クタルファ様の教え
「さ、これで深淵に新しい住人が増えましたねぇ?」
「ハチくぅん?それは無いんじゃないかなぁ?」
深淵に吸い込まれていったクタルファさん。こんな所でふんぞり返って引き籠もってるより、同等の存在とルームシェアでもして生活した方が良いだろう
「っぶねぇ……分体が何とか間に合った……」
「あれま、大分小さくなりましたね?」
吸い込まれた巨大なクタルファさんはどうやら体の一部を分離したらしく、人サイズまで小さくなっていた。頭に蝙蝠の翼みたいなのでパタパタ飛んでる……小さくなったからこそ、翼で飛べるようになったのかな?
「おい、やっぱりコイツ本当に人間か?」
「だーから言ってんじゃん?超貴重な原石だって」
「ふぅむ……おい、ハチ。お前、今触手を出していたな?」
「え、はい」
なんだ?
「その触手の形は勿論変える事は出来るんだろう?」
「え、えぇ。出来ますけど……」
「なら、お前に触手の何たるかを教えてやろう」
どうしよう。ここで線深淵とか使えると言っても良いんだろうけど……もう少しこのまま乗ってみるか
「ぷふっ……」
おいそこ、黙ってなさい
「あ、じゃあお話聞かせてもらっても良いですかね?」
僕が知らない何かを知っていたら、僕の力として利用出来るかもしれない。人ならざる者からの教えなんてどんな面白い技術を学べるのか気になるし、ここで、聞かないのは勿体無い。もし、既存の情報しか得られなかったとしても、それはそれで、新しい別の何かを学ぶ事が出来るチャンスが生まれるかもしれない
「良いだろう。まずは我が触手を真似てみせよ」
「吸盤付きの触手かぁ。確かに何かしらを相手から奪うとか考えると、巻き付けなくても済む吸盤はアリかも……」
ノーマル触手に吸盤を用意してクタルファさんに見せる
「は?もう……?」
「ぷっ……ぷくくっ……」
噴き出すのを何とか我慢しようとしているニャラ様。まぁ、確かにそれは良い考えだとは思うけど、正直今更感が否めないよね
「次はなんですか!何を教えてくれるんですか!」
「次?次は……」
「これは確かに居る方が良いかも。これはこれで面白そう!」
今後の深淵での特訓とか考えたらクタルファさんが居た方が特訓の幅が出るとやっと理解してもらえたか
「そう…だな……そうだ!その触手をもっと細くしたり、太くしたりしてみせろ!それが出来なければ話になら……」
「こうですか?」
流石に線深淵に吸盤を付けるのは難しいけど、これも一応くっ付くと思う。太い方は、深淵の総量を考えるとあんまり用意出来ないだろうけど、今は【アビスフォーム】中だからアビス様の力を使って太くて巨大な深淵触手を用意出来ちゃうのは助かるなぁ
「なんでぇ?」
「うひゃひゃひゃ!おもろっ!」
「で、次は!」
「えぇ……こわ」
次は何を教えてくれるかなぁ?
「えっと、その辺の単純な変形はある程度もう出来てるんで……もう少し何か別の事を教えて頂けると嬉しいですね」
目の前で深淵触手を変形させまくって変形に関しては問題無いと思う
「他に……後は……」
困ってる困ってる。こうする事で新しい何かを引き出せないかな?
「であるならば、これはどうだ?これは流石に知らないだろう!」
ん?なんだろう?他に何か知らない何かがあるかな?
「うおっ!なんだこれ!」
触手は触手だが、なんかズレて2重に見える。これは……あの2重にぶれている側にだけ当たってみるか
「あ、なんか力が落ちた気がする。なるほど。そういう系か!」
「え、こわ……」
「あの攻撃に突っ込んでいくとかやっぱイッちゃってんねぇ!」
あのブレて見えた触手の攻撃はいわゆる精神的な攻撃とでも言うべきか、肉体に対するダメージはほぼ無いのにステータスに悪影響を齎して来た。つまり、物理的一撃と精神的一撃の2重の攻撃。それがさっきの触手攻撃の正体だろう。あの攻撃……絶対覚えたい。さっきの感覚……物理的に防ごうとしたけど出来なかったから、幽体の攻撃と似ているのかもしれない。幽体触手?精神体触手?魔法によって防がれる可能性は高いけど、あれで相手のステータスを落とせるなら、線深淵状の幽体触手ブービートラップなんかを使えれば、僕の元に辿り着くまでにステータスを大きく下げて戦闘開始……なんて事が出来るかもしれない。どっちにしても相手のステータスを下げる事が出来る物なんてあればあるだけ良い
「おぉ!これは覚え甲斐がある!えーっとどうしたら良いかな?これに関しては確実に今までの物とは違う物だし、一旦アビス様の力も借りながら出来るかどうかやってみよう!すみません!今の攻撃もう一回お願いします!」
「お、おう……」
【アビスフォーム】は解かずにそのまま続ける事にする。どうするんだろう!どうやったら今のが出来るんだろう!
「あれまぁ、火着いちゃった。まぁハチ君ったらまぁたあんなに目をキラッキラさせちゃってぇ……にしても、なるほどねぇ?あれは確かにまだハチ君は覚えてなかったか」
「絶対覚えるぞぉ!」
さっきまで揶揄い対象位だったのに、一気に物を教えてもらう先生までランクアップだ!さぁ、僕に色々教えてくれ。クタルファ様!




