最後の抵抗
「なるほど、やはり純粋に戦闘力がある人はちゃんと居るみたいですね」
ガチ宮さんとかレイカ様は残念ながら人型深淵にやられてしまったみたいだけど、これは正直仕方がない事だろう。基本的にこのゲームのプレイヤーは武器を持っている状態が正常だ。それを武器を取り上げた不完全な状態で戦わせているんだ。全員が生き残れるとは思っていない。むしろここで数人脱落してもらわないと困る
「アンタとやり合うならこのくらいは想定しておかないとね」
「まぁ、ハチ君とやり合うなら準備し過ぎて悪い事はないね。むしろ、自分で準備し過ぎたと思ってもまだ足りてない可能性もあるし」
「ヒャッハー!どうせまだ何か隠してるんだろぉ?全部吐き出せぇ!」
「キックボクシングをしていて良かった。こういう時にも役に立つとは……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
アイリスさんが割と疲れ気味だな。でも、僕個人としてはアイリスさんに武器を拾って欲しいんだよなぁ……
「さて、じゃあお次は……ぐっ!?」
深淵を纏わせていた手を押さえて苦しむ。この左手が疼く……厨二スタイルだ。まぁ、これだけ無茶していたら制御が効かなくなってきたと思ってもらえれば良いだろう。深淵空間と自分に纏わせた左半身の深淵を震えさせて、異常事態をここに居る皆に理解させる
「くっ……鎮まれっ!」
一応用意しておいた包帯を取り出して、実は特に何ともない左手を深淵の上から包帯でグルグル巻きにする。これでなんとなく闇の力が封印された左手っぽくなった
「な、なんかヤバいぞ!?」
「これちょっとマズくないか?」
「これだけ力を使っていたらそりゃあいくらハチと言えども制御しきれなくもなるでしょ!早く倒さないとここに飲み込まれるわよ!」
良い勘違いだ。流石に僕の演技の可能性を考えたんだろうけど、空間全体を不規則に震えさせる事で心理的にも焦らずにはいられないのだろう。キリエさんも騙せているなら何とかなるな
「力を、使い過ぎたか……空間の維持が……ゴホッ」
全員の拘束は既に解いてあるし、武器も僕の後方に落としてある。ついでに僕の口から液体状の深淵を吐き出して、半身の深淵を地面にポタポタと垂らす。ついでに左手を自分の意思と無関係と言わんばかりに適当に動かす
「おい、やっぱり暴走してるぞ!」
「このままじゃ全員道連れだ!早く武器を!」
「させ……ませんよ。僕は、まだ、負けてない……全員、道連れで…終わりです」
勿論僕自身は余裕も余裕だけど、暴走状態の様に見せ、そして更に深淵を使って武器と僕との間に壁を作る。限界だからこそここで更に力を使って深淵空間を振動させる。よし、このままアイリスさんの所にアレを向かわせよう
「ん、これは……!?」
「カハッ……人がこれだけ、入っていると、ここまで消耗が、激しいとは……」
片膝を着きそうになるのを耐えて、ギリギリ立っている演技をする。そして、アイリスさんの足元に遂にアレが転がり込んだ
「くっ、体が……でも関係ない。喰らえっ!」
狙いが甘い深淵の叩き潰し。とりあえず適当で良い。制御が上手く出来てない様に見せる事が重要だ
「「「「……」」」」
「ん?もしかして、何か逆転の目でも……見つけましたか?」
この無言の時間は……ウィスパーで情報が回っているっぽい気がする。となると、いよいよ来たか
「これは、さっさと…決めないと……面倒になりそうですね」
武器没収状態でどうするのか見せてもらおうじゃないか
「分かったわ。行きなさい尖兵達!」
「「尖兵かい……」」
ダイコーンさんとハスバさんが突っ込んでくる。最低限1人は回避したいから今は動けない様に見せてる状態だし、あの魔法で対処するか
「【エリアディストーション】」
「「なっ!?」」
半径3mで攻撃にズレを発生させる【エリアディストーション】で僕にタックルでもしようとしていた2人が僕の横を抜けていく……
「「まだだっ!」」
と思ったら、攻撃ミスに気が付いて即座に反転して、僕にしがみつく。やっぱり【エリアディストーション】は射撃攻撃とかに対しては強いけど、こういう本体が突っ込んでくる攻撃への対処はちょっと難しいなぁ……
「良いんですか?こんな完全に、僕の距離に…入ってきて」
「ヒャッハー!今のお前を止めるには犠牲の1つや2つなくてどうにかなる訳ねぇだろぉ!?」
「あぁ!我々ごとでも構わないさ!今回のイベントは勝たせてもらう!」
「何か、勝算でも?武器も無いのに……」
勿論勝算があるに決まってるんだよなぁ?
「そのまま行け!」
「露払いは私達がしてあげるわ。決めなさい!」
アイリスさんを守る様にキリエさんとロザリーさんがこっちに向かって走ってくる。動きは止められてるけど深淵を動かして妨害を試みるけど……
「この程度!」
「なんてことはない!」
深淵を体で受け止めてアイリスさんへの攻撃を受け止める。分かってますとも、こういう時はさっきまで完全に潰せてたのに、今は抑えられる程度の威力で止めてますとも
「いま、救ってあげます」
「【ディストーショ……」
「させないよ」
最後の抵抗をしようとした所をハスバさんに口に手を突っ込まれて魔法の発動を中断させられ、心臓に直刀が突き刺さる感覚を感じながら光になった
 




