魔蟲の森横断中の出来事
「皆!大丈夫か?」
「ギリギリだけど何とかね……」
「死ぬかと思ったぁ……」
「匂い袋を持ってても戦闘したら結構敵が近くまで来るのは知らなかったわ……もしかして何か変わったのかしら?」
息も絶え絶えという感じで魔蟲の森を進むパーティ。匂い袋を持っていたが、近場に居た蜂に攻撃してしまいその蜂が仲間を呼んで大変な目に遭った。何とか寄ってきた蜂を全て倒し、その場から急いで離れたからか、それ以降の追撃は無く、回復する為に大きな岩の付近で休憩していた
「しかしどうする?もう回復は無いぞ?」
「このままボスに行ってもジリ貧で負けそうだなぁ……」
「MPも無いよー」
「ひょっとして匂い袋は持っていれば攻撃されないんじゃなくて、本当に虫除け程度の効果しか無いから相手が戦闘の意思を持ったらダメなの?こっちから攻撃する事は匂い袋のアドバンテージを消す事になってしまうのね……」
ボスに向かうべきか、戻るべきか、匂い袋の効力の程など色々な意見が飛び交う
「街に戻って立て直そう。このまま死んでデスペナを貰うのは良くない」
「賛成。別の所でレベル上げしてからまた来よう」
「帰り道は大丈夫かなぁ?」
「こっちから手を出さなければ大丈夫だと思うわ。ゆっくり帰りましょう」
今回のボス攻略は手持ちの回復アイテムが足りないので無理だと判断し、撤退する事を決めたパーティ。4人が立ち上がり、道を引き返そうとした時に事件は起こった
「キャーー!」
「「「「!?」」」」
唐突に聞こえた女性の悲鳴。即座に臨戦態勢を取る4人だが、それよりも先にソイツは現れた
手足が黒く、蜘蛛に似た顔をした白いローブを纏った存在が大きな岩の上に現れた
「なっ!?なんだコイツ!?」
「虫……人?」
「ヤバいヤバい!絶対ヤバい奴だ!」
「早く帰ってギルドに報告よ!」
悲鳴をあげた女性の安否は分からないがこの大きな岩の上に実際に姿を現すまでその存在を掴めない程、隠密能力が高い。多分殺傷能力も……
それからは誰も何も言わずにパーティはサーディライの街に向かって全力で走って逃走した
「ん?何であの人達逃げちゃったんだろう?」
「ちょっと!?枝が当たって痛いんだけど!?急に跳ぶの止めてよ!」
「あっ、それはゴメン。謝るよ」
さっき悲鳴をあげたのは枝に当たったせいだったのか。フードの中なら大丈夫かと思ったけどこれは僕のミスだ。謝っておこう
「あそこで走っておかないと両サイドから挟まれそうだったから走って抜けたんだけど……ジャンプは必要無かったかもしれない。本当にごめんね?」
「そ、そこまで言うなら許してあげてもいいわよ?」
下手に出たら案外言う事聞いてくれるタイプかな?さっきも威圧っぽく言うより下手に出るべきだったかも
とりあえず大きな岩の所まで戻ってこれたし、後半分の道のりだなぁ……
「これからは気を付けて進むけど、もしかしたらまた枝に当たっちゃうかもしれないし、しっかり奥の方に入っててもらっても良いかな?」
「そうね、奥の方が安全そうだし、そうするわ」
フードの奥の方に入って行く妖精さん。フードの奥まで入れば外の景色が見えないだろうし、もっと速度を上げる事も出来るだろう
「よし、それじゃあ西側に行きますか!」
生垣っぽいものを飛び越えて西側の祠を目指す。実際にあるって明言はされて無いけど多分あるだろう
「こっちはこっちで大変そうだな……」
ある程度進んでコンパスで方角を確認してみると進むべき方向に何かの巣みたいな物がある。マジかー……何の巣だあれ?
ブーンっと羽音が聞こえる。む?あれは……
「ミツバチ……かな?」
薄っすら生えた毛と脚の根元に蓄えた花粉団子。あの感じは多分ミツバチだと思う。デカいけど……でもこの森に花なんて見えないぞ?
「花の蜜の匂いがする!」
後ろでフードから顔を出す妖精さん。危ないぞ?
「あっ!あそこ!蜜が出てる!」
目聡くミツバチの巣から垂れている蜜を発見した妖精さん。あの蜜、ちょっとだけ貰えれば妖精さんももっと言う事しっかり聞いてくれるかな?
「あの蜜、ちょっとだけ貰ってみる?」
穴から地面に垂れているあの蜜をお椀で受け止めてそれを貰うくらいなら許してくれないかな?
「やってやって!」
「よし、じゃあ絶対動かないで?静かに貰うから」
「分かった!」
蜜の為ならお安い御用って感じだな?でも本当に静かになった
【擬態】を発動して地面を匍匐前進で巣に近寄る。ミツバチを刺激しない様に……
「よし……」
地面に垂れる蜂蜜を木のお椀で受け止める。10秒も掛からずにお椀は一杯になった。これは漏れ出る量は相当だ……勿体無いから魔糸で穴を塞いでおこう
「巣の修理費って事で……」
お椀に入った蜂蜜をインベントリに仕舞い、匍匐前進でさっさと西側に抜ける。巣から離れたら後は走って距離を取る
「ふぅ、もう良いよ?」
「オッケー?もうオッケー?蜂蜜オッケー!?」
蜂蜜を確保する一部始終を見ていた妖精さんは肩をバンバン叩きながら急かしてくる。分かったから少し落ち着いてほしい
「はい、零さないでよ?」
「零すなんて勿体ない!」
お椀を渡すと妖精さんは両手で受け取り、呷るように飲む
「ぷっはぁ!久々の蜜だぁ!」
おっさんかな?
「飲んでる間はゆっくり進むよ」
蜂蜜を首筋に掛けられたらかなり気持ち悪いから、多少速度が遅くなっても妖精さんが飲み終わるまでは待とう。