騎士団長
「はぁ、はぁ、はぁ……なんだ!?全然捕まえられん!」
「なんなんだありゃ……」
「お茶でも用意しましょうか?今なら紅茶くらいなら出しますよ」
「このぉ~!」
追われたまま花瓶の水を取り替えて、紅茶を出すとまで言われたら怒るのも無理はない。ましてや騎士団長様だ。プライドが許さないんだろう
「ところで、どのくらい時間が経過しましたか?」
「今40秒」
あと20秒かぁ……となるともう少し本気を出してくるかな?
「了解です」
「アイツ本当に紅茶を用意する気だぞ!?」
「ずぇったい許さん!」
相手の掴みかかりを回避しながら机の上にティーカップやお菓子を用意していき、最後の注ぎ直前まで済ませる。もう顔が鬼の形相だなぁ?
「なんだか踊ってるみたいだ……」
「なんでアレで回避出来んだ?」
「あら?花が……」
ん?花?あっ!枯れかけだった花が実をつけて種になって花瓶の中に落ちてまた成長したのか、綺麗な花が結構多めに花瓶から生えている。なるほど、成長させるだからそういう事もあるのか
「いかがでしょう。20秒は経過しましたか?」
「経った」
「はい、では座ってお茶でも飲んで大人しくしてください」
「なっ!?」
1分間逃げ切ったので、用意したお茶の席に例の女性を座らせる。袖の内側に深淵を展開して力を補っているから傍からは見えないけど、結構強い力で椅子に座らせているハズだ
「賭けは私の勝ち。追加の報酬で更にうまうま」
「「「ぐっ……」」」
悔しそうに皆硬貨を直帰さんに渡して……おい団長さん?なんで貴方も賭けに参加してるんですかねぇ?
「う、美味い!?」
この人も普通に紅茶飲んでるし、やっぱりここに集まる人達って変な人が多いなぁ?でも、とりあえずはこの場を一旦仕切り直す為にも話をこっちから仕掛けよう
「今更ですけど、皆さん自己紹介しません?僕皆さんの名前知らないんでなんて呼んだら良いか分からないんですけど……団長さんとかも名前知りませんし」
名前を知ってるか知らないかは結構重要だしなぁ?
「あれ?まだ言ってなかったか?俺はクロウ。んでそこに居る奴らは右からオッズ、モッズ、ガッズ、サリナ、ネム。まぁ他にも居るが……」
説明された感じ。直帰さんはネムさんって言うのか。今度からは名前で呼ぶようにしよう
「私はエールマシア!エルフの国の騎士団長だ!」
聞いても無いのに答えた例の捕まってた女性。もう紅茶飲み終わったのか……
「そうですか。あ、ハチです。部外者です」
とりあえずこんな感じで良いんじゃないかな。エルフの国はどうかなぁ……行く必要あるか?多分魔法を強化するとか出来るかもしれないけど、それが出来るって言っても攻撃魔法だろう。だから正直そこまで行きたい訳では無い。多少そっけなくしても良いかな
「部外者ならこっちに来ないか?金なら私の権限でそれなりに出せるぞ」
「そういう目で見てたんですか?盗賊とほぼ一緒じゃないですか」
全然そんな事は無いけど、心理的にダメージを与える為にあえて盗賊を話題に出す
「うぐっ……す、すまない」
「ホントアイツマジで……」
団長の苦労さん……もといクロウさんは僕が心理的に上に立とうとしている事に気が付いているみたいだ
「あなたにもやる事はありますよね?それと同じ様に僕にもやるべき事があります。だから貴方が金で僕に言う事を聞かせようとしても僕は首を縦には振りません」
「ちょっと待ってくれ!私はそんなつもりは無い!」
「でしょうね。貴方を見ていればなんとなく分かります。人質の代わりに自分の身を差し出せるんですからそういう事はしない人だとは思ってますよ」
まぁ、腕が良いとか、そういうマニュアルだったからしていた可能性もあるけども、僕としてはこのエールマシアさんは自己犠牲タイプの可能性が一番デカいと思う
「そ、そうか。ありがとう……」
「ま、そっちにどんな事情があるかは知りませんが、僕としては今はここから離れるつもりは無いので、そっちの要求は呑めないという事だけ理解して頂けたら幸いです」
とりあえず向こうを上げて、少し気分を良くしたところで、事情があるから出来ないと断る。多少負い目を感じてこれ以上要求させない感じで行こう
「まぁ、事情があるのは理解した。無理に連れて行こうとした事は謝る。すまなかった」
「いえいえ、お互い様です」
よし、これでもう問題無いな!
「一応、無理には連れて行かないが、エルフの国も中々良い所だからもし、興味があったら寄ってくれ。エールマシアに呼ばれたと言えば通れる様にはしよう」
ほほう?強制されるのは好きじゃないけど、そういう言われ方をするとちょっと気になってきちゃうじゃん?
「そうですね。そこまで言うんでしたら、時間があって、エルフの国を見つける事があったら寄ってみましょうか」
「場所ならそこの団長が知っている。後で聞いておいてくれ。私は一度国に戻って魔石の受け渡し完了の報告書を書かなければならないからな」
報告書かぁ……大変そうだなぁ
「帰りの道はお気をつけて」
「それは問題無い。もう危険な物は無いからな!盗賊は全て蹴散らして帰るとしよう!」
まぁ騎士団長なんて言うんだから足枷になる物が無ければそりゃあ盗賊程度に遅れは取らないか




