悪意からの解放
「苦しい……」
顔が飛んで来る。まず相手が幽霊だとするなら触れるのかが分からない。顔を避けて、通り過ぎた瞬間を狙って触れるかチャレンジしてみよう
「うえっ!?触れない!?」
顔の側面に触れようとしたらそのまま手が貫通した。あとHPがちょっと吸われる感覚があった
「ちょっとやってみるか」
攻撃するつもりじゃ無かったから聖属性は付いていなかった。次は攻撃してみるか?
「ほっ!」
「痛い……痛いィ!……」
聖属性付きの掌底を顔に対して打ち込んだらとても苦しそうな声を上げ、顔の集合体に急いで帰っていく。聖属性は効くみたいだけど如何せん気分悪い。何か悪い事をした訳じゃ無いのに苦しめられるのは辛いだろう
「これ、どうするべきかな……」
心を鬼にすれば顔に対して聖属性で攻撃して消滅させる事も出来るかもしれない。でもそれで消滅させてしまったら浄化したと言っても良いのか怪しい気がする
「憎い!憎い!憎い!」
顔の集合体が突進して僕に当たる直前で集合体から分散して僕を取り囲む。いったい何体居るんだ?
「おっと?これひょっとして絶体絶命って奴?」
逃げ場は無いし、このままだと無数の顔が僕に向かって飛んできてむしゃむしゃされてしまう。どうやら迷ってる暇は無いみたいだ
「直ぐに祈れば間に合うはず!【聖域展開】!」
「「「「「「痛い!痛い!痛い!嫌だ!嫌だ!嫌だ!」」」」」」
無数の顔から苦しむ声が聞こえる。動きの止まった今がチャンスだ
「皆の魂が安らかに眠れますように……」
目を閉じてここに居る幽霊達の魂が浄化される様に祈った。これが効かなかったらとかそういう事を考えるよりもこれ以上苦しまない様に解放する為に一心に祈る
「痛い!痛い、いたい、いた…い…」
苦しみの声が段々安らかな声に変わっていく。少しずつだが僕を囲んでいた顔が光の粒に変わっていく。ちゃんと僕の祈りというか願いは届いたみたいだ
「憎い、憎い!憎い!!」
「ん?何か違う……もしかしてコア的な奴か?」
浮かんでいる顔の中で1つだけ苦しんでいる感じはあるけど光の粒になる感じはしないのが居た。アイツが周りの幽霊達を集めて悪霊にした原因か
「お前だけは許さない」
聖域内で光の粒に変わっていく顔達の間を抜けて、一つだけ居た消えずに苦しんでいる顔に蹴りを入れる。聖属性付与のお陰で攻撃が透過せずにヒットする。全身ヘッドショットみたいな顔だけの奴に蹴りを入れたらどうなるか……
「……っ!?怖い!怖い!怖い!!」
久々にエゴの【戦意奪略】が発動する。恐怖状態にした事で動きが完全に止まる
「せいっ!」
顔面に対して貫き手。口の中に突っ込む形でズンッと手が入り込む
「ごぼっ!?」
「はぁ!」
何か掴めたので引き抜く。すると紫色の火の玉の様な物が引き抜けた
「終わりだっ!」
「アァァァ!!」
火の玉を手刀で真っ二つにする。これが邪悪な魂っぽい気がしたので気兼ねなく破壊出来た
「幽霊さん達。これで皆自由になれたかな……」
多分親玉的だった奴を倒した?からか、残っていた顔が全て光の粒として散っていった。幻想的と言えば幻想的な風景だが、僕には罪の無い幽霊達が消えていく物悲しい景色として映った
「何か採掘とかって気持ちでも無くなっちゃったな……」
こんな状態で採掘って気分にならない。浄化は済んだと思うし、一旦教会に戻ろうかな?
「はぁ……なんか気分が沈む……ん?なんだあの穴?」
前にこの小部屋に来た時には無かった真っ暗な穴が地面に開いていた
「全然底が見えない……どこに繋がってるんだ?」
真っ暗な穴。試しに手を入れてみたけど何も掴めないし、何も見えない。本当になんだこの穴?
「……入ってみるか」
一応どこまで続いているか分からないし、紫電ボードで落下速度を抑えれば意外と何とかなるかな?
「悲しい気分は新しい発見で払拭しよう!」
落ち込んだ気分を盛り返す為にこの穴に入ってみよう!
「いざ!」
真っ暗な穴に飛び込む。ボードは出してるけどまだ乗ってはいない。手を入れた範囲で何も触れなかっただけで3mくらいの穴とかなら普通に着地出来るだろうし、よっぽどでなければボードを使う必要は無いかなと思った
「ちょちょちょ!?何処まであるのこれ!?」
多くても5~6秒も落ちれば着地するだろうと思っていたけど一向に着地しない。紫電ボードを使って途中で落下速度を低下させようと思ったけどどこまでも落ちるので一度ボードから降りた。もしかして僕、とんでもない所に降りちゃったかな?
「んー、本当にどこまで落ちるんだろう?」
先の見えない恐怖もいつまで経っても地面に着かないので流石に怖がるのも飽きてきた。ハンモックに寝っ転がる感じで落ちてみたり、スカイダイビングみたいに大の字で落ちてみたりしたけど一向に地面に着かない。10分くらいなのか1時間くらいなのか、辺りが真っ暗だと時間の感覚が曖昧で良く分からない
「ぬわっ!?なんだっ!?」
真っ暗な空間の中、急に体が縛られる感覚に囚われた。いや、実際に捕らわれた
「お前は、何者だ?」
「それはこっちのセリフなんだけどなぁ?」
暗闇の何かに縛られながら僕は遂に穴の底に辿り着いたみたいだ