ゲッコー
「よし!それじゃあやってみるか【魔糸生成】!」
強靭、伸縮、粘着の3つの要素を入れた糸を手から出す。シュルルーと糸が伸びていき、木に糸が張り付く。ヴァイア様が木を伐ってくれたお陰で邪魔をする物が無いから後はこの糸を引っ張れば反動であの木まで飛んでいける……はず
「いよっと!」
糸を思いっきり引っ張る。強靭と伸縮が入っているせいか結構引っ張るのに力が要る。だが、その反動たるやすさまじい
「ぬおぉ!?」
ばよ~んっと木に向かってふっ飛ぶ。流石に空中で飛ぶ軌道を変える事は出来ないので糸に飛ばされるまま、木に向かう
「あ、これダメだ」
体は上下逆さ、背中から木にぶつかる。背中から何かにぶつかるのは若干のトラウマがあるが、衝撃は少ない。ステータスが強くなったお陰だろうな……
「あはは……失敗しちゃったなぁ」
木に逆さまで簀巻き状態になった。粘着の要素を入れないと木に糸が張り付かないだろうと考えたは良いけど粘着の要素を入れた事でべったりと体に糸が絡みついた。糸を消滅させればすぐに降りられるけどちょっとこのまま考えよう。何が悪かったのか?
「んー、やっぱりただ引き寄せるだけだと制御が出来ないな……巻き取りの機構とかが無いと真っ直ぐ進むのは無理か」
糸の張り付いた部分に真っ直ぐ進むには糸を巻き取って進まないとカッコ良く進めずにこうなるって事だよなぁ
「そういえばアメリカンな映画とかも大体振り子移動してたし、直線的移動は流石に無理だったかぁ」
でも空中で木に糸を当てて振り子運動ってめっちゃ難しそう。だって糸が短かったら木に当たらないだろうし、長過ぎたら振り子運動中に地面に当たってダサい事間違いない
「やっぱりあれはビルとか高い建物とかがあるから出来るんだな……」
逆さ簀巻き状態で木に張り付きながら考えた結果。立体的機動は今の僕じゃ無用の長物、という結論が出た
『スキル 【三半規管強化】を入手』
『スキル 【登攀】【忍び歩き】【三半規管強化】【夜目】が複合進化スキル【ゲッコー】に進化しました』
「ん?」
逆さ簀巻き状態で考え事をしていたら新しいスキルが入手出来て更に進化した。なんぞこれ?
『【ゲッコー】 パッシブスキル 手足のどれか1か所でも付いていれば向きに関係無く、張り付く事が可能。移動する際の音が無くなり、暗い場所でも良く見える』
「欲張りセットだ……というかなんか苦しく無くなったな?」
逆さ簀巻き状態のハズなのに苦しさが無くなった。ひょっとして【三半規管強化】あぁ、もう【ゲッコー】か。それのお陰かな?
「とりあえず降りよう。消滅」
糸を消滅させて降りる……はずだったけど落ちない?
「あ、向き関係無く張り付くってこういう事?」
両足と左手が木に触っていた為か、糸が消えても僕の体は地面に落ちない
「もしかして……あぁ、絶対頭混乱しちゃう奴だこれ」
木の幹に立つ僕。地面と平行なのに僕の体は真っ直ぐ立てるし、重力の影響は受けていない感じだ
「ジャンプしたら……っと!やっぱりか」
木の幹からジャンプすると普通に地面に向かって落ちる。やっぱりくっ付いていないと普通に重力の影響を受けるんだね?
「歩いて木を登るとかも出来ちゃうのか……」
地面から歩いてそのまま木を登る……両手フリーで木を登れるのは凄いな?
「わお……」
木を歩き、遂に枝に向かって一歩を踏み出す。頭上に地面があるよ?【ゲッコー】凄すぎるな?
「この為に【三半規管強化】が必要だったのかな?」
こんなどこでも歩けるようなスキル、三半規管が強化されてなきゃそれこそ吐いちゃう
「走ればちょっとだけ足音が聞こえる程度の消音性か……いや、普通にこれで天井から走り寄れるとか考えたらヤバ過ぎる」
クセになっちゃったんだ足音消すの。一瞬、頭に天井を這うハスバさんの姿を想像してしまったが、恐怖しかないな?
「糸を使った移動が出来なくても【ゲッコー】があればかなり自由度高いよこれ?」
天井に張り付いて情報収集、強襲、壁際に追い込まれても多分壁を走って逃走なんかも出来るんじゃないかな?
「やっぱり失敗する事も大事だなぁ」
糸移動を試して失敗したけど失敗して改善を考えている間に【ゲッコー】を入手出来た。失敗してもタダでは起きないじゃないけど……
「テンプレ装備で遊んだりするもの良いかもだけど、やっぱり自分だけの装備とか、やり方を見つけるのって楽しいね!」
誰かがこれが強い、だからこれを使えという情報が無いからこそ手探りで色々試して色々発見出来るんだ。僕がもし、最初にアルターに来た時に枝で行き先を決めないで真っ直ぐ街に向かっていたら【ゲッコー】とか見つけられなかっただろうなぁ……
「あれ?ハチー?そんな所で何してるのー?」
「あ、ホーライ君。今新しいスキルを試してたんだよ」
ホーライ君が木を伐って邪魔な物が無くなった広場に降り立つ
「へぇ、すごーい!」
「ふふん、どーだ!」
他の人から見たら地面から見上げる白くて大きな鳥と木に逆さまでくっ付いているウルフポンチョという不思議な光景かもなぁ……