどうとでもなる。聖女だなんだと言ってもその力の使い方次第で傾国の女王にだってなれるだろうさ
「酷いです!そんな事を言うなんて……」
「同じ事を私に対して言っていると理解してください。貴方は私が歩んで来た歴史を否定しているんです。その上でその否定を貫きますか?そうなるなら、やはり貴方は私の敵という事になります」
こっちの考えを聞いても考え方を変えないのなら……やっぱり敵対するしかないよなぁ
「うっ……それは、すみませんでした……でもその状態だと非常に危ないと思って……」
「全員が全員お前の救済を待ってると思うなよ?」
「えっ……」
これは一度しっかり言った方が良いかも。やっぱり聖騎士だなんだで守られてるせいで強い言葉を掛けられた事が無い気がする。明確な拒絶というのは傷つく事にもなるだろうけど、傷つかなければ成長もしない。だからここは誰かが……僕がやらなければならない事だろう
「お前如きが何が救える?」
「え?」
おっと、内なる軍人スタイルが顔を出してしまった。でも、相手のプライドをへし折るならやっぱりこっちだろうな
「怪我した誰かを救って、やった。心を救済して、やった。聖女聖女ともてはやされてそういった気持ちになってるんじゃないのか?」
「それは!」
「違う。本気でそう言えるのか?なら大した物だ。相手の言い分も聞きもせず、救ってやるから感謝しろと。こちらからそうとしか見えないがなぁ?前に会った時にも明確に拒否したはずだ。なのにまたこうしてお前は自分が合っているから正してやると、こちらの歩んで来た道は全て間違っていると断定してるのではないか?否定があるなら言ってみろ。世の中綺麗事だけで回っている訳ではない事位その頭でも分かるだろう」
じゃなきゃ、こんなにしつこい事の説明が付かないよね?
「それは……分かっています。でも、正しくあろうとする事は良くない事なのですか!」
「いや、それは否定しない。だが、その正しさは誰が決めた正しさなのだ?地面に落とした食べ物を拾って喰う。それはお前にとって正しいのか間違いなのか断定出来るのか?」
お客さんに出すとかならそれは間違いだろう。でも、食べる物もほぼ無い状況ならそれは間違いとは言い切れないだろう
「相手を理解する力が足りていない。やはり聖女としてはまだまだの様だな」
さぁて、聖女コンプレックスでも刺激してみますかねぇ?




