虚構の一撃
「幽体の攻撃に似てるよなぁ……うーん、精神攻撃……となると、【恐怖圧】を更に圧縮して形にする感じか?」
プレッシャーに指向性を与えるみたいな物か?
「だとしても、流石に圧を実体化させるのは現状の僕には出来ない……のか?」
スキルとか魔法でプレッシャー関連と言えば、【恐怖圧】位しかないけど、それを実体化させるなんて力は……いや、深淵の変形とかも出来たんだ。【恐怖圧】や【幻覚圧】を変質させる事も出来るんじゃないか?
「シンフォニアの様な指向性。相手を確実に倒すという意思……もしかして、殺気?」
相手に殺気をぶつける……これに深淵を複合する事でさっきの攻撃が出せるのでは?
「勝ちたいとか殺したいとか、能力を使うのに色々大変になるなぁ……」
合ってるか分からないけど、まずは思いついた物を試してみよう!
「余計な事は考えない……ただ目の前の標的を殺す。殺す。殺す……」
「え、こわ……急にどうしたコイツ……」
「来たぁ!これこれぇ!始まったねぇ!」
周りの雑音に耳は傾けない。まずは自分と標的との距離や、自分の中にある深淵等を感じ取る方に力を注ぐ
「随分と隙だらけでは無いか?」
「んじゃ攻撃してみ?」
「む?良いのか?お前のお気に入りなのだろう?」
「良いからやってみ?」
「ふむ……ならば」
目を閉じて集中していても分かる。今まさに、僕に向かってただ振るわれた触手が迫ってきている。当たれば確実に致命傷になるだろう一撃……だったらどうした?僕も同じ位の攻撃かそれ以上の攻撃で打ち消せばいい
「神が何だ。上位者が何だ。立ちはだかる物は全て倒すだけ」
追い込まれて、命の危険が迫っている。だからこそ本気になれる!
「ぬっ……?」
「うおっと!流石に一発じゃ無理か……もっともっと、負荷を高めないと……ぐぅっ!」
ダメだ。一撃喰らったら死ぬの状態なのは良いけど、もっと、もっと追い込まれてないと……深淵触手で自傷して自分自身を更に追い込む
「コイツ完全にヤバい奴じゃん」
「そこが良いんだよ~。まだ分かんないかなぁ?」
無駄話に耳を傾けるな。今は集中。やるべき事は決まってる。殺意に形を……あ、これって最初に特訓してもらった見えない蛇!なるほど!だからあの時僕は殺気を感じる事が出来たのか!
「そうか!そう言う事か!あはははは!」
「いや、こわ……」
「もう一回!もう一回お願いします!」
殺気を形に、どんな物も大事なのはイメージだが、自分で更に追い込んだ事による緊張感やら、思いついた事を試したい好奇心やらで逆に色々考えちゃう……
「ハチ、一度解け」
「え?【解除】」
アビス様の声が聞こえて来たので、素直に【アビスフォーム】を【解除】する。でもこれだとアビス様との力を……そうか。何かしらを発現させていた時は基本的に力を借りると言っても攻撃してもらうとかそういう状態だった。逆に力を借りているからこそ、良くなかったのかもしれない。つまり、これでいつも通りの状態になった訳だ
「なんだ?今度は急にやる気をなくしたのか?」
「さぁ、こればっかりはどうなるかはやってみないと分からないからねぇ?ただ、ハチ君は追い込む程、真価を発揮するんだよねぇ」
確かに、傍から見たら強そうな強化状態から急に通常の姿に戻ったのだからやる気をなくしたみたいに思っても仕方ないだろう。でも、違う。僕の強化に関わる事だからアビス様は邪魔をしない様に引いてくれたのだ。だからこそ、僕にはその思いに応える必要がある
「あ、なんでもないです。どうぞ!もう一度!」
相手の攻撃に対してこっちも出す。そういう方が僕には性に合ってる
「では、喰らうが良い!」
二重の攻撃がまた僕に対して振り下ろされる。物理と精神へ干渉する一撃。対処するには僕も物理の触手と精神干渉が出来る一撃の同時使用が絶対条件。躱すなんて考えるよりも、まずはイメージを広げろ。もっともっと、自由に、柔軟に、創造するんだ
「実と虚……」
実在の一撃と虚構の一撃をイメージして……
「コイツ……マジかよ?今の、なんだ?」
「おっほ~!やっぱハチ君たまんねぇ~!どこまで成長するんだろうねぇ~!」
なんか……出来たっぽい?
「今、出てました?」
「うんうん、出てたよ~。ただ、教えるつもりだった物とは違うと思うけど……ま、ハチ君だからねぇ~。独自解釈で新しい物を作るのは見ていて楽しいよ」
どうやら本来教えてもらう物とは違っていたみたいだ。でも、キチンと物理的攻撃の触手と、精神攻撃の触手を両方とも弾く事が出来ているから機能としては同じ様な事は出来ていると見て良いだろう
「なるほどな。本体の方もどうやら向こうの空間に馴染んではいるみたいだ。ふむ、良いだろう。人間の寿命等それほど長い物でもない。少し位はお前に時間を割いてやってもよかろう」
「あ、じゃあもう少し付き合ってください。今の感覚を忘れないでしっかり使える為にももう少しやりたいんで」
今の……虚構の一撃。虚深淵とでも名付けておくか。よーし!虚深淵をもっと物にするぞぉ!




