窮鼠猫を噛む
「頑張れ……」
岩陰からスライムを見守る。あのスライムなら出来るはずだ
「「「ウガァ!」」」
「……!」
森の狼達と違ってコヨーテ3体は同時に3方向から爪でスライムに攻撃する。あれは流石にスライムには分が悪そうだ……
「【オプティダウン STR】【オプティアップ DEF】……あれ?」
コヨーテ3体のSTRを下げ、スライムに防御力アップを付与する。これで多少はあのスライムでも耐えられるハズだ……と思っていたのだが、【オプティアップ DEF】は発動しなかった。やっぱりスライムはプレイヤーじゃ無いから単純なステータスアップの魔法は受け付けないんだろうか?
「……?」
「「「ガウ?」」」
急に力が弱まったコヨーテを見てスライムが困惑して両者の動きが一瞬止まる。こらこら、そこで止まるんじゃなくて反撃しなきゃ……
「もうちょい支援しようかな?」
出来ればスライムに勝ってほしい。でも【リブラ】はかなり近距離まで寄らないといけないからバレない様にステータス何か1つを50%強化する事は出来ない……。いや、ステータスの上昇や下降だけが支援じゃない
「多分この距離ならこのくらい……【魔糸生成】」
強靭、粘着、伸縮の3要素。僕が失敗して木に磔になった構成の糸をコヨーテ3体の上に狙って射出する。岩陰から山なりに射出された糸はこっち向きでは無かった2体のコヨーテを捕らえ、地面にべったりと張り付けた。1体逃したか……でもこれでスライムとコヨーテのタイマン状態にすることが出来た
「頑張れ!君なら出来る!」
後はスライム君が根性を見せてコヨーテを倒すのを見守ろう
「ウガッ!」
「……!」
スライムが体当たりをしてコヨーテを転ばす。コヨーテがスライムに噛みつくけど……あれなら大したダメージを喰らっている様には見えない。【オプティダウン DEF】にしてダメージを増やした方が良いか?
「「ウグゥ……」」
残りの2体のコヨーテは背中に糸がくっ付き、糸の先が地面にくっ付いた事で糸の付いたままスライムに攻撃しようと走り出したのだが……数mは進めたけど、糸に付与した強靭と伸縮の効果で力負けしたコヨーテは、ばいーんと戻される。そうなると糸に絡み取られて余計に動けなくなる。という状態になっている。こうなれば僕が糸を消すまであの2体は今は完全に無力化出来ているからスライム君は集中してタイマンが出来るだろう。だから防御より攻撃優先でコヨーテに掛けるのは【オプティダウン DEF】に切り替えよう
「行け!そこだ!」
コヨーテは爪で攻撃したり噛みついたり……スライムは噛みつかれても体の一部を大きくしてコヨーテの脇腹を殴りつける様にぶつかって吹き飛ばしたりと中々に熱い戦いを繰り広げている。プロレス……って訳じゃ無いけどタイマンならかなり良い戦いをしていると思う。やっぱり狼とかコヨーテは集団戦をするイメージだから分断したけど1体でもスライム君を倒す力はあるのだろう。最初に比べたら大分両者共に弱っている。でも頑張れ!その1体だけならスライム君だけでも倒せる!僕は信じてるぞ!
「……!!」
「ゴボッ……!?」
「良いぞ!そのまま決めろ!」
スライム君がコヨーテに噛みつかれた部分に集まり、コヨーテの顔を覆いつくす。窒息狙いの自分のボディを使った良い攻撃だ。後はコヨーテが窒息するまで耐えれば勝てるぞ!
「ん?おぉ!」
「……!」
スライム君がコヨーテを呑み込んだ!スライムの中のコヨーテはポリゴンとなり、消えた。スライム君の勝利だ!
「そりゃ!いよいしょ!」
スライム君がコヨーテを倒したので残った2体のコヨーテに魔硬貨を投げつけて攻撃する。あら?案外簡単に倒せてしまった。ダメージを与えてスライム君に倒してもらおうと思ったんだけどな……
「……!」
「あぁ、行っちゃった」
急に残った2体が倒れた事でスライム君は逃げて行ってしまった。せめてナイスファイトの一言くらい掛けたかったなぁ……
『称号 【弱食強肉】 を入手』
「おん?」
『【弱食強肉】 モンスター同士の戦闘で弱い方に協力し、勝たせる事で入手。窮鼠猫を噛む……じゃなくて食べちゃったよ…… モンスターに対しても支援魔法やドーピングアイテムを使用出来る』
「はぇ~、じゃあさっき出来なかった【オプティアップ】とかが使える様になるのかぁ……使う事あるかなぁ?」
今更だけど多分上昇系の支援魔法をモンスター相手に使う事って今回以降あるんだろうか?無い気がするなぁ……
「まぁ称号貰えたのは嬉しいかな?」
弱肉強食じゃなくて弱食強肉なんて反抗的で良いじゃん良いじゃん?
「とりあえず居なくなっちゃったし、あれは回収しておこうか」
僕の倒した2体のコヨーテの死体はナイフを刺して回収する。流石に何回も自分で解体するのは疲れるからたまにやる程度で良いだろう。今は教会を目指している最中だからね
『コヨーテの毛×4 コヨーテの皮×2 を入手』
素材を回収し、また荒野を進む。もう会えないと思うけどあのスライム君には頑張って生き抜いて欲しい