目が覚めるとそこは……
『焼きアユチバリス 焼いただけだが自然な味がシンプルで美味しい 空腹度10%回復』
「塩は無いけど焼きアユー。頂きまーす!はふはふっ……うまー!」
焚き火でしっかり焼けたアユチバリスを頬張る。あっついけど身がふんわりしててとても美味しい。けど……んー、塩欲しい……
「ふぅ……美味しかった。現実じゃ中々出来ないねー……ってそうだ。こっちで食べても現実じゃ食べてないんだから晩御飯も作らないと……」
あくまでもゲーム内での体験だから現実でもご飯は食べなければ
「これから夜になるとしたら出てくる生き物とかも変わるのかな?まぁそれはどうでもいっか」
周りに何もない状態だとギリーマントも効果が下がっちゃうだろうし、叢のある所に移動する。焚き火は……置いておいても良いか。どうせ放っておいても火は消えるし、火を嫌う生き物とかが居れば消えるまでは近寄れないかもしれない
「擬態も1回発動すれば動かない限り正直分からないしね。一応体中に土付けて匂いだけ消しておこう」
効果があるかは分からないけど地面で転がって自分の匂いを消す。オオカミは匂いで擬態した僕に近寄って来たからな……
土塗れ、【擬態】、ギリーマントの3重で地面に伏せてログアウト。今度は木の上じゃないから襲われちゃうかもなぁ……と思うが、思うだけで特に気にせずログアウトした
「ふぅ……よし、ご飯ご飯」
ベッドから起き上がり、ご飯の準備をする。またログインするのはお風呂とか入った後だ
「ご飯も食べた、お風呂入った、体操もしたし、洗濯もやった。母さんがいっつも言ってる肌のケアもやったし……トイレも済ませたからもう一度ログインしよう」
母さんが「絶対に肌のケアはするように!」という物だから一応やっておいた。何でも「影人の肌は私でも羨ましいくらい綺麗なんだからケアはしなさい!」との事。母さんの肌だって凄い綺麗なんだから正直隣の芝は青いくらいにしか感じないんだけどなぁ……
予定も無いし、ガッツリ遊んでも良いかな……でも明日昼まで寝ちゃったりしたらまた困りそうだし、やり過ぎない様に気を付けよう
「おはようございます……おぉ!朝日だ。あれ?」
ん?確かギリーマントで伏せていたハズだから朝日なんて見えないハズなんだけど……
「おや?これは……蜘蛛の巣ですねぇ!」
背中が蜘蛛の巣にくっ付いている。うん、この蜘蛛の巣見た事あるよ?あの糸を貰った所だね……
『称号 【無頼】を入手』
「キシャア」
「Oh……デカい」
縮こまって象のサイズだった蜘蛛が足を伸ばして僕の前に居る。これは大きい……称号入手したみたいだけど今はそんな事はどうでも良い。僕、ひょっとして食べられる?
「んーどうせ食べるなら頭からにして欲しいかなぁ……」
多分頭から食べられたら即死でそこまで痛みは感じないと思う。だって感覚100%だから手足から食べられたら多分痛い。絶対痛い
「カッカッカ!これは面白い!」
「へ?」
急に声が聞こえたから驚く。だってここには僕と蜘蛛しか居ないから声が聞こえる訳がない……
「何を驚いている?」
「えーっと……どこから?」
「目の前に居るじゃろ?」
「ん?蜘蛛……さんですか?」
「そうじゃ。全く……あんな探すのが難しい隠れ方をするな……見つけるのに苦労したではないか!」
どうやら蜘蛛さんは僕の事を探していたらしい
探される様な事何かしたっけ?
「攻撃せずに供物を置いていったのはお主が初めてじゃ。中々見どころがあるのう?」
「あれは……糸が欲しくて勝手に糸を持っていったら後から追いかけられるんじゃないかと思って食べ物を置いて行ったら足止め出来るかなぁって……供物ってつもりじゃ無かったんです」
「カッカッカ!正直にそんな事まで喋るとは益々気に入った!」
あれを供物として捉えられてたんだ……そのせいで僕追いかけられたの?
「あの……それで僕食べられるんですか?」
「わざわざ喰う為に探す訳が無いだろう?お主ならあの場所に連れて行っても良いだろう。所でお主の名前は何じゃ?」
「あ、僕はハチです」
「ハチか、良い名前じゃ。儂はアトラ=ナト。好きに呼ぶが良い」
「じゃあアトラさんで」
「カッカッカ!やはり面白い!それではハチよ。お前をハグレの村に連れて行ってやろう!」
蜘蛛の巣から引き剥がされてアトラさんの背中に乗せられる。あれよあれよという間の急展開だがアトラさんは待ってはくれない。というか何で喋れるんだろう?
森の中を進んでいくアトラさんの背中から疑問に思っていた事を聞いてみる
「あの、何でアトラさんって人の言葉が話せるんですか!」
アトラさんが中々速いので聞こえる様に少し声を張る
「おん?そりゃ儂が賢いからよ!」
何と言う賢い回答……とりあえず振り落とされない様にアトラさんにしっかり張り付く。上体を起こしていたら風圧とか木の枝とかが当たって落とされる可能性もあるし、風も枝も当たらない様に体全てをアトラさんにくっ付ける
「おぉ?くすぐったいぞ?」
「じゃあ少し速度落としてもらえると嬉しいんですけどー!」
「そりゃ無理だな!ワハハハ!」
どう考えても楽しんでいるアトラさんの背に振り落とされない様にしがみ付いている為周りの景色も分からない。どこの方角に向かって進んでいるんだろう?
「もう少しで着くから辛抱してくれ」
「頑張りまーす!」
何処に辿り着くのか分からない。だけどもう少しで着くらしいので振り落とされそうになるのを耐える
「よし!着いたぞ!」
「うう……結構危なかった……おぉ?村だ」
アルテアに来て初めての村は人では無く、魔物の村でした