未完成だからこそ
「さぁ、ハチ君見せるよ~見せちゃうよ~?深淵はこんな事も出来るんだよ~?」
周りがそもそも深淵だから凄く見辛いけど、竜巻の様な荒れ狂う深淵が見える。あれって環境に影響を及ぼしてるのか?
「単純にこれで良いだろう」
クタルファ様は自身のタコ足に深淵を纏わせて、地面に叩き落とすと波の様な衝撃波がこっちまで来た。ちょっと気になってアビス様の方を見たけど、何ともないみたいだ。深淵を使って行けば、その内こんな環境にまで影響を及ぼす一撃とかも出せる様になるのか……凄い!
「おっと、今はそうじゃなかった」
【察気術】でオーラをしっかりと見てもオーラが強くて詳細までは分からない。絶対に何かを見つけられるハズだ。自分よりも強大な相手が自分が使ってた能力を使ってる。そうしたら何かしらの発見はあるハズなんだ
「あ、すみません。お願いなんですが、自分の出せる限りの深淵で壁を作るって出来ますかね?」
「この空間だと、クタルファがまだ見やすい方じゃない?」
「まぁ、お前よりかは深淵の扱いには劣るか。こんな物でどうだ?」
クタルファ様の深淵壁。恐ろしく巨大で横も縦も首を動かさないと視界に収まらない。これでニャラ様はまだ上らしいし、凄いなぁ……
「そのまま展開の維持をお願いします。で、ニャラ様にはこの壁全体を見る為に僕を持って欲しいんです」
「壁を見たい?まぁ良いけど」
ニャラ様が僕を持ち上げ、壁の上の方や右や左にぶんぶん振り回す。この扱いは仕方ない。受け入れよう
「あっ!」
今何か見えたぞ?
「おぉ……これはもしかして」
クタルファ様の深淵を限界まで展開してもらった深淵を見ていると、やっぱり限界まで張ると全体に完全に均一に張るという事は難しいのだろう。でも、それのお陰で深淵の濃度の違いとかを見る事が出来た。そして、濃度が薄くなった場所にオーラの色がほんの少し変わる揺らぎが見えた。今なら僕も分かるぞ。白は200色あると言われるのも納得な微妙な変化。確かに深淵の中に何かがある!
「これは……多分かなり時間が掛かる奴だな。すみませんニャラ様達をその間楽しませるのが難しくなるかもしれません」
「何か、掴んだみたいだね?」
「はい。これは、多分僕だけが究められる道かもしれません。まぁ、見せてしまえばニャラ様達にも出来る様になるのかもしれませんが、でも最初にやるのは僕です!」
この道は絶対にニャラ様だろうが、アビス様だろうが、僕が一番最初に見つけて見せる!
「しょーがないなぁ?まぁ、あっちはあっちで成長を見るのは楽しそうだし、許してあげよう」
「なんか逃げるみたいになっちゃってごめんなさい」
「まぁ、今回はそうなっただけだが、次回ここに来る時に何も進展してなかったら……まぁ、1プチッとかなぁ?」
わぁ……凄い事言われたぁ……
「努力します!」
「というか、あっちもあっちで結構育ってるねぇ?」
「ヤミィさんですか。確かに前に見た時より精密な動きが出来てる気がします」
ヤミィさんも皆と特訓に行ってた時に何か掴んだのかなぁ?まぁ、強くなるのは悪い事じゃないからそのまま頑張ってもらおう
「あぁ、あっちももう大分動きがしっかり出来る様になったみたいだから今回はもう終わりかな。ざーんねん。今回はハチ君の成長は無かったねぇ?」
「そうですね。でも、僕自身はまだ完成していないと思うので、伸びしろはまだまだあるんだなって思ってますよ」
完成してしまえばその先は無い。未完成だからこそ、完成を目指して色々な変化が起きていくと考えているので、今回の成長度合いで言うと一歩どころか十歩位下がる事は全然アリだと思ってる
「なるほどねぇ?」
「完成が怖いか?」
「そうですねぇ……目標ではありますが、確かにそこに到達して、完成したとしても果たしてその先何を目指すのか。目標の喪失は出来れば避けたい所なので、怖いと言えば怖いかもしれません」
今は楽しくやってるアルターも、もし完全にクリアして、やる事は何一つ無いなんて状況になった場合。僕は引き続きアルターをやれるかと言われるとちょっと出来なくなるかもしれない。あ、もしかしてニャラ様達って神様的存在だし、ある意味到達点というか完成形の様な存在で、やる事が無くてもやめられないという状態だったりするのかな?それは確かに苦しいのかもしれない。退屈な日常が繰り返されるだけ……それだったらそんな日々を終わらせる為に色々と破滅的な行動を起こすなんて事があっても不思議ではない。
「でも、ニャラ様達だって僕からしてみればまだ完成はしてないと思いますけどね?」
「「何?」」
僕はそんな時の気まぐれで力を与えられたのかもしれない
「完成してるなら、ここから自由に出る事だって出来るじゃないですか。でもそれが出来ないって事はまだ完成までは至ってないんじゃないですかね?完成率99%だとしても、最後の1%を埋めるのが凄い大変なだけで、その先があっても不思議じゃないと思いますけど……」
僕がこんな言葉を掛けた所で何も変わらなくても、まだ終わってないと思ってた方が楽しいじゃん?




