荒野に
「僕はそろそろ新しい所に行こうかと思ってるんだけど、新しいスキルを入手しちゃったら試さない訳にはいかないしねぇ?」
せっかく入手したスキルは試さざるを得ない。というか【ゲッコー】は複合スキルだからただただ利便性が上がっている。ホーライ君は飛べるから多分大した事じゃないんだろうけど、僕にとっては移動範囲の増加はとても大きい。だって【ゲッコー】があるなら足がくっ付いていたら壁でも天井でも戦う事も出来る。これは凄いアドバンテージだよ?
「もう行っちゃうのー?」
「僕にとってはここが故郷みたいな感じだからね。必ず帰って来るよ」
木から飛び降りてホーライ君に別れを告げる。この村から出てみないと色んな道具だって集めるの難しいし、ドナークさんから貰った「棄てられた教会」の情報もある事だし、レベルを上げれば更に先に進む事だって出来る。だから今度の目標は「棄てられた教会」に行くことだ
「それじゃあ僕は行くよ。ホーライ君も元気でねー」
「うん!元気でねー!」
ホーライ君に別れを告げ、僕は村の泉に向かう。これからもちょくちょく行ったり来たりする事になるだろうから行く度に皆に見送りされるのは少々こそばゆい。だからこっそりとセカンドラの街に行かせてもらおう
「ハチ、何も言わないで行くのは水臭いじゃないか?」
「およ?姫様か」
こっそり泉に向かおうとしたら姫様が泉の前で待っていた
「今後、何回も行ったり来たりするだろうから毎回見送りするのは大変でしょ?だからこっそり行こうかと……」
「だとしても、せめて私には一言掛けてから行ってほしいぞ?」
「じゃあ行く前に姫様を見つけたら声を掛けるよ」
「そうしてくれ。こっそり行くのも良いが、流石にいつの間にか居なくなってハチに頼み事があっても村に居ないのに探し回るのも億劫だからな!」
あ、そっか。僕が居ない間に僕に用件があっても居るか居ないか分からないとなると確かに困るな?誰かしらにちゃんと村から出ますと言っておくべきだな……だって一応僕も【アストライトの名誉村民】だし
「じゃあ姫様?僕行ってくるから皆によろしく!」
「うむ!いってらっしゃい!」
これで僕が村から出ても姫様が皆に僕の事を伝えてくれるだろう。これで安心して移動出来るな?
姫様に見送られながらセカンドラの街に転移する。「棄てられた教会」は位置データによるとセカンドラから東の方にあるみたいだ
「とりあえず向かいますかー」
周りを見ると鎧装備の人とか、急所を守るように鉄のプレートが付いているローブを着た人とか見た感じファステリアスの人よりも防御力が全体的に上がっているみたいだ。ウルフポンチョだとちょっと浮いちゃうかなぁ?
「そういえばここは鍛冶の街だったっけ?だから装備が金属系が多いのか」
お金は無いので鍛冶屋のお世話になる事は無いだろうけど、金属を扱えるようになれれば鍋とかも作れたりするかな?
「ま、僕にとっては街の施設は泉以外どうでも良いんだけどねー」
貧呪の魔硬貨を持ってるからお金が無い僕には街の施設を利用出来ない。だから街には泉以外に用が無いのだ
これで携帯出来る泉的な物とかが出てきた日には本格的に街が要らない子になってしまう。流石にまだ序盤だからそんな物は絶対無いとは思うが
「えっと、東の方だな」
まずは街を出て、東の方に向かう。やっぱりファステリアスと門とか壁のデザインが若干違うなぁ?
「よう、旅人さん。東の方に行くのか?」
「はい、なんかこっちの方に教会?があるらしいんで見てみようかと」
衛兵さんに話しかけられたので答える。ついでに何か教えてもらえるかな?
「あぁ、あの幽霊教会か……悪い事は言わない、近寄らない方が良いぞ?」
多分だけど「棄てられた教会」の事を幽霊教会って言ってるんだろう。近寄らない方が良いってどういう事だろう?
「近寄らない方が良いとは?」
「出るんだよ……亡くなったシスターの霊が」
「ほう?それはますます行ってみたくなりますね?」
幽霊シスターさんとか見てみたい。まともな教会に入れないならまともじゃない教会の普通じゃないシスターに会ってみたいという気持ちを分かってほしい
「やめとけやめとけ、遊びで行ったらそれこそ死んじまうぞ?」
「じゃあ外から教会を見るだけにしておきます」
注意は聞くだけだけど……
「その方が良い。この先荒野が広がっているし、あまり長居するのはオススメしないぞ?」
「忠告ありがとうございます。じゃあ行ってきます!」
「気を付けろよー?」
衛兵さんに見送られる。この先は荒野かぁ……だとするとハイエナとかハゲタカ的な奴が出てくるんだろうか?
「幽霊シスターねぇ……というか何で荒野の先に教会が建ってるんだろう?」
そもそもの話、周りが荒野なのになんで教会を建てたのかの意味とかも知りたい。もし、その幽霊シスターとお話出来るならそこん所の話とかも聞けるだろうか?
「ん?あれは……荒野だからこその光景なのかな?」
荒野に道は無い。だから門から出てきてずっと真っ直ぐ歩いていただけだけど、僕の視線の先にはコヨーテっぽい生物3匹と茶色いスライムが1匹戦っていた。数の不利を背負った戦いだ。何だか僕も最初の頃あんな戦いしてたなぁ?