フライパンデビュー
「おぉ!こんな食材が……これも食べられるんですか!?はぇ~、凄い機材だ……」
流石にシロクマの恰好で厨房に入るのは邪魔かと思ったのでオーブ・ローブに着替えてから厨房に入る。肉、野菜、魚と基本的な食材から花とかモンスターの骨と体液みたいな物等、様々な物があった。そしてそれを調理する為の魔道具もいっぱいだ
「ここを見てそんなに楽しそうな顔をしてくれるとこっちとしても嬉しいぜ」
ホフマンさんの厨房にはガラスで出来た冷蔵庫みたいな物から川魚の為の生け簀。野菜が中に生えてるケースなんかもあってどれも新鮮な食材だ。ある意味遊園地みたいで見るだけでも楽しい
「俺も初めて入ったが……こんな風になっていたのか……」
「集めるのに結構な出費がな……」
「「あぁー……」」
やっぱりこういう凝った物はお金が掛かるんだろう。性能も高そうだし……
「これだけの食材と機材があれば色々試したくなるのも分かりますね」
「そういや君はどんな料理を作るんだ?見てる限り料理を作っていそうな雰囲気を感じるが?」
「あぁ、基本は串焼き料理ですね。最近はフライパンを入手したからステーキとか作ってみたいと思ってるところです」
「ほう?串焼きか、簡単だが奥が深くて良い料理だな。フライパンがあるなら何か作ってみるか?」
えっ?この厨房の設備を使っても良いの?
「えっ?良いんですか?でも今使えそうな食材とか持ってないです……」
「それじゃあ俺が金を払うから材料少し売ってくれ。それで何か作ってくれれば丁度良いだろ?」
「いや、俺達の分も作ってくれるならタダで材料を使っても良いぞ?正直さっきのじゃちょっと物足りない所だったんだ」
皆の分を作ればタダで使って良いって事なら使わせてもらおう
「じゃあ厨房を使わせてもらいます!」
ワリアさんから貰ったフライパンも初めて使うけど、厨房でデビューするなら嬉しいんじゃないだろうか?これからは焚き火の上での活躍になるだろうから一回くらいはまともな所で使ってあげたかったし
「おう、必要な素材は好きに使ってくれ」
「じゃあお肉を貰っても良いですか?このフライパンで作る最初の料理は肉料理を作るって決めてたんで」
「おぉ、そういうの嫌いじゃないぜ?良いぜ?この肉を使いな?」
ガラスの冷蔵庫から見るからに上物なお肉を取り出すホフマンさん。あれを調理するのか……変に小細工をしない方が美味しそうだ
「この冷蔵庫は特殊な冷蔵庫でな?常温で戻す時間とかは気にしなくてもすぐに調理出来る様に設定してある。だから下味を付けるなりなんなり直ぐに出来るぜ?」
「凄いですね……料理人のこだわりって奴ですか?」
「あぁ、こういう所を拘っておけば後からやっておけばよかったって後悔しないからな!」
「俺のバイクみたいにコイツもこの冷蔵庫に一目惚れって奴さ」
「「はっはっは!」」
腕を組んで笑う2人。筋肉の壁が……
「とりあえず塩コショウで頂くのが良いかな?いや、肉汁を利用した方が良いか……あっ、えーっとホフマンさん?アルミホイルみたいな物とかあります?」
「アルミホイルか……寝かせるつもりだな?残念ながらアルミホイルは無いんだ……皿と皿で閉じ込めてもある程度同じ様な効果があるはずだからそれでやろう」
ほうほう?そういうやり方もあるのか。覚えておけば損は無さそうだ
味付けを終えた肉を準備し終わり、フライパンをコンロ状の魔道具に乗せ、ホフマンさんに火を付けてもらう。油を熱してフライパンを充分に温めて……
「あぁ~お肉の焼ける音~」
ジュワァっと質の良い肉がフライパンの上で焼ける。もう見てるだけで涎が出てきそうだけど、お肉を裏返すと見事な焼き色。さっきカレーパン(?)を食べたばかりなのにもうお腹が減って来た気がする
「「ごくっ……」」
後ろから唾を飲み込む音が聞こえるけど調理に集中だ。しっかりと両面に焼き色を付けて、皿に肉を乗せる。そしてもう一枚の皿をひっくり返して蓋をする。これで何分か待つ。くぅー!この待ち時間がとても長く感じる!
「ソースも作らなきゃ……」
ワリアさんから貰った【欲張り調味料セット】の箱を開く。必要な調味料とワインを使ってステーキソースも待ち時間の間に作っておく
「なぁ?気になっていたんだが、その箱……中身は調味料か?」
「えぇ、色々入ってます。あっ!これは大事な物なので中身は見せられません!」
ワリアさんの存在をバラす可能性がある【欲張り調味料セット】の事を詳しく話す事は出来ない。それはアトラさんとの約束を破ってしまう可能性がある
「まぁ隠したい事の一つや二つは誰にでもあるから言及はしないが、便利だな?」
「それは否定しませんね。色々出来ますから」
使う機会が中々無くて活躍はしていなかったけど
「あぁ……久々にジャーキーも作りたいなぁ……」
フライパンと調味料セットを見てるとワリアさんに教えてもらったジャーキーをまた作りたくなった。保存食を作っておけばログインした時にお腹減った状態だったとしてもすぐに回復出来るし
「「ジャーキーだと!?」」
「えっ?」
いきなり2人が食い付いてきた。視界内が筋肉に占有されすぎて怖い
「酒のお供に最適!」
「携帯出来る保存食は売れる!」
2人とも別々の理由だった。だけどホフマンさんなら簡単に作れそうだと思うんだけどな?
「ホフマンさんなら簡単に作れるんじゃないですか?」
「作れるが乾燥に時間が掛かり過ぎてどうすればもっと早く作れるか試作中なんだ」
ホフマンさんが厨房の隅の方の壁に付いている取っ手を引っ張ると吊るされた短冊状の肉がいっぱい出てきた。これは乾燥中かな?
「どうにかならないかと色々やっているんだが……」
「あぁ、スライムゼリーを使うと乾燥は手早く済みますよ?」
「は?スライムゼリー?」
「はい、おっと、火を切って……多分これかな?おぉ切れた。この肉の短冊1枚貰いますね?」
「あ、あぁ……」
ステーキソースを作り終え、スライムゼリーを出してその中に肉の短冊を入れる。水分がスライムゼリーに吸われてしっかりと乾燥したジャーキーの出来上がりー
「僕も習っただけなんですけどスライムゼリーは水分を吸ってくれるんで乾燥させるには丁度良いらしいですよ?」
「そ、そんな方法が……うぉぉぉ!ありがとう!」
両手をがっちりホールドされてブンブンと上下に振るホフマンさん。腕が!腕がァ!