刺客
「あの、えっと……」
「皆様がこの試験をクリアしたら、リリウム様の下で働くんです。なら勿論リリウム様との相性というのも大事な所になって来るでしょう。この人になら仕えたい。そう思える主人かどうかを貴方達も見極めて下さい」
僕は別に今は雇われだからねぇ?言いたい事はほぼ何でも言えちゃうんだなぁこれが
「さて……」
もし、仮にここでリリウムさんを倒すとか殺すみたいな密命を受けてる人とかが紛れ込んでいた場合は、こんなチャンスを見逃す訳が無い。そういった人をあぶりだす為の時間でもある
「ではリリウム様に配慮して、私も休憩させて頂きます。皆様はリリウム様との会話等をお楽しみ下さい」
「はっはっは、配慮感謝するよ試験官君?」
「いえ、リリウム様は女性との会話が好きだと既に聞いていますので、お邪魔は致しません」
部屋から出ていく様に見せて、バニシングクロークで姿を隠しつつ、武器や魔法等が使われていないかを確認する。メイド募集という名目でリリウムさんに簡単に近付けるこの現状でスパイやアサシンが紛れ込んでいる可能性は0じゃない。むしろそういう人が居てくれた方が僕の観察眼の訓練にもなる。勿論リリウムさんに傷1つ付けさせる気は無いけどね?
「君達が今回ウチのメイドになりたいって言ってくれた子達か。可愛い子が多くて興奮しちゃうじゃないか……まぁ冗談はこの辺にしておいて、さぁ、皆で食事にしよう」
いやぁ、リリウムさんの油断しきっているあの姿。これは暗殺者が紛れ込んで居たら刺したくてたまらないんじゃないか?周囲をメイドさんに囲まれて有頂天って感じの顔だ。これはキャーキャー言われて調子に乗ってる所を刺されても不思議じゃないなぁ?
「おっ?」
他の人よりも少し引き気味でその光景を見ていたメイドさんの一人が何か緊張した感じの表情だ。これは……もしかするともしかするか?
「ナイフ、持ってるなぁ……」
袖口からナイフがスッと現れた。これはまさかのビンゴかもしれない。でも、まだ他から目を離すな?サーディライは色んな意味で盛り上がっている国というか街だ。この街を欲しがる人とか絶対何人も居るはずだ。それでこのメイドさんの求人。数人潜んでいても全然おかしくないから、超危険人物以外にも危険な人が居る可能性を考慮しておかないと
「ん~。メイドさんに食べさせてもらうフルーツはうまい!」
呑気な事を言っているリリウムさんの背後にはまたナイフを用意している人がもう1人……やっぱり複数人いたか
「だが、そろそろ休憩時間も終わりだろうな。さ、皆。彼が帰って来る前に片付けをしておこう。そうすれば皆マイナス評価とかを喰らわなくて済むよ。彼は優秀なメイドを選抜しようとかなり見てるからね」
ここでリリウムさんのダメ押しとも言えない僕が来ると何も出来なくなると圧を掛けて最後に仕留めるチャンスを用意する
「なるほど、3人目が居たか」
リリウムさんの言葉を聞いて、もう一人が動き出した。大分このサーディライも狙われてるなぁ?
「そうか……それは残念だ」
リリウムさんも感じ取ったのか、僕の声は届いていないはずなのに、返事をする様に呟く。ナイフを持ってゆっくりと寄って来る存在は理解していた様だ。まぁ止めるのは僕なんですけどね?
「「「っ!?」」」
「今は食事会だ。この後3人纏めて相手してやろう」
【淵伝】を使い、3人の手からナイフを弾き飛ばす。辺りにカランカランという音が響き、地面にナイフが落ちる
「えっ、ナイフですわ!」
「危ない!」
「どーするのこれ?」
残ったメイドさん達も可哀想だけど、これはちょっとリリウムさんにこの場は任せようかな?
「3人だけかな?私を殺そうとしていたのは。他にも居るなら今の内に出て来た方が良い。どうせ、闇討ちは出来ないんだ。なら、正々堂々と、他の同じ志の奴らと同時に攻撃した方が確率は上がるんじゃないか?」
リリウムさんが敵をあぶり出して人数不利な状況で戦おうとする。どうやら暗殺に失敗した3人は協力体制を敷くみたいだ
「何故分かった……」
「簡単な話さ。魅了というのは使い方をしっかり理解して、コントロールすれば、相手からの好意……いや、この場合は敵意かな?それを感じ取る事が出来る。メイドになりたいと言うのであれば、私に対する敵意など出て来る訳も無いだろう?」
確かに、敵意はどちらかと言えば、好意というよりは嫌悪の方が強いだろう。それを魅了の力を使って見極める事も出来ると……これはまた凄い情報だな?
「まぁ、私としてはなぜ吸血鬼なのに私に攻撃をしてくるのか。それを聞きたいな」
確かに理由は知りたい所だ。どう考えても、リリウムさんは吸血鬼としても人としても立派だと思う……まぁ、そのせいで良からぬ人達から恨まれるって事もあるか
「私達は、やらなきゃいけないんだ……」
「あの子の為にも!」
「ごめんなさい!死んでください!」
ほうほう、何か見えて来たなぁ?
「おやおや、そこまで訳アリというのであれば、理由を話してもらいましょうか」
バニシングクロークを脱ぎ、姿を現す
「「「っ!?」」」
「お忘れですか?今はまだ試験の最中です。志願者が何らかの妨害を受けているというのであれば、それはフェアではありません。その妨害を取り除き、公平に試験を受けられる状態でなければなりません。ならば、試験官がその妨害を取り除く事こそ仕事なのでは?」
「そうだね。このままじゃ折角の試験も台無しだ。公平に試験が出来る様に、何とか出来るかな?」
リリウムさんも僕の考えが分かっているみたいだ
「そうですね。彼女達が協力してくれるのであれば、可能でしょう」
さて、リリウムさんに刺客を送り込んで来た奴らの所に僕が逆に行ってあげないとねぇ?




