ふわトロの障壁
「うーん、僕以外に出来ないとなると、あまり良くないですかね……」
出す料理のクオリティが一定を保てないとなると、商品にならないだろう。となると、普通に卵を薄焼きにして、乗せる方が良いか
「うーん、私としては普通にこれはオムライスとして食べたいですが……」
「今からこれをキッチン担当の人達が全員出来る様にするには……ちょっと難しいかと」
「数量限定メニューにする……とか?」
「うーん……」
数量限定メニューは確かに僕だけが作れるという問題を解決する事は出来るだろう。だが、そうしてしまうと、他の人が作る薄焼き卵のオムライスと、ふわトロオムライスのどちらを頼むかと言ったら……まぁ、基本はふわトロの方だよね
「限定メニューはあまり良くないかもしれないですね。自分の腕を過信する訳じゃないですけど、限定メニューがあるお店で、限定メニュー売り切れましたと言われたらどうします?」
「人によっては帰っちゃうかもしれないですね……」
「そうですね。それに、そうなってしまうと、他の人のモチベーションの妨げにもなりかねません」
そう、商品は売れた方が良いが、これはあくまで学校行事。皆で協力してやるべきであって、僕が目立てば良いという訳では無い。皆と足並みを揃えて色々やるべきだ。1つの特化した物を作って他の人のやる気を削いでしまうより、同じ物を作って競い合う方が良い物が生まれやすいだろう
「だから、それは止めておきま……」
「「ちょっと待ったー!」」
「「「え?」」」
急に家庭科室の扉が開いた。なんだ?
「「そんな美味しそうな物を出さないなんてもったいない!」」
えっと……いや待て。確かこの声。同じクラスの中に居た気がする。なんか噂が好きな人達だったかな?
「いや、でも……」
「私らもキッチン担当だし、やり方を教えてよ。そうしたら問題解決じゃない?」
「大体、そんな美味しそうなのを黙って食べようとしてるなんて先生ずるーい!」
「いやぁ、そういうつもりじゃ……ごめんなさい」
立場が弱いなぁ……
「うーん、とりあえずやるだけやってみます?」
ここで、上手く教える事が出来れば、クラスとしてふわトロオムライスがキチンと提供出来るかな?
「やるやる!どうせライスは手抜きだし!」
「そうそう!卵位は手の込んだ物を作りたい!」
となると、頑張って教えてみるか
「そうですね。やるんだったらテフロ…焦げ付かないフライパンとかを使うのが一番良いと思います」
ここでフライパンの説明に時間を割くよりも混ぜ合わせる所に説明の時間を割いた方が良いだろう
「卵は多めになっちゃうんですが、ふわトロさを確保する為には卵は3つ位無いと難しいと思います」
卵が少なければ、その分火の入りが早くなる。そうなるとふわトロにするのは難しいからなぁ
「「なるほど」」
「で、ここで動きを止めない様に、可能な限り混ぜてください。これで、纏めてトントンするとふわトロになって行きますから」
もう一度オムレツを作って見せる。これ、卵絶対足りなくなるわ……
「わぁ、美味しそう……」
「これは早速味見しないと……」
「まぁ、それは構いませんが、どうです?行けそうですか?」
今の一連の動きを真似出来るかどうか。それが無理ならふわトロオムライスは無かった事になる
「……どう?」
「何とか……なる。かな?」
何とかならないとお蔵入りだから何とかしてくれると助かる
「ま、やってみよう!」
「そうね。今の説明でなんとなくは分かったけど、まずは自分でやってみないとね!」
実際、これはやってみないと分からないと思う
「出来た!」
「意外と何とかなったかも?」
凄い。ちゃんと出来てる。これなら何とかなるかも
「良いですね。火の入り加減とかも丁度良いですし、これなら大丈夫ですね」
星野先生にもお墨付きを貰えたし、女子2人のオムレツも完成度は素晴らしいからこれはメニューとして採用してもらえるかな?
「そうですね。ですが……」
「「「ですが?」」」
口にはしないが、このオムライスは割とデカい欠点がある
「これを数作るとなると、かなり卵の量が必要になっちゃうんですよねぇ……卵の仕入れ額が高くなると、赤字にならない様にオムライスの価格も上げないと行けませんから……」
そう。これでオムライスを作るとなると、1つ作るのに卵が3つ使う事になる。利益を考えるならオムライス1つに卵1つが妥当だろうけど、これで作ろうとしたら市販の卵パックじゃ10皿分なんてとてもじゃないが出せない
「それを考えると、やっぱり薄焼き卵タイプですかね」
利益を考えたらやっぱり薄焼き卵にしなければダメだろう
「うーん、残念ですが、そうした方が良いかもしれないですね。卵2つでは出来ないんですか?」
「卵2つでも出来るとは思いますが、3個の時よりも火加減の調節が難しくなりますね。単純に火の入りが早くなってしまうので、手間取るとあっという間に全体に火が通って厚焼き玉子になっちゃいますね」
これが中々に難しい塩梅なんだよなぁ……




