ハスティル様と特訓
「よし、これで一旦は一段落かな」
金のダンジョンをクリアしてミルダスさんを仲間にし、モノさんの強化。リリウムさんの所でメイドの選抜、ホフマンさんへのお礼……とりあえずやるべき事は終わったかな
「さて、あ、そうだ。金のダンジョンの情報を教えてくれたハスティル様にお礼を言いに行かないと。アビス様、もし聞いてるか見てたら深淵にお繋ぎください」
そう言うと、足元の地面が消え、深淵に飛んできた
「ありがとうございますアビス様」
「この程度で礼など良いわ」
「いえいえ、毎回態々やって頂いてるんですから。あ、ハスティル様。ダンジョン情報ありがとうございました!お陰で強化する事が出来ましたよ!」
「あぁ、その様だな。まさかあんな攻略をするとは……これは確かにこの空間で楽しみがあるというのも理解出来る」
これは……せっかくならハスティル様に何かを学ぶチャンスか?
「ハスティル様にまたお願いがあります」
「次は何だ?」
「ハスティル様に少し学びたい事がありまして……ハスティル様は風を操れるって事で合ってますか?」
「まぁ、人の認識で言えばそれで合っているだろう」
風はトレーニングとしてかなり良いと思う。風向き次第で体に力を入れるべき所は変わるし、これでもし、風を使えるとかになれば……あ、でも流石に攻撃魔法みたいな扱いになりそうだからそれは無理かな
「では、ハスティル様。少し訓練をしてみたいのですが、サポートを頼んでもよろしいですか?」
「ほう?どういった訓練をするんだ?面白そうなら手伝ってやろう」
「ではハスティル様と組手がしてみたいです!風を操る敵……それこそ前のグリフォンみたいな奴とまた戦うかも知れないなら風を操る者の最高峰だろうハスティル様に相手してもらうのが一番。ハスティル様の風の防壁をぶち抜くか躱す。それには真淵は絶対必要だと思ってます。なので、その真淵の訓練でもありますね」
真淵を育てる為にもハスティル様クラスの強敵相手だったら勝っても負けても得る物はあるハズだ。即負けて何も出来なかったは許されない。勝つならしっかり勝つし、負けるなら絶対に何かしら掴んで負ける。無駄な敗北だけは許されない……
「これか……」
前に聞いていた「ハチは普通に挑んで来る」という言葉と知識は他の者から聞いていた。それが遂に目の前で起こりだした
「まずは小手調べと行こうか」
最初は相手の技量を見抜く為にも小屋程度が吹き飛ぶ位の風で牽制だ
「うひゃ~、凄い威力。これは覚えてみたいけど……多分真淵とも関係無いだろうし、そもそもが攻撃魔法っぽいよな……深淵を回転させて扇風機みたいに?いや、これだとあれ程の威力は絶対出せないな……」
普通の人間には不可視の一撃のはずなのに余裕で避けて、しかも何か考察している。速度も銃弾並みだぞ?
「ならば、移動速度を制限してやろう」
こちらに来る物は全て吹き飛ばす風。これでどうだ?
「おっ、これなら多分行ける。って事はこれはノックバック判定なのか」
私自身に近寄って来る者全てを吹き飛ばす風を吹かせたのにも関わらず、普通に歩いて来た。嘘だろう?
「いや、鍛えろと私に言ったな?ならば……」
風の中を歩いてくるハチ目掛けて、凝縮した風の玉をぶつける。これに当たればタダでは済まないだろう
「うおっ!?おぉ!良いですね!この動き難い環境下で直撃したら最初からやり直しになりそうなその攻撃!回避か受け流すか判断の時間が狭くなって咄嗟の判断で色々出来るのはかなりたすかります!」
コイツは何を言ってるんだ?今の一撃は当たれば死だぞ?
「当たればハチ位ならバラバラだぞ?」
「それが良いんじゃないですか!死の危険があるからこそ本気になれる。軽い気持ちで神に殴り掛かれる訳が無いでしょう?」
これは……ホンモノだな。ホンモノのバカだ。あの目……こっちが手加減するとは微塵も考えていない。自分のミスで大怪我や死ぬのは自己責任。それを分かっている。その上で、アレなんだ
「やっぱ訓練はこうじゃないと!」
死を恐れていない……という訳じゃない。死ぬギリギリまで自分を追い込む事で自分の可能性の扉を開いているんだ。なるほどな……。ここに居る奴らは全員アレに心を奪われたって事か。確かに今まで何かしらを教えて来た存在の中でもハチ(アレ)は異常だ。異常過ぎる。ここまでしっかり付いて来れる奴が居なかったのもあるが、自分を追い込むのに死を上手く使っている。死にたくないから変化する。死にたくないから進化する。死にたくないから、適応する……生物の根幹部分を見ている様な気分だ
「さぁ、死ねハチ」
「絶対に生き残って見せますよ!」
我々を神と崇めて来る者達はごまんと見て来た。だがこの者は違う。我々を崇めるつもりは無い。我々を対等に、そして自身の強化の為の手段として私達を利用までしている。そして、その成果として……
「風の流れがこうなら……こう動けば!」
風の大砲とも言える攻撃に自ら突っ込んで回転。風の影響が少ない所を一点読みで風の砲弾をほぼ無傷で突破してきた。この人間……技術を更に吸収したらどうなるのか……知りたい




