ちょっとした失敗
「よし、こんなんで良いかな」
一応、顔は仮面で隠しておこう。まぁ、隠すと言っても、顔の上半分だけど
「お集まり頂いた皆さん。今から選抜試験を開始します。まずは番号順にお並び下さい」
さて、まずは全員集合してもらってからだな。手元に資料はあるからコレを見つつ、早速始めて行こう
「今日はお集まりいただきありがとうございます。試験官を担当しますヤッツです。どうぞよろしく」
とりあえず適当な偽名を使っておくか。まぁ、名前とかどうでも良い。大事なのは相手のやる気だったり、適性があるかどうかを見抜く事だ
「「「「「よろしくお願いします」」」」」
挨拶1つもメイドにとってはかなり重要な場面ではあるだろう。来客があった時に一番最初に見られるのはメイドの挨拶と言っても過言ではない。この時点でも数人はしっかりしたお辞儀をしているし、もしかしたら別の所で既にメイドをしていた人が居るのかも知れない。お辞儀1つで今回働くのが初めてっぽい人や、経験者みたいなのがこの時点で見て判断出来るな
「緊張する必要はありません。あくまで皆様を雇うかどうかの最終判断はこちらの主人であるリリウム様が判断いたします。私はその判断材料として、皆様の良かった点、悪かった点を見させていただくだけですので、皆様は試験に集中して頂ければそれで問題ありません」
あくまで僕はその人が良かった点や悪かった点を評価して、リリウムさんがどう判断するかの手助けをする程度だ。勿論、そこに忖度は入れるつもりは無い
「すみません。1つよろしいでしょうか?」
「はい。構いませんよ」
「ヤッツ様が魅了の魔法等で誰かを不当に評価する……等は無いですよね?」
まぁ、候補者が吸血鬼だったら、それを考えても不思議ではないか
「そうですね。では参加者の皆様。私に魅了の魔法を使用してみて下さい。全員で構いません」
「「「「「えっ?」」」」」
一瞬の動揺が広がったけど、並んでいるメイドさん達から魅了の魔法が放たれる
「なるほど……貴方が一番魅了の魔法の出力が高いみたいですが、それでもリリウム様にはまだ及びませんね。そして、リリウム様の魅了も私には効きませんが……他には?」
これで魅了の魔法を使った不正行為等は出来ないって証明になるかな?
「本当に効いてない……申し訳ありませんでした」
「いえいえ、皆様の過去を詮索するつもりはありませんが、今まで不当な扱いを受けて来たとか、職場を追われた等、各々あるでしょう。ですが、そこは今回の選抜理由には全く関係ありません。大事なのは今、自分がメイドとして働けるのかを見せて頂きたいだけなので」
まぁ、魅了の魔法とか色々悪さ出来そうだもんなぁ……元メイドの人とか居るとしたら、元の屋敷で他のメイドが魅了の魔法で主人を操って……とか色々起きても不思議じゃないし
「他に何か聞きたい事はありませんか?なければ第一試験を始めますが……」
「「あの!」」
おっ、2人挙手してきた。何かな?
「ではまずそちらの方から」
「あの、試験って失敗したらその時点で帰れとか言われちゃったりは……」
「ミス=即失格ではありません。大事なのはミスをしたらどうリカバリーするかです。勿論、ミスは良くありませんが、リカバリー次第では心証はかなり良くなるでしょう」
ある意味、何かミスったとしても、その後の対応次第ではプラス評価はするよと暗に言う。勿論、その評価が欲しくてワザとミスするのはダメだけどね?
「そちらの方は?」
「あ、えと、はい……私も同じ事を聞こうと思ってて……」
あぁ、あるある。質問ありますかーで自分が質問しようとしたら、その前に同じ質問が出て解決しちゃう奴……これ起きるとちょっと困るよねぇ
「それなら質問はこれで締め切るとしましょう。では第一試験ですが、まずはこちらにある服10着を畳んで下さい。勿論、早ければ加点ではありますが、これは屋敷の主人の服。丁寧でなければ減点対象です」
仕事を早く出来るのは大事だけど、雑な仕事は綻びが出て良くない事が起きやすい。丁寧かつ迅速な仕事を目指してやって貰おう
「あらら……」
そこには肩口が破れた服があった
「すみません……」
「貴方は……ショーコさん。力加減を失敗してしまいましたか?」
「畳んでたら、やってしまいました」
緊張があるのかは分からないけど、まぁ、あの深淵空間で服を着替える存在がそもそも居ないからなぁ……服を畳む時の力加減が分からなくても仕方ないか
「そうですね。ではこの服はどうしますか?」
「直す?」
完璧に直せるならそれもまたアリだろう。でも、屋敷という事を考えると、これは……
「完璧に修復出来るのであればそれも良いでしょう。でも、この場合は廃棄が妥当な所でしょうね」
思い出の品とかでなければ、こういった物は廃棄して、新たな服を買う。そうして、お金を回した方が経済は動くだろうな
「……分かった」
「まぁ、再利用するというのも手ですが、ここは屋敷ですからね……」
他の人も見ていたけど、やっぱり流石に服を切ってしまう人は他には居なかった




