ハチ君、煽られる
『おいおい……どう見てもさっきと動きのキレが違うぞ?』
『こっちと同じ様に向こうも2人で操作してるんでしょ』
『あの急制動はどう見てもハチ君だな……クオンと呼ばれた方はハチ君には劣るが、それでもあの苛烈な攻撃性能は危険だ……』
『アハッ!とりあえずもうバレちゃったならアレを使っちゃえば良いんじゃない?』
『練習はしてきました。やりましょう!』
ん?なんかやるつもりみたいだな。バレちゃったって言ってるし、さっきの弱体化結界か?
『戦い方は見てきました。ですが、要所ではハチ君の意見を貰っています。完全自立はしていません!』
(たしかに)
クオンも納得しちゃった
『その機体は2人の連携する事で最高のパフォーマンスを出す機体。であればその連携を破壊します!』
上空に魔札をバラ撒くアンサーエイト。これは、フィールド全域を弱体化エリアにする気か
「まったk……!?」
声が出ない。まるで【ハシャフ】を掛けた時と同じ様な状態だ。それでいてクオンの姿も見えなくなった。ウィスパーも使えない。クオンと会話が出来ない……
『ハチ君。この状況何とかしようと思えば1人で何とか出来るでしょう』
アイリスさんの言葉が聞こえる。相手の声は聞こえて、味方は認識出来ない……そういう効果を持った結界なのか?
『でも、本当にそれで良いんですか!』
確かに、今目の前に居るアンサーエイトを倒す。その為にこの深淵を僕が操れば勝てるかもしれない。でも、それではクオンの成長には繋がらない……だから僕が出しゃばらないって思ってるのかな?やるじゃないか。これ多分クオンにも聞こえてるだろうから、お前が私達を倒さないで頼るのか?って煽ってる様な物だ
『全部ハチ君に任せてそれで良いんですか!』
まぁそんなに煽らなくても僕は今回のイベントではクオンの自己判断に任せて成長して欲しいと思って接している。だからそこまで煽らなくてもクオンは自己判断で戦闘を開始すると思うけど……まぁ言葉も意思も伝えられなくてもクオンを信頼して動けば良いだけだよね?
(ほらクオン。攻撃は任せるぞ!)
言葉が届かなくてもクオンだったらこの状態で機体が動けばわかるだろう。自分が何をすれば良いのか。クオンなら分かるはず……
『くっ……』
ちゃんと触手による攻撃やE.I.D.O.S.もしっかり動いている。流石クオン。言葉が届かなくてもちゃんと僕の想いは伝わってる
(クオンならこの状況でもまだ出来る!)
形状を球体から人型にする。動きやすさはこっちの方が上だ。そして右手の操縦権を放棄する。気付いてくれ……
『ん?なんか動きがおかしくないか?』
『操縦権が移った?』
(気が付いてくれたか!)
操縦権を放棄した右腕が動き出した。そしてサムズアップしている。伝わった!こっちも左手でサムズアップ。戦闘中に急に両手でサムズアップして来る謎の黒い奴か……他の人はどう思ってるかな?まぁ、別にどうでも良いけど
『なんでハートマークを作ってるんだ?』
僕が冗談半分で左手でハートの半分を作ったらクオンもそれに答えて右手も同じ形になりハートが完成した。おっと、触手も左半分の操作を貰えるみたいだ。だったら触手の方でもついでにハートマークを作ってみるか
『何してるんだろう?』
そりゃあ手と触手でハートマークを作ってたら意味が分からないだろう。でもこっちは信頼関係の再認識が出来て凄く嬉しいんだ。どうせハートマークを作ってるなら姿もそれっぽくするか
『なんだあの真っ黒な魔法少女は……』
とりあえずハートマークが似合いそうな姿という安直な思考回路で人型の姿をもう少し丁寧に形作り、ミニスカートっぽい物やツインテールみたいな物に変形して魔法少女っぽい姿にしてみた。さっきより姿がハッキリしたから動きやすさが上がった気がする
(クオンと言葉が伝わらなくても心の繋がりを感じる)
クオンが右手に深淵で棒を作ってE.I.D.O.S.を合わせて蝶みたいなデザインで魔法少女のステッキみたいになってる。僕の深淵による機体のデザインを変えたら武器のデザインも変えて来た。これはもう楽しくなっちゃうなぁ!
『ちょ!?意思疎通が出来てないんだよな!?』
『そ、そのハズですが……』
『ハチだけが操作してるんでしょ!ほら!押される訳には行かないわ!』
むぅ……そう言われるとちょっと困るな……よし、ならクオンと半分こだ
『な、急に片膝を突いた?』
深淵魔法少女の右半身の操作権を放棄する。さぁ、クオン。受け取ってくれ
(行くぞクオン!多少のミスは僕がカバーする!)
普通に考えて武装と移動、もしくは上半身と下半身みたいな分け方をするんだろうけど、今のクオンなら右半身と左半身の分け方で問題無いだろう。今僕はクオンの思考とシンクロしている気がする。今なら音楽が無くてもユニゾンなアタックが出来る気がする。同時にコアを破壊しなきゃいけないみたいな敵が出て来ても対処出来る自信しかない。そうだ。見えなくてもクオンは僕のすぐ後ろに居る。こんなに安心する孤独は無い




