白いの
「満足満足。さぁて、それじゃあ師匠らしく頑張りますか!」
「あ、忘れてなかったんですね。てっきりもうご飯食べてそのまま帰るつもりだと思ってました」
「いやいや、そんな事は……」
思い当たる事が無いとは言えないのだろう。言い淀んでいる所をずっとニッコリ笑顔で見続ける
「えっとえっと、すいませんでした……」
そんな僕の視線に耐えられなかったのか謝って来た。まぁ言い逃れとかもしなかったし、良しとしよう
「分かってるなら大丈夫です。で、何をするつもりですか?」
「ハチ君ハチ君、なんか普通は人間が使えなさそうなの使ってるじゃん?」
おっ?ナチュラルディス入って来たな?
「モルガ師匠って結構人の事煽りますねぇ?」
「まぁまぁ、待ちなよハチ君?あの黒いのってさ。気配は確実に魔の物じゃん?」
それは否定出来ない。確実にどの年齢層の一般男性だとしても深淵を操るなんて機能は備わってない
「でさでさ?あれが魔の物の気配だとして、物事には基本的に逆の物がある訳だよ。善悪然り、空腹満腹然り」
確かにどんな物でも基本的に反対に位置する物は存在するとは思う。というと何か?深淵の反対に属する何かがあるという事なのか?
「ちょっと話に興味が湧いて来ましたね」
「来た来たぁ!でさでさハチ君?その黒いのの逆の物。探してみない?」
深淵と逆の存在かぁ……僕に発見出来る物なのか分からないけど、それは確かに探してみる価値はあるかもしれない。仮に、見つけたとしても既に深淵を持っているからダメとか言われるかもしれないけど、そういう能力があると存在を知っている事が重要になるかもしれないし、なんとなくだけど、この師匠がありもしない物の話をするとも思えない
「探しても良いですけど、今は忙しいので後回しになりますかね」
イベント前の本当にギリギリなこの場面では探し出すのは多分無理だ。もっと強くなれるかもしれないけど、残念ながらその姿を見せられるのはイベント後になりそうだ
「あらあら。忙しいと来たかぁ……まぁ最近何かしようとしてるみたいだし仕方ないか」
「ちょっと僕が用意したお宝を取りに来る人達を懲らしめなきゃならないんで、残念ながら今は……」
「ねぇねぇ?いったいハチ君は何をしようとしてるんですかねぇ?このままだと完全に弟子が魔王みたいになってる気がするんだけど……」
「いやぁ、これは師匠の格が上がるって物ですねぇ?もっと暴れないと……」
あえてここは師匠を上げるみたいに言う。ナチュラル煽りが入ってくるならこっちは皮肉を混ぜてやろう。
「ねぇねぇ。一応これでも元救世主って呼ばれてる偉い人なんだけど?そんな人間が魔王が一番弟子とかになったら自作自演で世界救ったみたいな事言われかねないんだけど?」
「マッチポンプで世界救済はかなり大規模ですねぇ?流石にそこまでの事はやった事……あぁ」
そう言えばもうやってたなぁ……
「とにかくとにかく!今度探してみようよ!もし、その力が見つかったら私が覚えたいし!」
本心出てきたなぁ?多分、僕が深淵を扱えているからその逆の力があればワンチャン僕を抑える事が出来るみたいな考えだろうか?流石に師匠として負けられないみたいな思いもあるかもしれないけど……うーんそんな力がありそうな所ねぇ
「なんとなくの見当はあると言えばありますが、まぁ、その辺はイベント後という事で……はい、自分が食べた分の食器は洗ってくださいよ?」
「はい!」
「うむ」
「分かりました」
「うんうん、今日もハチ君はカッコいい!凄い!」
「今回はその手には乗りませんよ師匠」
僕をおだてて食器洗いしてもらうつもりだったんだろう。今回はその手には乗らない
「さて、ビリヤードとかも完成させないと」
僕がやろうと思った事や、僕にやって欲しい事が積み重なってイベント前に大渋滞が起こってる。ちゃちゃっと調整を済ませていつでもお客さんを迎える準備の最終チェックとか、呼び出す予定の方達との打ち合わせとかもしておかなくちゃ
「ホントに楽しそうなんだよなぁ……」
ハチとモルガのやり取りを少し離れてみていたウカタマ。今日の仕事は終わらせたのであそこまで色々動くハチがどうしてそんなに楽しそうに色んな事に手を出せるのかをぼんやりと考えていた
「そうですね。ウカタマ様も仕事をあれくらい楽しんでやっていただけたらこちらとしても良いのですが」
「無茶を言うねぇ?あんなに色々な事を同時に出来る訳ないだろう?」
本当に、気が付いたら分裂してそれぞれ別の事をやっていても不思議ではないというか既にそういう事とかやってるハチと比べないで欲しい
「それでも神様ですか……やってもらわなければ困るんですが」
「いやあのね?多分ハチ君のせいで感覚が鈍っちゃったと思うけど、私これでも前に比べたら倍近く働いてるよ?」
一応今までに比べたら、多少はハチの所に遊びに行きたいからとやる事はやって文句を付けられない様にちょっと多めにやったりしている。正直もっと褒められても良いくらいだ
「それは当然です。というか今の状態が通常業務ですから」
「うっそー。そんなサボってた?」
「はい、それはもうガッツリと。なので今が苦しいと言ってるのは昔の自分が今の自分の首を絞めているだけです」
まじぃ?それはちょっとヤバいんじゃない?おい何してたんだ自分……あぁ、思い返せば暇だから寝よーとかやってたわ……
「しゃーない。ハチを見てたらもう少しやらないと皆に怒られちゃうか。ご飯も食べたしもうちょいだけ頑張るかー」
「ウカタマ様がやる気を……良かった」




