現世への挑戦状
「ハチよ。一つ頼まれてくれるか?」
「はい、なんでしょう」
おっ、頼み事か。なんだろう。すぐに出来る事なら急いでやるぞ
「刀身の方は急ピッチで進めているが、持ち手と鞘にする物が無い」
「分かりました取ってきます。どういう材質だと良いとかありますか?」
刀身を作ってもらっている間に持ち手と鞘の部分の素材集めという仕事を貰えた。どんな素材を使えば良いかなぁ?
「出来れば軽くて丈夫な素材が良いだろう。使いやすさの為に軽量化して、人によっては鞘を使って攻撃する事もあるだろうから丈夫である方が良い」
「確かに、それなら僕が知ってる素材の中だとカーボンウッドが一番良いと思いますが、どうでしょう?」
軽くて丈夫な素材と言えば僕の知ってる素材の中だとこれが該当する。金属の鞘って言うのもあるんだろうけど、なんとなくイメージで鞘で殴ったりしてたら鞘が曲がって刀が入れられなくなっちゃいそうだし、木材の方が良い気がする
「名前からして良さそうナノネ~」
「じゃあそれを取ってくる間に進められるところまで進めてしまおう」
「若いのにそっちは任せたぞ~」
「分かりました!早速取ってきます!」
キチンと返事をしてカーボンウッドを取りに行く。さぁ、僕も刀造りにこれで参加出来る!
「さて、どんな武器になる事やら……」
「こっちもさっさと済ませるぞ」
「うし、やるかぁ!」
この前の合金作成から色々と試行錯誤を重ねて作った金属を使い、加工中は柔らかく、加工しやすくして完成した際にはその柔らかさが敵の攻撃を受け止めながらも折れない粘り強さになる金属を刀に加工していく
「では、いくぞ」
「「「「応!」」」」
1人が抑え、4人がハンマーを持ち、ものすごいスピードで金属を伸ばしていく。ある程度まで伸びたら金属を畳み、また叩いて伸ばす。それを1セット5分かかるかどうかのスピードでこなし、休憩も無しでハチが戻ってくるまで続ける。強度的にこれ以上上がらない等関係ない。これは現世に生きる鍛冶師達への挑戦状とも言えるだろう。我々は既に没した存在だとしても、その技術はまだここで生きている。現世と冥界を繋ぐ者のお陰でその技術を現世に送る事が出来る。我々の条件ではここまでだが、現世の者達はどこまで辿りつけるのか?そういった挑戦状だ
「すみません遅くなりました。カーボンウッド持ってきました」
「おぉ……来たか」
「久々に疲れたノネ~」
「年寄りが無理するもんじゃねぇな……」
「素晴らしき武器が完成しそうな予感だ!」
カーボンウッドを取りに行っていたら既に刀身は出来上がっていたみたいだ
「綺麗な刀身……本当にここまで来ると単なる武器と言うより芸術の域まで達してますね」
無骨な武器ももちろん嫌いではないが、明らかに単に相手を殴れればいい、斬れれば良いみたいな雑な物ではない。敵を倒す。その一番大事な部分は忘れずに、見る者を魅了する美しさすら感じる。これを芸術的と言わないのは失礼だろう
「ほほう、これは良い木材だ。軽く丈夫で、まさに丁度良い」
「ただの焼けた木とは違うみたいナノネ~」
「ふむ、これは繊維としてかなり強いな。編み込む事で更に強い素材に出来るかもしれない。これなら若いもんでも喜びそうな物にはなるんじゃないか?」
「ただ、何か普通の木材とは違うな気がするね。なんだ?何が違う?」
おぉ?流石はエルフさん。何か違いがあるってすぐ分かるのか
「実はこの木材は青く燃える木という木の巨木から取った物でして……繊維質とかその辺がもしかすると普通の物より良いのかもしれません」
カーボンウッドを取ろうと思ったら苗木が出てきてしまったので、それならより良い物をという事で火山を爆走して燃える木の苗木を山頂に設置。火山の主であるボルカさんが微妙な表情をしていたけど、終わったらさっさと帰ると伝えたらしぶしぶ場所を使わせてもらえた。いやぁ、後処理も任せちゃったけど「これ意外と美味いなぁ」って燃える葉っぱを食べてたから、サラマンダー達がどうなる事やら……
「この木材は、まだあるのか?」
「あー……えっと、まだ欲しい感じですかね?」
「そうだな。このまま木材から鞘を削りだすより、一度この木材の繊維を取り出してから編み込んだ方が鞘も武器としての能力が高くなる。もっとあった方が良いな」
「分かりました。じゃあ預けた分をもう少し持ってきます」
勿論、巨木から出たカーボンウッドなんて凄い量だから加工は一旦せずに、大半はあの飛行船を作った造船所の方に置いて来ていた。半分は使っても良いから置く場所貸して欲しいみたいな事でカーボンウッドをプレゼントした時は造船所の人達が全員並んで感謝の土下座をしてきた時はちょっと異様な空気だったなぁ……
「木材の繊維とかも扱えるって鍛冶の域超えてるよな……凄いな。五鍛冶と言っても、多分鍛冶以外にも色々と詳しくて、その知識を1つの武器として纏め上げてるんだろうなぁ」
金属と魔物の素材とか、金属と布とか、多分大本は金属の知識なんだろうけど、それに付随する知識があるから更に良い物を作れるんだろう。それが5人とも違えば、全員で協力すれば本当にとてつもない物が完成する事だってある訳だ
 




