宝剣の間
「やりますねぇ!」
「そっちこそ!」
正直、今が一番攻略されてしまう可能性が高い。皆に楽しんでもらいたいという気持ちと同じくらい僕も楽しみたい気持ちはある。そして、演出によってお膳立てされたこの状況。もちろんハスバさんが僕の不意を突いて武器で攻撃してきたら確実に致命傷だし、僕に武器を使おうとした瞬間を発見されれば、僕もちょっと早いけど、深淵触手くらいは出す。そうなったらハスバさんも手数の問題で負けるだろう。なので、お互いに武器を使わずに殴り合いだけで体力を減らしている今が一番僕にダメージを与えるチャンスと言っても過言ではない
「一応アルターの先輩としても、後輩には負けられないんでねっ!」
「なるほど、でも先輩は後輩に花を持たせるのも良いのではっ!」
一歩も退かない殴り合い。痛みは出来るだけ受けたくはないけど、ハスバさんとの魂のぶつけ合いみたいで逃げるという選択肢を一旦消している。もちろん、危なくなれば全体の事を思って退くけども、今だけは僕とハスバさんだけの時間だ
「「良いっ!」」
今だけは僕もハスバさんと同類だ。この痛みがある意味心地良い。あぁ、今僕は生きてる!
「ぐっ……」
「おっと、分かるよ。今誘ったねぇ?」
「ははっ!手の内がバレてますかっ!流石です!」
腹部への一撃をあえて深めにもらい、そこからの組みつき反撃を狙ったが、しっかり退いてそれを躱すハスバさん。僕の戦い方を見て来たからこその深手っぽいのを与えた時に油断しない慎重さ。こうも僕との戦い方が上手いと深淵とかを使って全力で圧倒したい気持ちと、このまま純粋に殴り合いをしたい気持ち。その二つが交互に高速で入れ替わる
「ではこれならどうですか!」
今度は蹴り技主体で攻めていく。もちろん後ろ回し蹴りみたいな隙を晒すのも混ぜ込んでいるけど、その隙に突っ込むのではなく、隙のなさそうな威力低めの連携の時に体で受けながら反撃するなんて事をしてくる中々の観察眼。僕のあえて作る隙に突っ込んで来た所への反撃スタイルはハスバさんには通じないみたいだ
「ホントに君は多芸だ!」
「これからもっと多くの事を学んでいくつもりです!」
自分で出来る事はなんでもやってみたい。もっと学びたい。それは今目の前に居る存在からもだ
「また動きが変わった……」
「さぁ、まだまだ終わりませんよ」
ほぼリアルタイムでハスバさんの動きを鏡写しの様に真似する。流石に横に移動した時に自分の動きの鏡になっている事に気が付いただろう
「そんな事まで出来るのかい。君は本当に凄まじいよ!」
「そういうハスバさんこそ!」
お互いに褒めながらも殴り合いを続けた結果……
「どうやら、時間切れの様です。私は次の段階で待つとしましょう」
「くっ、やりきれなかったか……」
殴り合いをしてるのにお互い褒めてやってるから情緒おかしくなりそうだったけど、他の皆の分身体が消えたので、ここまでにしておこう。皆も脇に控えさせて先に進む道を開ける。とりあえず無事にハスバさんは次に進む為に生き残る事が出来たな
「では……また次のエリアにて、お待ちしていますよ」
体全体的にズキズキするけど、悪い気分じゃない。むしろ清々しい気分だ
「ふぅ、よし!気合入れ直して行こう!」
両頬を叩いて気を引き締める。ここからは深淵も使っていくぞ
「さぁ、良くここまで来てくれましたね!部屋の中央に宝剣は用意してあります。それを掴んだ人にその宝剣の所有権は移りますので。どうするのかは皆さまにお任せしましょう。私を倒してから宝剣を取るのか、他の人が戦っている間を狙って取っていくのか。私としてはどうなっても構いません。最終的に持っている。インベントリに仕舞った人の物です。」
ここで対立的な事を煽る。ここまで僕を倒すのではなく、宝剣の為に息を潜めていた人も少なからず居る気はする。だからこそ、そういった抜け駆けもアリという選択肢を提示する。そして……
「因みに、宝剣が仕舞われた時点でこのエリアは終了となるので、もし私と戦いたいのであれば……」
実質的タイムリミットを相手に委ねる。もちろん、これでずっと宝剣を放置して取られなければ、僕は倒せるだけ人を倒して、撤退するのもアリだ
「早く終わらせたい人、終わらせたくない人、報酬だけが欲しい人、私との闘いを望む人……誰の思いや考えが優先されるのかは貴方達次第です」
んでもって、いざ登場してもらいましょう!
「まぁ、どちらにしても協力無くして勝利無しです」
指パッチンをすると、エリアの端の方に作っておいた桜の木から花びらが舞い散る。そして、その花びらの間に和装の四人が現れた
「敵、ちょっと多い」
「おいおい、想定よりも多いじゃねーか!むかつくぜ!」
「まぁでも、やれない事はないんじゃない?」
「ん、眠い……」
横並びでバッチリ決まった!
「私も少し本気を出しましょう」
服装を金剛力士像スタイルにして、深淵で腕を2本増やす。元々の自分の腕は組んで、深淵腕で拳を合わせてやる気を表現する
「さぁ、勝負です」
 




