ダウンフォース
「やっぱりそうだ。あの風の砲弾は中心が逆に安全なんだ」
台風と同じで下手に避けようとして、威力が一番大きい外側に当たって被害が拡大する。逆に中央はほぼ無風地帯かの様に何ともない。縦回転の台風のど真ん中を正確に抜けばこの攻撃は躱せる……もっと言えば、風と同じ向きに回転すればもっと突破は楽になるか
「回避すれば距離が開く、回避しなければ距離は詰る。ただ同じ分回避しないと死ぬ確率が急上昇……」
確かに風の砲弾はこれで躱せる。でもこれじゃあいつまでたってもハスティル様の所まで辿り着けない。という事はやっぱりあの風を何とかする方法を考えないとダメだ。風で吹き飛ばされない様に……
「ん?そういえば……」
暇な時に見ていた動画でたまにミニ四駆の改造動画とか流れてた。色んな改造で早くする努力をしていたけど、その時に早くなるにはマシンパワーも大事だけど、何よりダウンフォースが重要みたいな話を見た。それが無いとコースから飛び出してしまうから必須だと……
「あの風の砲弾の動きは分かる。正面から来る強風も分かる……真淵……これを体に纏って流線形になれば……」
体の周りに真淵を展開し、風向きに合わせてその向きを変える。そして……
「何だ?その姿は?」
「これが、今の僕に出来る対策かなって」
風によるダメージって何だろうって考えた時、例えばだけど、立てた板に正面から風を拭き当てるのと、横から吹き当てるのでは、同じ力の風なら正面から風を当てた方が圧倒的に板は倒れやすい。つまり、風がぶつかって抵抗を生み出す事が攻撃という事だ。だからそのぶつかるという事象を可能な限り抑え、横に流す。流線形で体を包む事で、風は当たるけど、滑って後ろに流れてしまうからダメージが発生しない
「ハスティル様の攻撃は受け流しながら接近するならこうでしょう!」
勿論ただ流線形なだけではない
「コイツ……風が当たる時に向きを変えている……?」
正面から来る僕を追い返すだけの風なら死神マフラーのノックバック無効で突き進める。ただ、砲弾が重なるなら、風向きが変わるので、オーラで見える風向きに合わせて変化させる。ハスティル様が作った風の砲弾だからか、割とハッキリオーラが見えるんだよね
「なぜこの持ち上げる風で持ち上がらない!?」
「それは僕も風の力を使ってるからですよ」
「何?」
勿論魔法的な話ではない。科学的な話だ。風向きがオーラで掴めるなら、流線形の深淵に多少変化を加えれば良い。風向きに対して、上に膨らんだ翼を出せば風の流れる量が上下で変わって浮力を得る。が、逆に、下に膨らんだ翼を出せば、効果は反転し、それは押し付つける力。ダウンフォースとなる
「魔法だけがこの世の全てじゃない。こういう事も出来るんです……ハスティル様お覚悟!」
流線形にダウンフォース。これでハスティル様にも一撃……
「ふっ」
「っ!?」
ハスティル様が不敵に笑った。あと一歩踏み込めばハスティル様に拳を叩きこむ事も可能だっただろう。でも、思いとどまり、流線形から手足の間に真淵を貼り、風を思いっきり受けて、一気に後退する。多分今のハスティル様に一撃浴びせようとしたら、僕が死んでたかもしれない
「ほう?凄い危機察知能力だ。これまで気が付くとはな……」
ハスティル様に対して攻撃はまだしていない。が、凄まじい威圧感だ
「訓練なのに僕も熱くなり過ぎてすみませんでした。僕がぶん殴るべきはニャラ様であってハスティル様ではない」
「ほう。皆がお前を欲しがるのも分かるな。これは確かに自分の所に居ればあまりにも便利だ」
皆僕の事便利な召使いかなんかだと思ってるのかな?
「ふむ……そうだな。先程の風を躱す為に使った技術。もう一度見せてくれるか?」
「はい。でしたら説明しますので、ハスティル様は風を起こしてもらえますか?」
どうやらさっきの浮力云々の話にハスティル様が喰い付いた。飛行船とかはあるけど、そういえば完璧な飛行機ってこの世界まだ飛んでないっけ?
「図にするとこんな感じで、魔法ではなく自然の摂理で浮き上がったり、押さえつけたり出来るんです」
「ほう……となると、あの尖った姿は風を受け止めるのではなく、横に流して全方位に同じ量流せば影響を押さえる事が出来るという事か……面白い」
風の神格としては、ある意味風の無効化みたいな話をしてるんだけど、それは良いのかな?
「となると、こんな物では防げぬ位ぐちゃぐちゃの風の砲弾を作らねばなぁ?」
「あ~勘弁してください。これめっちゃ大変なんですよ……これを計算してやろうとしたらとんでもなく大変で、僕じゃ変化に間に合わないんで、その場その場で僕の体がどっちに引っ張られるとかで、調整してやってるんですから……」
前に引っ張られたら後ろに引っ張る力を、上に吸われそうなら、下向きの力を、右には左を……って出て来る影響に即座にカウンターを当てていただけだ。だからそれすら出来なさそうなぐちゃぐちゃの風砲弾はやめて欲しいなぁ……
「自分で何を言ってるのか分かってるのかコイツは……」
そんな様子を見て呆れるハスティル様であった




