六胡線
「2人とも来てくれてありがとう。ちょっとだけ飯綱さんから話を聞いてね?」
「「話というのは……」」
姉妹だからなのか、ほぼほぼ同時に喋るなぁ?
「何か楽器の演奏が出来るって話を聞いてるんだけど、どんな楽器を演奏するのか見せて欲しいなって思って……それで良かったら人魚達が居る所でも演奏して欲しいんだ」
こういう時は単刀直入に言った方が良いだろう。下手に誤魔化すよりも分かりやすい説明だ
「「えっ」」
何か2人とも冷や汗ダラダラだ。頼むよ?流石に演奏出来ないのだけはちょっと勘弁して欲しい
「もしかして演奏出来ない理由とかある?」
「「それは……」」
なるほど……現状は演奏出来ない状態と。これは楽器自体に何かあったか、もしくは彼女達に何かあったか……後一番考えたくないのは演奏出来るが嘘の場合だろうな
「あの楽器の演奏をハチ様に聞かせてあげられないのですか?」
「「実は……」」
飯綱さんが優しく聞いたら理由を説明してくれた
「実は今……あの楽器の」
「弦が切れてしまって……」
「特別な蜘蛛から取れる糸で作られた弦なので」
「弦の張替えが出来ずに」
「「演奏出来ないんです」」
いやぁ、良かった。弦の修理さえすれば楽器の演奏は出来るって事だな
「その楽器って見せて貰える?あと、その切れちゃった弦も」
「「は、はいこちらに……」」
懐から取り出した……けど、何か普通に懐には入らないサイズの物だよな?それもある意味インベントリみたいな物かな?
「ほうほう……でも見た感じ三味線と二胡の合いの子って感じか?」
バチではなく、弓で弾く三味線って感じの楽器みたいだ。もう一弦あったらチェロっぽくなるかな?
「まだ一弦残ってるので、軽くですけど」
「弾いてみます」
何だっけ。G線上のアリア?そんな感じで1本の弦だけで弾いてくれるみたいだ
「なるほど……音的にはチェロと二胡の間位なのか……」
「実は、これは表の使い方で」
「キチンと弦があれば、裏も使えるんです」
弦があれば裏も使える?どういう事だ?
「裏も使えるって?」
「「これは、実は……」」
そう言ってニコとミコの2人は楽器をくるりと反転させ、裏面を見せて来た
「あ、こっちにも弦が張ってるんだ?」
「こちらは、こういった物を使って」
「弾きます」
ニコが三味線のバチ風の物を、ミコがギターのピックの様な物を取り出し、弦を鳴らした
「こっちは三味線と琴の間くらいか?面白い楽器……」
両面に弦が張ってあり、別の音色が出せる楽器……これは確かにゲームじゃなきゃ難しいな
「で、切れた弦はどういう弦なの?」
「「こちらです」」
2人に渡してもらった弦を見る。これは……確かに不思議な糸だ
「これは……太さはそこそこだけどかなり切れにくいかも。ちょっとだけハサミで切れるか試しても良い?」
「「どうぞ」」
切れた弦をハサミで切ろうとしてみたけど、全然切れない。物凄い切断耐性と言っても良いかもしれない
「これが切れるまで弾く……2人共相当この楽器が好きなんだね」
今のハサミで切れない弦が切れるまで弾くとなると、相当な時間弾いてないと無理だろう。それこそ好きでもないとそれだけ続かないんじゃないかな?
「「えへへ……」」
「でもまぁ、これなら何とかなるかも。【魔糸生成】」
これが蜘蛛の糸から出来ているのであれば、アトラさんから教えてもらった【魔糸生成】で再現は出来ると思うんだよな?強靭でしなやかで細く……
「「えっ?」」
「調整はするからこれで代わりになるか試してみてよ」
これで良いのなら、在庫を用意するのは結構簡単に出来るから、試してみよう。これからもジャンジャン弾いて欲しいし
「「い、今何処から糸を!?」」
「あぁ、ちょっと蜘蛛の友人から教えてもらって。だからその特別な蜘蛛の糸とは違うかもしれないけど、代わりになると思うんだけど……どうかな?」
「「試してみます!」」
僕の手から糸を受け取り、楽器に張る。そう言えばあの楽器の名前を聞いてなかったな?
「そういえばその楽器の名前って何ていうんです?」
「「これは、六胡線と言います」」
六胡線……二胡×三味線って事かぁ。しかもちゃんと3本の弦で弾く事も出来てるし、しかもバチやピックでもしっかりと音が出せている。代替の糸としてしっかり使えてるかな?
「「完璧です!」」
「おっ、代わりに使えそう?なら良かった」
ちゃんと音が出るみたいで最初は確かめる様に軽く弾いていたけど、徐々に弾き方が激しくなっていく
「おぉ……凄い迫力」
バイオリン的なゆったりした演奏だと思っていたけど、普通にロックのギターみたいに激しい演奏だ。これは人魚達のライブドームで演奏したら盛り上がりそうだな
「「どうでしょう?」」
「凄いですね。これなら是非人魚のライブドームで演奏して欲しいんですけど、大丈夫そうですか?」
「「ライブドーム?」」
まぁ、ナーセイブまで進んでそうしたドームみたいな物は見てないから演奏をする場所は今まで無いと思う。これは新しいアーティスト誕生の瞬間に立ち会えるんじゃないか?




